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34 竜の伴侶

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 ハーツの膝に触れて席を立ちたいと合図をしたら、背後に控えていた従者を一人付けてくれた。

「ヒロイ、彼はヴィルという。必ずどこへ行く時も彼を連れて行け。絶対に一人になるな。今日は朝方まで戻れない。先に部屋に戻って休んでくれ。鍵を忘れるなよ」

「分かった」

 ハーツは過保護だと思うけど、爬虫類の事もある。ハーツに心配をかけたくない。言いつけは守る。

 竜族の案内で席を立ち、サザリンドに礼をする。ずいぶん酔っているサザリンドは手を挙げて挨拶をくれたけど、覚えていないような気がする。

 宿泊先の建物の1階にある小さな部屋に通された。そこで従者と離れるように指示されて困る。

「ヒロイ様、これを」

 ヴィルに小さなボタンの様な装置を手渡された。小さくて手のひらに包み込めるサイズだ。

「獅子族にしか聞こえない音がする装置です。もし身の危険があるような時は押して下さい。離れるのは竜族の伴侶様をお守りする為です。本来人は我らを恐れるものですから」

「本当に? 人化していてもダメなの?」

 そう言うとヴィルは首を振る。

「部屋前に詰めておりますので。お気をつけて」

「分かった、ありがとう」

 ヴィルという名の人化した兵士を初めて目の前でしっかり見た。少しずつ人化した獣人の区別が付いて来た。基本は西洋人のマネキンに変化した者の特徴が加わる感じだと思えば分かりやすい。ヴィルの人化は元獅子らしく髪が茶色のくせ毛で丸めの輪郭で少し筋肉質だ。

 竜族の案内で部屋に入る。普通の応接間のような部屋の奥に蝋燭の火があって、外に面した窓辺に人影がある。

「初めまして、紘伊と言います」

 人であるアピールをしてみたら、人影が振り返ったようだった。

「ヒロイ?」

 声に聞き覚えがあると思ったら、駆けて来て抱きつかれてしまった。危なかった、ボタンを押しそうだった。

「ヒロイだ、本物だ」

 泣きながら抱きつかれて、上げた顔に見覚えがある。でも会ったのは一度きり。もう懐かしくも感じる。あの拘束されて連れて行かれた人間カフェで知り合った二人のうちのひとり。身分の高い獣人に身請けされると言っていたトオルだ。

「トオル?」

「うん、そうだよ」

 もう一度抱きつかれて、肩口で泣かれてる。本当にこの環境が嫌だったようだ。

「身請け先が気に入らない? 竜族は優しくしてくれない? それとも獣人自体が好きになれない?」

「ヒロイは嫌じゃない?」

「俺は——」

 従者がお茶とお菓子を運んで来た。トオルを落ち着かせて椅子に座らせる。従者が近づくとトオルの体が震えた。怖いのだろう。肩を抱いて慰めながら、従者が出ていくのを待った。

「そんなに怖いの?」

 そう聞いたらまた抱きつかれた。

「怖いよ! なんであいつら人の姿を模している? 俺らを怖がらせない為だって言われても気持ち悪いだろ? いっそそのままの姿の方が良い。変に気遣われるのも落ち着かない」

 確かに人化は気分が悪い。ハーツや部下達はそのままだったから気にしていなかったけど、言われてみれば不安を煽るやり方だ。

「理由は聞いたよ。人化すると元の気が多少抑えられるんだって。俺を怯えさせない為の工夫だって。分かるよ? 最初はサザリィにも近づけなかった。契約をしてやっとサザリィだけは大丈夫になった。でも他はまだ怖い」

 泣きながら訴えられて、その苦痛はわかる気はするけど。

 やはり紘伊は特別なようだ。初めから獣人を怖いとは思わなかった。爬虫類に痛めつけられても、ハーツへの信頼は失わなかった。トオルと何が違うのだろうかと思う。
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