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二人の秘密(1)

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 胡散臭そうにノルトに睨まれたクリスは、気付かない振りをした。彼が言いたいことというのはなんとなく心当たりがある。
 次の魔獣討伐で使えるように、魔石に魔力を溜めて欲しいと言い出したのは団長であるノルトのくせに、その邪魔をしようとしているのか、じーっとクリスの方を見つめていた。気になって仕事にならない、わけではないけれど、恐らく彼はクリスの方から口を開くのを待っているのだろうと思う。仕方ないので、それにのってやることにする。

「何か御用でしょうか」
 魔石から目を離さずにクリスは尋ねた。

「やったのか?」

 まったく下品な上司だ、というのがクリスの率直な想いではあるのだが、それに気付かない振りをする必要もあると思っていた。

「何を、ですか?」

「だから、お前は彼女を抱いたのか? 彼女からお前の魔力を感じる。そりゃもう、ぷんぷんとだな」

「あなたがそう感じるということはそういうことなんでしょうね。まあ、他にそのことに気付くような人物もいないと思われるため、あえて口にはしませんが」

「それがいたんだよ」

 はぁ、と頭を抱えながら、ノルトは空いている椅子に適当に座った。しかも背もたれを抱きかかえる形で座る。普通に座れないのだろうか。

「ブレナンが血相を変えて俺んとこに飛んできたんだよ」

 ブレナン。その名をクリスは耳にした事はあるのだが、どのような人物で何をしている者かということまでは思い出せない。

「そのブレナンとは、どちら様ですか?」

 だからクリスはそう聞いた。

「お前なぁ……。フローラ嬢の上官その二だ。彼女は護衛騎士隊でありながら魔法騎士だからな。その魔法騎士の一番の古株だ。そりゃもう、フローラ嬢を目に入れても痛くないくらい可愛がっている」

「まるで父親のようですね」

「そりゃそうだ。ブレナンとフローラ嬢は親子くらい年が離れているからな」

「では、彼女のお父様にご挨拶に伺った方がよろしいですかね。娘さんをください、と」

「お前もそういう冗談は言えるようになったんだな」

 はは、と乾いた笑いを浮かべているノルトは、どこか困ったような表情を浮かべていた。クリスはまだまだ魔石に魔力を送りこむ必要があるため、視線は手元の魔石に向けたままだ。だから、彼のその困ったような表情を目にしたわけではないが、なんとなくそうなんだろうと悟っただけ。

「まあ、そのお父さんではなく、ブレナンがだ。お前が無理やりフローラ嬢を抱いたのではないかということで、苦情を入れてきた」

「強姦ではありません。合意の元ですとお伝えください」

「一応な。俺からはそう伝えておいたが、どうやらフローラ嬢が別な騎士と付き合ってたっていうのは、あの騎士団では周知の事実だったらしいな」

「でしたら、それと別れて私と付き合っていることを公表してください。むしろこちらは国の政策の一つですからね。陛下からの命令ですとお伝えください」

 珍しく、クリスが鼻息荒く、ふんと言った。そして陛下からの命令であると口にした彼ではあるが、今では彼女に会うのも彼女を抱くのも、自分の意思だ。むしろ、彼女を他の男には渡したくない、という思いもある。

「それは、お前はいいかもしれんが、彼女は嫌がるだろう? まあ、気付いたのはあのブレナンだったからな、俺からそれとなく説明しておいたが。まあ、気をつけろってことを言いたいだけだ」

 そう言われても、一体何に気を付けるべきなのか全く心当たりのないクリスは「そうですか」としか答えることができなかった。
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