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50 泣き虫だね
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「旦那、マジでねえわ」
ウォルさんが車に乗った瞬間、ルフが嘆いた。
オレは門番に頼んで氷をもらい、頬を冷やしている。
「ユート?」
ラウが車を発車させる。
「おまえがついていながら、ユートさまに怪我をさせたのか?」
ラウが厳しい声をあげる。
「旦那、怒らないで下さいよ? なにせやったのは、あの人族ですから。油断したのは、俺の責任ですが」
「サクヤが?」
ウォルさんが膝を貸してくれて、頬の傷を見て、顔をしかめた。
「爪で傷がついたのか。痛かっただろう。悪かったな」
ウォルさんに謝られる。
なんで? ウォルさん、関係ないよね?
「サクヤさんにどう言ったの? もしかしたらサクヤさん、ウォルさんのこと、王子に人族を売りに来たって思ってない? 王子をオレに取られるって、思ったんだと思うよ?」
じゃなければ、あんなに怒るとは思えない。
「そんなことはないだろう。あの子は王子に愛されているし、ユートは俺の匂いが濃くついているよ」
「だって匂いなんてわからないんだよ? みんな匂いがって、匂いで全部判断してるけど、人族には言葉で伝えないと、わからないこと多いよ?」
オレはウォルさんを見上げてる。
もし本当にオレとサクヤを仲良くさせようという紹介だったのなら、ムリだと思う。
自分のテリトリーを侵害されたくない。やっとつかんだ幸せを、誰かに取り上げられたくない。
「オレだってウォルさんと握手してるの、嫌だなって思ったよ? ありえないってわかってても、取られたら嫌だって思うもん」
「悪かった」
うん、って頷く。
ウォルさんの膝から起き上がって、横に座り直す。手を繋いで、じっとウォルさんを見て、目を伏せた。
「ごめんなさい。サクヤさんに会う前に、マイロさんに会った」
ウォルさんの表情にかげりが見える。
「でも偶然だよ? オレのせいで捕まっちゃったから、ずっと謝りたくて。謝って、お礼言った」
「満足した? 見返してやりたかったんだろう?」
「そうだけど、苦しかった、かな」
頬に氷を当てて、涙をごまかす。
「ごめんね、ウォルさんが好きだよ。愛してる、でも、あの時は、好きだったから……」
「ユート、泣いて良いよ」
ウォルさんが肩を貸してくれて、手を握っていてくれるから、本当に悪いなって思うんだけど、泣くの我慢できなかった。
「ごめん、ごめんね、オレ、すごく幸せなのに、なんでだろう? 泣くの、止められない」
ウォルさんがハンカチを貸してくれて。
「泣いて良いよ? でも、今日で忘れて?」
「うん、大丈夫。きっとあの日のオレが泣いてるんだ、ごめんなさい、いまだけ……」
泣きながら、眠ってしまったようで、気づいたら、宿のベッドで眠ってた。
着替えもさせてくれてる。
なのにウォルさんがいない。
すごく寂しくて。
自分から探しに行って良いのかな?
またいなくなったって言われたらどうしよう?
長く離れるの、もう耐えられる気がしない。
ウォルさんが車に乗った瞬間、ルフが嘆いた。
オレは門番に頼んで氷をもらい、頬を冷やしている。
「ユート?」
ラウが車を発車させる。
「おまえがついていながら、ユートさまに怪我をさせたのか?」
ラウが厳しい声をあげる。
「旦那、怒らないで下さいよ? なにせやったのは、あの人族ですから。油断したのは、俺の責任ですが」
「サクヤが?」
ウォルさんが膝を貸してくれて、頬の傷を見て、顔をしかめた。
「爪で傷がついたのか。痛かっただろう。悪かったな」
ウォルさんに謝られる。
なんで? ウォルさん、関係ないよね?
「サクヤさんにどう言ったの? もしかしたらサクヤさん、ウォルさんのこと、王子に人族を売りに来たって思ってない? 王子をオレに取られるって、思ったんだと思うよ?」
じゃなければ、あんなに怒るとは思えない。
「そんなことはないだろう。あの子は王子に愛されているし、ユートは俺の匂いが濃くついているよ」
「だって匂いなんてわからないんだよ? みんな匂いがって、匂いで全部判断してるけど、人族には言葉で伝えないと、わからないこと多いよ?」
オレはウォルさんを見上げてる。
もし本当にオレとサクヤを仲良くさせようという紹介だったのなら、ムリだと思う。
自分のテリトリーを侵害されたくない。やっとつかんだ幸せを、誰かに取り上げられたくない。
「オレだってウォルさんと握手してるの、嫌だなって思ったよ? ありえないってわかってても、取られたら嫌だって思うもん」
「悪かった」
うん、って頷く。
ウォルさんの膝から起き上がって、横に座り直す。手を繋いで、じっとウォルさんを見て、目を伏せた。
「ごめんなさい。サクヤさんに会う前に、マイロさんに会った」
ウォルさんの表情にかげりが見える。
「でも偶然だよ? オレのせいで捕まっちゃったから、ずっと謝りたくて。謝って、お礼言った」
「満足した? 見返してやりたかったんだろう?」
「そうだけど、苦しかった、かな」
頬に氷を当てて、涙をごまかす。
「ごめんね、ウォルさんが好きだよ。愛してる、でも、あの時は、好きだったから……」
「ユート、泣いて良いよ」
ウォルさんが肩を貸してくれて、手を握っていてくれるから、本当に悪いなって思うんだけど、泣くの我慢できなかった。
「ごめん、ごめんね、オレ、すごく幸せなのに、なんでだろう? 泣くの、止められない」
ウォルさんがハンカチを貸してくれて。
「泣いて良いよ? でも、今日で忘れて?」
「うん、大丈夫。きっとあの日のオレが泣いてるんだ、ごめんなさい、いまだけ……」
泣きながら、眠ってしまったようで、気づいたら、宿のベッドで眠ってた。
着替えもさせてくれてる。
なのにウォルさんがいない。
すごく寂しくて。
自分から探しに行って良いのかな?
またいなくなったって言われたらどうしよう?
長く離れるの、もう耐えられる気がしない。
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