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初めてのデート(1)
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フローラは噴水の前で人を待っていた。もちろん待ち合わせの相手はクリス・ローダー。不思議なもので、いつの間にか休みの日の予定が決まっていた。その予定はもちろん、クリスと会うこと。お互いの住んでいるところも知らない二人は、周りの手腕によって、勝手に待ち合わせ場所と時間を決められていた。それが、関係者から関係者に伝わり、最終的には対象の二人に伝わる、という流れ。
実は、サミュエルと付き合っていた時は、あまりこういった外出をしたことが無かったフローラ。彼と会うときは、お互いの家。どちらの家、という決まりはないけれど、あっちの家に行ったりこっちの家に来たり。だけど、最終的な彼の目的はいつも同じ。一夜を過ごして、だらだらとするだけ。だからプロポーズもあの時だったのだ。
フローラはそわそわとしていた。お付き合いをしている男性と、このような青空の下で共に肩を並べて歩く、ということに。
「お待たせしてしまって、申し訳ありません」
という言葉と共に現れたクリスは、初めて会った時と同じ魔導士のローブ、のわけはなかった。平服。シャツにジャケット、そして黒の綿パン姿。一瞬、誰かわからなかったほど。それに引き換えフローラは、無難なワンピース姿。それに一枚、上着を羽織っている。髪型も仕事中は一つにまとめているそれであるが、今日はハーフアップにしてきた。
「あ、いえ。私も今、来たところですから」
「いえ、あなたは待ち合わせの時間よりも30分も早く、ここに着いたはずです」
「え」
それは事実。クリスを待たせては悪いという気持ちと、初めてこういった外で歩くという行為に気持ちが昂ってしまい、待ち合わせの時間よりも早めにここに着いてしまったのだ。
「どうして、それを?」
フローラは驚き、理由を尋ねた。
「私はあなたよりも10分前にこちらに来ていましたから。そして、あそこであなたの様子をじっと見ていました」
「え。そうだったんですか。気が付かなくてごめんなさい。その、クリス様がいつもと服装も違っていて、その雰囲気も違うので」
「いえ。私もあなたに気付かれないように隠れていましたから」
隠れていた、という言葉が気になるところ。
「早く来ているのでしたら、その、お姿を早くお見せしてくれればよかったのに」
「私を待っているあなたを見るのが、とても楽しくて嬉しかったもので、つい」
「あの。私、変ではありませんでしたか? その、クリス様をお待ちしている間」
と、両手で髪の毛を整えようとする仕草。
「いいえ、とても可愛らしかったです」
とクリスが口にすると、またフローラの顔はみるみるうちに赤くなってしまう。本当につい最近まで彼氏がいた女性か、と疑いたくなってしまうほど、彼女の反応は初心だった。
「では、行きましょうか」
とクリスは右手を差し出した。
「え、と。どちらに?」
フローラは尋ねてしまった。ここでクリスと待ち合わせをして彼に会いなさい、という宰相の言葉を回り巡ってアダムから聞いたのだが、その後のことは何も聞いていない。
「どこか、行きたいところはありますか?」
クリスは差し出した手を引っ込めるようなこともせず、そのまま尋ねた。
「え、と。ごめんなさい。あの、このようなことが初めてで。その、どこへ行ったらいいかということもまったくわからないのです」
「そうですか」
ふむ、とクリスは唸った。結婚を考えていた彼氏がいたとは思えない反応だ。そもそも前の彼氏とは出掛けなかったのだろうか。
「では、今日は私の行きたいところでもよろしいでしょうか」
「あ、はい。是非、お願いします」
「でしたら、こちらの手を取ってくださると、私も非常に助かるのですが」
「え、と。その。あの、クリス様と手を繋ぐ、ということでしょうか?」
「そうなりますね」
ちょっと困惑したフローラだが、失礼します、と言ってからクリスの手をとった。彼の手は少し骨ばっていて、大きな手だった。
「フローラの手は、冷たいですね」
「あ、すいません」
それは恐らく緊張しているから。
「いえ」
二人は並んで歩いた。
実は、サミュエルと付き合っていた時は、あまりこういった外出をしたことが無かったフローラ。彼と会うときは、お互いの家。どちらの家、という決まりはないけれど、あっちの家に行ったりこっちの家に来たり。だけど、最終的な彼の目的はいつも同じ。一夜を過ごして、だらだらとするだけ。だからプロポーズもあの時だったのだ。
フローラはそわそわとしていた。お付き合いをしている男性と、このような青空の下で共に肩を並べて歩く、ということに。
「お待たせしてしまって、申し訳ありません」
という言葉と共に現れたクリスは、初めて会った時と同じ魔導士のローブ、のわけはなかった。平服。シャツにジャケット、そして黒の綿パン姿。一瞬、誰かわからなかったほど。それに引き換えフローラは、無難なワンピース姿。それに一枚、上着を羽織っている。髪型も仕事中は一つにまとめているそれであるが、今日はハーフアップにしてきた。
「あ、いえ。私も今、来たところですから」
「いえ、あなたは待ち合わせの時間よりも30分も早く、ここに着いたはずです」
「え」
それは事実。クリスを待たせては悪いという気持ちと、初めてこういった外で歩くという行為に気持ちが昂ってしまい、待ち合わせの時間よりも早めにここに着いてしまったのだ。
「どうして、それを?」
フローラは驚き、理由を尋ねた。
「私はあなたよりも10分前にこちらに来ていましたから。そして、あそこであなたの様子をじっと見ていました」
「え。そうだったんですか。気が付かなくてごめんなさい。その、クリス様がいつもと服装も違っていて、その雰囲気も違うので」
「いえ。私もあなたに気付かれないように隠れていましたから」
隠れていた、という言葉が気になるところ。
「早く来ているのでしたら、その、お姿を早くお見せしてくれればよかったのに」
「私を待っているあなたを見るのが、とても楽しくて嬉しかったもので、つい」
「あの。私、変ではありませんでしたか? その、クリス様をお待ちしている間」
と、両手で髪の毛を整えようとする仕草。
「いいえ、とても可愛らしかったです」
とクリスが口にすると、またフローラの顔はみるみるうちに赤くなってしまう。本当につい最近まで彼氏がいた女性か、と疑いたくなってしまうほど、彼女の反応は初心だった。
「では、行きましょうか」
とクリスは右手を差し出した。
「え、と。どちらに?」
フローラは尋ねてしまった。ここでクリスと待ち合わせをして彼に会いなさい、という宰相の言葉を回り巡ってアダムから聞いたのだが、その後のことは何も聞いていない。
「どこか、行きたいところはありますか?」
クリスは差し出した手を引っ込めるようなこともせず、そのまま尋ねた。
「え、と。ごめんなさい。あの、このようなことが初めてで。その、どこへ行ったらいいかということもまったくわからないのです」
「そうですか」
ふむ、とクリスは唸った。結婚を考えていた彼氏がいたとは思えない反応だ。そもそも前の彼氏とは出掛けなかったのだろうか。
「では、今日は私の行きたいところでもよろしいでしょうか」
「あ、はい。是非、お願いします」
「でしたら、こちらの手を取ってくださると、私も非常に助かるのですが」
「え、と。その。あの、クリス様と手を繋ぐ、ということでしょうか?」
「そうなりますね」
ちょっと困惑したフローラだが、失礼します、と言ってからクリスの手をとった。彼の手は少し骨ばっていて、大きな手だった。
「フローラの手は、冷たいですね」
「あ、すいません」
それは恐らく緊張しているから。
「いえ」
二人は並んで歩いた。
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