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44.結局スパダリと元腐女子ですか(10)

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「君にも、そのような一面があるのだな。いつも、私が何を言っても、弱ったところを見せてくれなかった……。それもきっと、私を思ってのことだったのだろう?」

 頬に触れるクラレンスの吐息がくすぐったい。
「そうかもしれません……」
 ふふっとジーニアが笑うと、クラレンスが顔をしかめる。
 何やら、腹の中に埋もれている彼がひくひくと蠢いているようだ。

「あの……。レン様……」

「なんだ?」

「私も、ほら。呪いが解けたことですし。そろそろ、離れていただけると……」

「そうか」
 と言いながら、クラレンスはジーニアを抱く腕に力を込める。
「せっかく意中の女性を射止めたというのに。まさか、これだけで終わりだとは思っていないよな?」

 ――えぇっ!
 と、ジーニアは心の中で驚いた。それを口にしてしまったら、この甘い雰囲気が台無しになってしまう、という考えはあった。

 ――終わりでしょう? 呪いが解けるためにヤったんだから、呪いが解けたら終わりでしょう?

 ジーニアが腰を引いて、中にいるクラレンスを追い出そうとするが、それが彼を許さない。
 その日は、ジーニアの悲鳴というか嬌声というか何というかわけのわからない声が、クラレンスの部屋に響いていた。

◇◆◇◆

 何しろ日の高いうちからクラレンスに抱かれていたのだ。一夜を共に過ごしたレベルの話ではない。
 カーテンの隙間から差し込む光が眩しく感じるし、どこからともなく小鳥たちのチュンチュンとしたさえずりが聞こえてくる。

 ――これが噂の朝チュンチュン……。

 ジーニアは自分が何も身に着けずに眠っていたことに気が付いた。そして、隣で静かな寝息を立てているクラレンス。

 ――と、尊い……。

 推し(のうちの一人、むしろジーニアにとって全員推しである)の寝顔を見てしまった。特典ディスクに収録されているような映像である。ジーニアは飽きもせずにじぃっと眺めていた。
 すると、ぱっとクラレンスの情熱的な赤い目が開いた。
「おはよう、ジーン」

「おはようございます」

 ――慣れない。(尊い……)
 ――恥ずかしい。(尊い……)
 ――嬉しい。(尊い……)

 ジーニアの心の中にはさまざまな感情が入り乱れていた。

「ジーン。昨夜、大事なことを確認するのを忘れていた」

 クラレンスが真剣な眼差しでジーニアの顔を見つめている。

 ――な、何かしら。お互いの気持ちは確かめあったはずだけど……。

「背中の傷を確認していない。例の呪いとやらは、本当に解けたのだろうか」

 危うく「忘れていた」と口にしそうになったジーニアは、その言葉をゴクリと飲み込んだ。

 そう、昨日のあれは、愛を確かめ合うような行為ではなく、呪いを解くために必要な行為だったのだ。

「背中の傷を見せてもらいたい……」

「はい……」

 ジーニアは身体を起こさずに、そのまま寝返りを打って背中をクラレンスに向けた。何しろ、何も着ていないのだから、背中を向けるだけで傷もまるっと丸見えになる。むしろ、身体を起こしてしまった方が、それ以外もまるっと丸出しになってしまう。

「ジーン……。やはり、まだ傷周辺の皮膚が戻っていない……」

 クラレンスのどこか重々しい声に、ジーニアも「え」と声をあげてしまった。

 ――う、嘘でしょ? ジュード様が解呪の方法を間違えたってこと?

「どうやら、もう一度。君を抱く必要があるようだな」

 クラレンスのその言葉で、ジーニアははたと我に返る。

 ――呪いで身体の自由が奪われていた。だけど、今は動くじゃない。ってことは……。

 すっと伸びてきたクラレンスの腕から逃れるように、ジーニアはそのまま身体を回転させて逃げた。逃げなければ、何戦目かわからぬ延長戦にもつれ込んでしまうと思ったからだ。

「ちっ。逃げられたか」
 悔しそうに舌打ちをするクラレンス。

「レン様。私を騙そうとしましたね」
 ジーニアはシーツを手繰り寄せて、胸元を隠す。それすらクラレンスは楽しそうに笑って眺めていた。

「まあ、いい。今はあきらめる。風呂の準備をしてくる」

 寝台から、するっと下りたクラレンスは浴室へと向かっていく。
 その後、浴室に連れていかれたジーニアは、クラレンスから逃げることに失敗した。

 コマンド:【にげる】 → 【しかしまわりこまれてしまった……】

 まさしくそれだった。
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