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彼女の真実(2)

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 結局フローラは、屋敷の中へと戻されてしまった。だが、いつもと違うのは案内された部屋。
「ここは?」
 フローラが尋ねると、嬉しそうにクリスは答える。
「私の部屋です」
 しかもクリスはしっかりと人払いまで済ませてしまう。お茶をささっと淹れた優秀な執事は、満足したような笑みを浮かべ、一礼して立ち去っていく。彼の屋敷の使用人は、こういうところが優秀過ぎて、フローラとしては非常に困るところの一つでもある。

「では、フローラ。先ほどの話の続きをお願いします」

「あ、はい」
 クリスがフローラの隣に密着するかのように座っているため、あの話をするにはふさわしくないような状況にも見えるのだが、フローラが少し距離を取ろうと思って座り直すと、クリスも少しでも離れたくないというようにくっついて座り直すため、あきらめた。

「あの……」
 と、やっと本題にはいったフローラは、先ほどのジェシカが隣国へ行く話について、詳しく説明をした。
 途中までは、聞いていません、というような飄々とした表情をしていたクリスだが、話が核心に触れるにつれ、その顔を曇らせる。

「クズですね」
 話を聞き終えたクリスが、お茶を一口飲んで、そう言葉を吐いた。
「世の中、クズが多すぎる」

「ジェシカ様は隣国に行くことを望まれています。ですから、私はその手助けをしたいと思っております」

「ですが、彼らの狙いはその王女の縁談を失敗させること、つまり王女がアリハンスに行かない、と言わせるために仕組んだこと」

「はい。それはジェシカ様も理解されております。ですから逆に、何が何でも今回の外交を成功させたい。そう思っております」

「今回の件、我々魔導士団の方には、話がきていませんが」

「はい。それもあちらの策略の一つだと思うのですが。今回はジェシカ様の外交であるため、魔導士まで連れて行くと体裁が悪いとかなんとか、という理由だそうです」

 体裁のために王女の命を危険に晒す、ということか。いや、王女にその外交を断ってもらうための屁理屈だろう。

「それで、クリス様にお願いと言いますか、ご相談があるのですが」
 フローラが顔をクリスの方に向けると、鼻先が彼の髪に触れた。それだけ距離が近いのだ。

「なんでしょう」
 クリスが振り向いて言うものだから、彼の息がふっと頬にかかった。だから、つい頬が熱を帯びてしまう。

「私は、回復魔法が使えるようになりますか?」

 クリスからは、この世界の魔法は四元論が基本で成り立ち、そこに属さない光と闇がある、ということを教えてもらった。光は治癒、闇は呪い、という特殊な属性だ。
 クリスは彼女の問いに少し目を丸くしたが、視線をテーブルに戻した。言うべきか言わぬべきか。彼は悩んでいた。

 以前、フローラからブレナンを紹介されたとき。彼はフローラの魔力の変化に気付いていた。その原因がクリスにあることさえも見抜いていた。
 さすが、魔法騎士での一番の古株であり、彼女の父親のような存在だけある。
 あの後、フローラには聞かれたくない話をブレナンと二人でしたのだが、あのブレナンでさえも彼女の魔力は計り知れないと言っていた。もちろん、それはクリスも感じていたことで。

「あなたが魔法を使えるようになったのは、一年と少し前ですよね」
 クリスが前を向いているため、もう彼の息はフローラにはかからない。それが少し寂しいと思えることも不思議だった。

「はい」
 フローラも膝の上で揃えた両手を見つめながら答えた。この雰囲気は、初めてクリスと顔を合わせたあのときと似ている。どことなく、ピンと張りつめた空気が漂っているのだ。あのときと違うのは、すぐ隣に彼の体温を感じるということ。あの日はもう少し離れて座っていた。

「なぜ、あなたが急に魔法を使えるようになったのか。その理由をブレナン殿と考えていました」

 フローラは隣に視線を向けることなく、そうなんですね、と口にした。クリスとブレナンがこそこそと会っていることになんとなく気付いていたからだ。それが、自分のせいである、ということもなんとなくわかっていた。

「フローラ」
 彼女の名を呼ぶその声が、少し震えているようにも聞こえた。
「あなたは一年と少し前に、あの男と身体を繋げましたね」
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