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【3】復帰

8・黒竜の伴侶

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 ユーリの軍学校生活は一変していた。

 先生はユーリの席を教壇の前にし、いつも目の届く場所にいさせてくれるようになったし、ユーリの前で噂話をする生徒もいなくなった。むしろ羨望の眼差しで見られるようになったし、動けばユーリ専用の道が開けた。

 しかも次の日から健司がいて、寮の部屋も隣同士になった。
 食事は自室で取るようになったが、いつも健司が一緒にいてくれるから楽しくなった。

 今日は日当たりの良い中庭のベンチに座り、お茶とお菓子を用意して、健司とおしゃべりをしている。
 話題は昨日の軍事演習についてだ。誰もユーリにその話をしてくれなかったから気になっていた。

「あのね、竜って敵意を持つものがわかるんだって。どういうことかよくわからないけど、あの捕まった生徒は何かを企んでいたらしいよ。えらいよね、黒竜」

「へえ、そうなんだ」

 健司はあの生徒がユーリに毒を飲ませたことを、ギルバートに教えてもらって知っている。そのため、健司はユーリの護衛も兼ねて軍学校に入学した。

「あとね、すごいんだよ!」

 健司はユーリに向かい、人差し指を立ててる。

「あのね、黒竜ってば伴侶を見つけたらしいんだよ。あの時の観客席にいたって!」

「え? ってことは、この学校の生徒の中の誰かがってこと?」

 それはとてもすごいことなのでは? と、ユーリも健司と同じように頬を赤らめ気分を高めた。

「わからないけど、あの日、確実にいたんだって! でも国との約束で、たくさんの人の前で求愛行為を取るのは許されてなくて、黒竜は諦めて、でも早く会いたいから、帰ってすぐに竜王にお願いしたんだよ!」

「えーいいなあ。竜の求愛行動ってどんなの? 見てみたいなー」

 気分を上げてユーリがそう言えば、健司は首を傾げた。

「えーっていうかユーリはお断りしたんでしょ? 最上級の求愛をお断りしたくせにそんなこと言ったら、竜王様が可哀そうだよ」

 ユーリは健司にそう言われ、竜王を思い出す。黒髪の大きな体の畏れ多い竜の王様。

「でも俺の場合は王族で、少し意味合いが違うと思うんだ。選ばれる前から決められてるっていうか。俺が好きでこの髪と瞳の色に生まれた訳でもないし」

「ああ、わかった! 選ばれるのが良いんだね! わかるよ、すっごく嬉しくてはにゃにゃーんってなるよ」

「けんちゃんは青き竜が大好きなんだね」

 青き竜は健司の伴侶だ。とても仲睦まじく、健司の言うことは何でも聞くらしい。

「ねえユーリ、いったい誰なんだろうね? 黒竜が選ぶ相手だからね、将来、この国の王族関係者になるんだよ? もしかしたら王様になっちゃう可能性だってあるんだからね! そこのところ、わかってる?」

「ええ? そうなの? なんで?」

 ユーリは一瞬にしてふわふわだった気分がかわる。次期王はユーリの兄弟がなる。王はそうするだろう。

「なんでって、ユーリが竜王の求愛を断ったからだよ。ほんと、ユーリはこの国の王子なのに、竜事情に疎いよね」

「……だってそれはね……」

 ずっとわがままばかり言って勉強していませんでした。好きな人のことばかりで、死ねないのに死ぬようなことばかり繰り返して。本当に馬鹿な王子だったと思う。

「でも良いんだ! 今のユーリのこと大好きだから。知っていること教えてあげるからね。一緒に黒竜の伴侶を探そうね」

「でも見つけちゃったら王位争いが起こるかも、なんだよね?」

「仕方ないよ。だってユーリが王位継承権放棄しちゃったんでしょ? そういうの、想定してなかったー……んだろうね、ユーリは」

 ユーリの軽い行動が王位争いに繋がる。ユーリは自分が王にならないのなら、兄弟のどちらかが選ばれると単純に思っていて、それが当然だと思っていた。王もそう思っているはず。

「でも大丈夫だよ、ユーリ。ユーリがすっごく出来た王子だったとしたら、ユーリは今頃生きていなかったと思うんだ。馬鹿な王子だったから誰も見向きもしなかっただけ。兄弟が多ければ多いほど世代交代は荒れるに決まってる。逆に今は突出して優秀な王子もいないからね。誰がなっても同じーって思われてるよ」

 健司は日本の学生だ。この国には竜以外にかかわりがない。
 ユーリと一緒に軍学校に通ってくれているのは、ユーリを心配したギルバートが頼んだからだ。
 もしかしたらギルバートに頼んだのはレティウスかもしれないと、ユーリはレティウスを想った。
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