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【第三部】堅物騎士団長に溺愛されている変装令嬢は今日もその役を演じます
2.無理があります
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「エレン。あなた、こんな荷物が届いているのだけれど」
リガウン家の屋敷で、義母が手にしているのは学院の制服。何もこっちに届けなくてもいいのにと思う。兄たちからの嫌がらせとしか思えない。普通にあっちへいったときに渡してくれればいいのに。
「実は、お義母様……」
学院に通う羽目になってしまったことを、エレオノーラは端的に義母に説明した。任務ではあるけれどその辺のことは濁して。
「まあ、そうなのね。あなたもまだ若いのだから、勉学に励むもいいかもしれないわね。学院だったらここから通えますしね」
ここから通う、となると、制服姿をジルベルトに見られてしまうということか。なぜか微妙に恥ずかしい。微妙どころではない。猛烈に恥ずかしい。
「どうしたの? エレン」
「いえ、なんか。制服を着るのが恥ずかしいといいますか。ええ、恥ずかしいのです。恥ずかしい以外の言葉が思い浮かびません」
「大丈夫よ、あなたになら似合うわ。制服が似合うというのも若さの特権よ。ほら、あのジルがこの学院の制服を着ているところを想像してごらんなさい。似合わないから」
そう言われ、想像してしまう。うん、間違いなく似合わない。
「では、早速合わせてみましょうね」
あれ、いつの間にそんな話になったのだろう。義母が乗り気なのが怖い。そしていつの間にか後ろで待機しているパメラ。何やら不敵な笑みを浮かべている。
エレオノーラは半強制的に学院の制服を着せられた。自分が学院在学中には一度も袖を通したことがなかった制服だ。一目見て学院の生徒であることがわかる制服。白いブラウスに紺のジャケット。女子生徒はスカートかズボンを選べるらしいが、スカートを準備してきたところを見ると、回し蹴り封印のためだろう。だが、スカートでも回し蹴りはできる。
「やっぱり、エレンなら膝を出したいところね」
じーっとエレオノーラの下半身を見つめている義母。その理屈がわからない。
「そうですね。その方が似合うと思うのですが」
なぜか賛同しているパメラ。義母とパメラのコンビは危険すぎる。
「やっぱり、このくらいかしら?」
義母がスカートの裾を持ち、膝上五センチくらいの高さに合わせる。ツライ。中身が十八なだけに、この丈はツライ。
「何を、やっている?」
聞き慣れた声が聞こえてきた。振り返らなくてもわかる。そして、その口調からちょっと怒っていて、ちょっと驚いていることもわかる。
「あら、今日は早かったのね」
と義母が能天気な声をあげた。
「あ、ああ。まあ。それで何をしているのでしょうか?」
息子が母に問うている。
「エレンがね。学院に通うことになったんですって。制服が届いたからサイズを合わせていたのよ。どう? スカートの丈はこのくらいが可愛いわよね?」
穴があったら入りたいとはまさしくこれのこと。エレオノーラのスカートの裾は、パメラによって針で固定されていた。ちょっと若さを誤魔化しきれない膝小僧が出ている。
「ダメだ。そもそも膝が出ている」
つっこむところはそこですか? いや、そこなんだろうけど。淑女が膝を出すなんてもってのほかですよね。
「膝下十五センチ」
言い捨てるとジルベルトはくるりと向きをかえて、その部屋を出て行った。
「まったく。本当に頭が硬いんだから」
という義母の呟きは聞かなかったことにしよう。結局スカートの丈は膝下十五センチに決まった。
「まあ、可愛いわね」
と言う義母の声で我に返る。
「こんな感じでいかがでしょう?」
と言うパメラ。パメラの言うこんな感じがわからない。姿見で確認すると、見事にツインテールにされていた。しかも几帳面に赤いリボンが二つ揺れている。
「えっと、この人は誰、ですかね?」
「エレオノーラね」
彼女の両肩に手を添えた義母が満足そうにのぞき込んでくる。
「よくお似合いです」
パメラも満面の笑み。
笑顔を浮かべられないのはエレオノーラだけ。鏡の中に映る自分は、自分ではない。誰だ? エレオノーラの変装術を上回るような変装術に思える。だが、大して変装はしていない。普段の顔に制服を着て、髪型を少し変えただけ。
そこへ運良くなのか、運悪くなのか、着替えを終えたジルベルトが現れた。ジルベルトにとっては運良く、エレオノーラにとっては運悪く、が正解だろう。
「エレン。準備が終わったのであれば、話があるのだが」
と遠慮なく近づいてくる人物がいる。間違いなく夫であるジルベルト。少しは遠慮して欲しいものだ。
「どう? かわいいでしょ?」
義母がエレオノーラの背中をずずっと押した。
「え、エレン、なのか?」
疑問形、そこで疑問形。そうですよね。これでは一介の騎士には見えませんよね。
みるみるとジルベルトの顔が赤く染まっていく。それを誤魔化すように、ゴホンと咳払いをすると。
「けしからん」
と言って、エレオノーラをいきなり横抱きにして、部屋をダッシュで出ていく。
「ジル。そのままエレンを襲ったら犯罪ですからね」
というわけのわからない義母の声が届いてきた。
そのままエレオノーラは自室に連れ込まれ、ベッドに押し倒された。
リガウン家の屋敷で、義母が手にしているのは学院の制服。何もこっちに届けなくてもいいのにと思う。兄たちからの嫌がらせとしか思えない。普通にあっちへいったときに渡してくれればいいのに。
「実は、お義母様……」
学院に通う羽目になってしまったことを、エレオノーラは端的に義母に説明した。任務ではあるけれどその辺のことは濁して。
「まあ、そうなのね。あなたもまだ若いのだから、勉学に励むもいいかもしれないわね。学院だったらここから通えますしね」
ここから通う、となると、制服姿をジルベルトに見られてしまうということか。なぜか微妙に恥ずかしい。微妙どころではない。猛烈に恥ずかしい。
「どうしたの? エレン」
「いえ、なんか。制服を着るのが恥ずかしいといいますか。ええ、恥ずかしいのです。恥ずかしい以外の言葉が思い浮かびません」
「大丈夫よ、あなたになら似合うわ。制服が似合うというのも若さの特権よ。ほら、あのジルがこの学院の制服を着ているところを想像してごらんなさい。似合わないから」
そう言われ、想像してしまう。うん、間違いなく似合わない。
「では、早速合わせてみましょうね」
あれ、いつの間にそんな話になったのだろう。義母が乗り気なのが怖い。そしていつの間にか後ろで待機しているパメラ。何やら不敵な笑みを浮かべている。
エレオノーラは半強制的に学院の制服を着せられた。自分が学院在学中には一度も袖を通したことがなかった制服だ。一目見て学院の生徒であることがわかる制服。白いブラウスに紺のジャケット。女子生徒はスカートかズボンを選べるらしいが、スカートを準備してきたところを見ると、回し蹴り封印のためだろう。だが、スカートでも回し蹴りはできる。
「やっぱり、エレンなら膝を出したいところね」
じーっとエレオノーラの下半身を見つめている義母。その理屈がわからない。
「そうですね。その方が似合うと思うのですが」
なぜか賛同しているパメラ。義母とパメラのコンビは危険すぎる。
「やっぱり、このくらいかしら?」
義母がスカートの裾を持ち、膝上五センチくらいの高さに合わせる。ツライ。中身が十八なだけに、この丈はツライ。
「何を、やっている?」
聞き慣れた声が聞こえてきた。振り返らなくてもわかる。そして、その口調からちょっと怒っていて、ちょっと驚いていることもわかる。
「あら、今日は早かったのね」
と義母が能天気な声をあげた。
「あ、ああ。まあ。それで何をしているのでしょうか?」
息子が母に問うている。
「エレンがね。学院に通うことになったんですって。制服が届いたからサイズを合わせていたのよ。どう? スカートの丈はこのくらいが可愛いわよね?」
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「ダメだ。そもそも膝が出ている」
つっこむところはそこですか? いや、そこなんだろうけど。淑女が膝を出すなんてもってのほかですよね。
「膝下十五センチ」
言い捨てるとジルベルトはくるりと向きをかえて、その部屋を出て行った。
「まったく。本当に頭が硬いんだから」
という義母の呟きは聞かなかったことにしよう。結局スカートの丈は膝下十五センチに決まった。
「まあ、可愛いわね」
と言う義母の声で我に返る。
「こんな感じでいかがでしょう?」
と言うパメラ。パメラの言うこんな感じがわからない。姿見で確認すると、見事にツインテールにされていた。しかも几帳面に赤いリボンが二つ揺れている。
「えっと、この人は誰、ですかね?」
「エレオノーラね」
彼女の両肩に手を添えた義母が満足そうにのぞき込んでくる。
「よくお似合いです」
パメラも満面の笑み。
笑顔を浮かべられないのはエレオノーラだけ。鏡の中に映る自分は、自分ではない。誰だ? エレオノーラの変装術を上回るような変装術に思える。だが、大して変装はしていない。普段の顔に制服を着て、髪型を少し変えただけ。
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「どう? かわいいでしょ?」
義母がエレオノーラの背中をずずっと押した。
「え、エレン、なのか?」
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「けしからん」
と言って、エレオノーラをいきなり横抱きにして、部屋をダッシュで出ていく。
「ジル。そのままエレンを襲ったら犯罪ですからね」
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