もふもふ好きにはたまらない世界でオレだけのもふもふを見つけるよ。

2 もふもふフレンド

「ミルル！」

　オレは待ち合わせをしていたリスのミルルを見つけると、駆け寄って抱きついた。胸元の毛皮に鼻を押しつけて、スーハーしたら嫌がられた。

「もうゆーちゃん、あいかわらずエッチ」

　ミルルはオスだけど、リスだからかとっても可愛い。オレとは孤児院の仲間で、歳はミルルがひとつ上。ミルルにはキツネさんの彼がいるよ。羨ましい。

　力の弱い種族ほど成人を迎えたらすぐに伴侶を持つ。獣人は伴侶を大事にしていて、浮気は絶対にしない。(はずなんだけど……)

　浮気に対する法は厳しい。
　あと未成年に対する性的行為も禁じられてるよ。

「ミルル、甘いの食べに行こ」

　手を繋いで歩く。
　獣人同士だと伴侶がいるかいないか匂いでわかるんだって。すごいね。

「ゆーちゃん、好きな相手、できた？」

　オレとミルルは身長も体つきも似ている。ただオレには尻尾も、ふさふさな胸の毛皮もない。悲しいから外を歩く時はフードを目深に被るか、帽子を被る。今日は長袖のパーカーで、フードを目深に被ってる。安いお店の獣人服はサイズが大きいから、オレもミルルもぶかぶか服だ。

　東門から中央の領主城の方へ歩いて行くと、街が栄えて来る。背の高い建物も増えるし、街の至る所に露店が出る。

　カフェのオープンテラスもあって、華やいだ中心街へと変わって行く。

「チョコケーキが食べたいな」

　オレが言うと、ミルルは頬を染めて小さく笑う。

「ボクは胡桃のケーキが良い」

「「アリシアオーブのお店！」」

　ふたりで同じ店名を言い、視線を合わせて一緒に笑った。

　さすが幼い頃からずっと一緒にいる友だちだ。考えることは同じ。チョコケーキと胡桃のケーキが置いてあって、おいしくて、可愛い装飾のお店がアリシアオーブ。

　人気のお店なので外に長く列ができる。その列を取り仕切る警備を、領の新兵が勤めることがあって、それを見ながら並ぶのも好きだけど。

「今日は並んでないね」

　店のある通りから見ても、外に列はできていない。

「うん」

　風が冷たくなって来た。本格的に寒くなると、ミルルはお家から出て来なくなる。

　種族によっては寒くなるとお仕事を休んで、暖かくなるまで閉じこもる。

　恋人とふたりで閉じこもる寒い日。
　オレの憧れだ。

「そんなにお客さんいないね。寒くなって来たからかな？」

　オレがそう言うと、ミルルは店のドアを開けてオレを先に通してくれた。暖かな空気に触れて、ホッとする。

「いらっしゃいませー、空いているお席にどうぞー」

　可愛いエプロンドレスの猫さんに案内される。

　淡いピンクで統一された室内。大型の獣人は見当たらない。

　可愛い女の子がぽつぽつと席を埋めている。

　ざわっと室内の空気が揺れた。

『人族の男よ？』

『どうしてここに？』

『場違いなの気づかないのかな？』

　子作りができない人族の男は嫌われる。
　身分の高い者は特に人族を嫌う。
　臭いとか、汚いとか、言う獣人もいる。特に女性に多い。

　東門の食堂は男が多い。たまに女性もいるけど、旅人か伴侶持ちが多いから、人族とか気にしていない。

「テイクアウトしようか？」

　ミルルの提案に、オレはうん、と頷いた。