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29 飛行騎

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 屋上にバツ印が付いていて、風を巻き込んで吹き荒れさせ、爆音を上げながら降りて来るヘリコプターのシーン。医療物のドラマでよく見る光景だ。

 それの異世界バージョンが目の前に広がっている。

「大丈夫か、ヒロイ」

 せっかくハーツが綺麗だ似合っていると褒めてくれた衣装が風に煽られてバサバサいっている。

「大丈夫だけど——」

 爆音の中だから叫んでいる。風は翻す翼により起こるもの。上空から降りて来る羽ばたきの風が向かって来る。ハーツに支えて貰っていなければ飛んで転がりそうだ。

「俺に竜が好きって聞いたの、これの事?」

 ホテルの最上階に降りて来たのはヘリコプターではなく2頭の竜だ。2頭の竜が半円形の乗り物を持ち上げて運んでいる、異世界バージョンの飛行機だ。

 はっきり言ってデカい。1頭がヘリコプターくらい。それが2頭いる。屋上に降り立ち、翼をしまえばおとなしい。あのうるさかった鳴き声もしなくなった。今は係の人に水と餌を貰っている所だ。

「ものすごく怖いんだけど、これなに?」

「ストムズ領から来た迎えの竜騎だ」

 ストムズ領は竜族の領地の名称だ。

「迎えって?」

 獅子の領地に行くんじゃないのか。

「竜を1頭譲って貰おうと連絡を入れたら選びに来いと言われたんだ」

 いや竜は好きっていうか、見たこともない架空生物だから興味があっただけなんだけど。でもすごいだろう? って得意げなハーツが可愛いから言わないでおく。

「すごいね、竜族に会えるの? 楽しみ」

 そう言うとムッとされる。どうやら答えを間違えたようだ。

「竜族に会いに行く訳ではない。竜を貰い受けに行くんだ」

 腕の中に抱き込まれてしまった。

「俺たちはこれからストムズ領に行って竜を得て、ウェルズ領へ向かう。その間にトマス達は荷物を領へ運び、新しい家へ向かう。初めての旅だよヒロイ」

 額にキスをされる。

「行こう、ヒロイ」

 手を繋いで歩き出す。
 近づくほど竜の大きさに圧倒される。係の人が近づいて餌をあげているから怖い生き物ではないと分かるのだけど、尾を振られただけで飛ばされそうだし、あの鋭い歯で襲い掛かられたら——思わずハーツの腕に抱きついてしまった。そうしたらハーツに微笑まれる。

「ヒロイはチグハグだな」

「どういう意味だよ」

「あんな竜よりも、俺の方がよっぽど怖い存在なのにという意味だ」

 ハーツを見上げて、竜と比べる。そりゃあ、力や能力、地位で言えばハーツは強いのだろうけど、竜の大きさは質量的に怖い。日本で一番大きな生物はゾウだろうか。でも檻に入れられて飼育されている。襲われる心配はした事がない。

「怖いからハーツに引っ付いてる。ハーツは俺を襲わないだろ?」

 肩を抱かれて引き寄せられた。見上げると嬉しそうに笑んでいる。

「別の意味では襲うけどな」

 嬉しそうなハーツは好きだけど、それは関係ないよね? 変に恥ずかしくなってしまった紘伊は、紅くなった頬を見られないように、ハーツに寄り添って隠した。
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