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彼女の真実(1)
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こうやってフローラがクリスの屋敷にやって来ることも、何度目になるのかわからなくなっていた。
クリスはいつもフローラの顔を見ると、嬉しそうにニコニコと笑顔を浮かべるし、彼の屋敷で働いている使用人たちも、どことなくそわそわとしていた。
フローラがクリスの屋敷にやって来る目的の一つは、彼から魔法を教えてもらうこと。
以前は三属性しか扱うことができなかった彼女だが、いつの間にか四属性の魔法を習得していた。つまり、彼女は特級魔導士と同等の実力を備えていた、ということだ。だがクリスはそのことをフローラには伝えていない。だからフローラ自身は、自分がクリスと並ぶ特級魔導士であることに気付いていない。
「あの、クリス様」
いつもの裏庭でクリスと向かい合っていたフローラは、難しい表情を浮かべていた。それは、あのジェシカの護衛として隣国へ行かねばならないこと、数日間会えなくなること、それをきちんと伝えなければならない、という気持ちがあったから。
それと同時にクリスにお願いしたいことも。
「あの、私。ジェシカ様の護衛として、隣国のアリハンスに向かうことになりました。出立は四日後です」
フローラがはっきりとそれを口にすると、クリスの顔が歪んだ。
「アリハンスまでは、馬車で十日かかりますね。向こうの滞在期間を考えると、一月程会えなくなる、ということになりますね」
歪んだ表情のままそのように淡々と言葉を口にするクリスが、フローラにとっては少し恐ろしいとも思えた。
「いえ、クリス様。今回はアリーバ山脈を越えるルートでアリハンスへと向かいます。ですから、もう少し早めに戻ってくることはできるかと思うのですが」
アリーバ山脈を越える、とフローラが口にしたときに、再びクリスの顔が歪んだ、ように見えた。
「あのアリーバ山脈を越えるのですか?」
クリスがじろりとフローラを見下ろす。はい、と頷いてフローラは彼を見上げる。
「あの王女が一緒なのですよね?」
「はい」
「誰がそのような愚行を提案したのでしょうか」
「やはり、クリス様もそう思われますよね」
ため息とともに、フローラはその言葉を吐き出した。ジェシカが危険を冒してまで隣国にまで足を運ばねばならない理由を、クリスにはきちんと説明しなければならないだろう。フローラは首を大きく振ってあたりを見回した。
「どうかしましたか」
フローラのその動きを目にしたクリスは鋭く声をかける。少し怒っているようにも聞こえるその声色。
「あ、いえ。どこか座ってお話できるところがないか、と思いまして」
何もない裏庭には何もない。まして座って優雅にお茶を飲めるような場所など。
「つまり、あなたの話は長くなる、ということですね」
「え、と。まあ、そう、ですね」
ふむ、とクリスは右手で顎をさすった。結局、魔法の練習と言うのは彼女をこの屋敷に正々堂々と呼びつけるための口実のようなものだ。四属性を使いこなせるようになった彼女に教えることなど、もう、とっくに無くなっていた。今は、新しい術式の考案方法を教えたり、彼女が考案した術式を見せてもらったり、そういうことをしている。だから、必ずしもこの時間が重要かと問われるとそうでもない、というのが正解。
「では、中に戻りましょう」
「え、と。クリス様。その、今日の分の魔法の指導については?」
「ありません。ちょうどいい。あなたの魔法についても私から伝えたいことがあったのです。今日は、その時間に当てましょう」
さあ、とクリスが右手を差し出してきた。これは、この手をとりなさい、という彼からの無言の指示。初めの頃は慣れなかったそれだけれど、クリスと四月も一緒にいれば彼という人となりがわかってくる。ゆっくりとフローラはその手をとった。先ほどまで歪んでいたクリスの顔がふっと和らいだ。だからフローラも安心して、顔をほころばせた。するとクリスは困った表情をした。彼がどうしてそのような表情をするかわからないフローラは少し首を傾けるしかなかった。
クリスはいつもフローラの顔を見ると、嬉しそうにニコニコと笑顔を浮かべるし、彼の屋敷で働いている使用人たちも、どことなくそわそわとしていた。
フローラがクリスの屋敷にやって来る目的の一つは、彼から魔法を教えてもらうこと。
以前は三属性しか扱うことができなかった彼女だが、いつの間にか四属性の魔法を習得していた。つまり、彼女は特級魔導士と同等の実力を備えていた、ということだ。だがクリスはそのことをフローラには伝えていない。だからフローラ自身は、自分がクリスと並ぶ特級魔導士であることに気付いていない。
「あの、クリス様」
いつもの裏庭でクリスと向かい合っていたフローラは、難しい表情を浮かべていた。それは、あのジェシカの護衛として隣国へ行かねばならないこと、数日間会えなくなること、それをきちんと伝えなければならない、という気持ちがあったから。
それと同時にクリスにお願いしたいことも。
「あの、私。ジェシカ様の護衛として、隣国のアリハンスに向かうことになりました。出立は四日後です」
フローラがはっきりとそれを口にすると、クリスの顔が歪んだ。
「アリハンスまでは、馬車で十日かかりますね。向こうの滞在期間を考えると、一月程会えなくなる、ということになりますね」
歪んだ表情のままそのように淡々と言葉を口にするクリスが、フローラにとっては少し恐ろしいとも思えた。
「いえ、クリス様。今回はアリーバ山脈を越えるルートでアリハンスへと向かいます。ですから、もう少し早めに戻ってくることはできるかと思うのですが」
アリーバ山脈を越える、とフローラが口にしたときに、再びクリスの顔が歪んだ、ように見えた。
「あのアリーバ山脈を越えるのですか?」
クリスがじろりとフローラを見下ろす。はい、と頷いてフローラは彼を見上げる。
「あの王女が一緒なのですよね?」
「はい」
「誰がそのような愚行を提案したのでしょうか」
「やはり、クリス様もそう思われますよね」
ため息とともに、フローラはその言葉を吐き出した。ジェシカが危険を冒してまで隣国にまで足を運ばねばならない理由を、クリスにはきちんと説明しなければならないだろう。フローラは首を大きく振ってあたりを見回した。
「どうかしましたか」
フローラのその動きを目にしたクリスは鋭く声をかける。少し怒っているようにも聞こえるその声色。
「あ、いえ。どこか座ってお話できるところがないか、と思いまして」
何もない裏庭には何もない。まして座って優雅にお茶を飲めるような場所など。
「つまり、あなたの話は長くなる、ということですね」
「え、と。まあ、そう、ですね」
ふむ、とクリスは右手で顎をさすった。結局、魔法の練習と言うのは彼女をこの屋敷に正々堂々と呼びつけるための口実のようなものだ。四属性を使いこなせるようになった彼女に教えることなど、もう、とっくに無くなっていた。今は、新しい術式の考案方法を教えたり、彼女が考案した術式を見せてもらったり、そういうことをしている。だから、必ずしもこの時間が重要かと問われるとそうでもない、というのが正解。
「では、中に戻りましょう」
「え、と。クリス様。その、今日の分の魔法の指導については?」
「ありません。ちょうどいい。あなたの魔法についても私から伝えたいことがあったのです。今日は、その時間に当てましょう」
さあ、とクリスが右手を差し出してきた。これは、この手をとりなさい、という彼からの無言の指示。初めの頃は慣れなかったそれだけれど、クリスと四月も一緒にいれば彼という人となりがわかってくる。ゆっくりとフローラはその手をとった。先ほどまで歪んでいたクリスの顔がふっと和らいだ。だからフローラも安心して、顔をほころばせた。するとクリスは困った表情をした。彼がどうしてそのような表情をするかわからないフローラは少し首を傾けるしかなかった。
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