上 下
19 / 46

19.それはワンコ系攻めとツンデレ受けですね(1)

しおりを挟む
 ジーニアは頭を抱えたくなった。それができないのは寝台で横になっているからだ。

 ――何が、起こった?

 唇に触れた柔らかい感触。自分の指で唇に触れてみるけれど、先ほどの感触とは違う。こんな指ではなく、もっと柔らかいものだっだ。

 ――もしかして、キス、された?

 もしかしなくてもキスをされている。それでも認めたくないのか、思考が変な方向に走っている。

 ――なんで? なんで、なんで、なんで?!

 おかしい、おかしい、おかしい、おかしい。
 クラレンスはシリルが好きなはず。それがなぜモブであるジーニアにキスをするのか。

 ――もしかして、つまみ食い? ああ、あれか。アイスクリームに添えられている、ウェハースみたいな、存在?

 とにかくジーニアの頭の中はパンク寸前だった。というか、むしろ破裂した。だからそのままもう一度眠りについた。

 ジーニアの行動範囲が広がったのは、それから二日後のこと。この部屋の中であればやっと自由に歩き回ることができるくらい、回復したのだ。だが、部屋から出るのは難しい。よたよたと傷を庇うような歩き方をしてしまうから。

 そんなとき、やっとジェレミーが妹に会いにきてくれた。
「おい、ジーン。具合はどうだ?」

「お兄さま」

 豪勢な寝台の上にたくさんの本が並べられているのは、クラレンスが「飽きないように」と適当な本を持ってきてくれたためで、ジーニアは今、その本に埋もれながら寝台の上に座っている。

「おいおい、すごいな。いつからそんなに勉強熱心になったのかな?」

 恐らく寝台の上に並んでいる、ではなく散らかっている本を見て、ジェレミーはそう思ったのだろう。彼女の寝台の脇にある椅子にゆっくりと腰を押し付けながら、久しぶりに顔を合わせる妹に視線を向けた。

「思っていたより、元気そうで安心したよ」

「私も、お兄さまにお会いできて嬉しいです……」
 ジーニアがにっこりと微笑めば、ジェレミーもにっこりと笑う。
「ところで、あの。お父さまとお母さまは?」

「ああ、二人ともとても心配していたけれど、殿下がわざわざ来てくださったみたいで。二人とも、驚きながらも喜んでいたよ」

 ちょっと待て、とジーニアは心の中で呟いた。殿下というのは、もちろん――。

「あの、もしかして。わざわざクラレンス様がお出でになられたのですか?」

「そう、そうそうそうそう、そうなんだよ。クラレンス殿下がわざわざ来てくださったんだ」

「なんで?」

「それは俺が聞きたいくらいだよ」
 ジェレミーは寝台の上の本の一冊を手にする。
「お前、何を読んでるんだ?」
 妹が読んでいる本の中身に興味を持ったのか、パラパラと確認する。
「なんでお前が薬草学の本を読んでいるんだよ……」

 ――それは、私が聞きたいくらいです。
「この本は、クラレンス様が適当に持ってきてくださった本ですから」

「殿下が? どうしたんだ、一体……」

 ――それも、私が聞きたいくらいです。

「まあ、いい。それで、怪我の具合はどんな感じなんだ? あのとき、俺が気付いたときにはお前の背中にはぷすっと矢が刺さっていたからな」

「え、ええ。そうですね。ぷすっと、刺さっちゃったみたいですね。ですが、そのコルセットのおかげで、あまり深くは刺さらなかったようなのです」

「そうか……。だが、あれだろ? 傷痕は、残るんだろう?」

 ジェレミーが悔しそうな表情をしていたのはそれが原因だろう。

「え、えぇ。恐らく」

「そうか……。お前にそのような醜い傷痕を残してしまうとは。俺たち騎士団の失態だな」

「お兄さま。そんなにご自分を卑下なさらないでください。私はクラレンス様が無事であったこと、それが一番だと思っておりますので。こんな私でもクラレンス様のお役に立てたのだな、と」

「ああ、お邪魔だったかな?」

 兄妹の会話に突然割り込んできた第三者の声。ジェレミーは驚いて振り返り、ジーニアは「また来た」と思いながら、兄の後ろに立つ男に視線を向けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈 
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

完結 チート悪女に転生したはずが絶倫XL騎士は私に夢中~自分が書いた小説に転生したのに独占されて溺愛に突入~

シェルビビ
恋愛
 男の人と付き合ったことがない私は自分の書いた18禁どすけべ小説の悪女イリナ・ペシャルティに転生した。8歳の頃に記憶を思い出して、小説世界に転生したチート悪女のはずが、ゴリラの神に愛されて前世と同じこいつおもしれえ女枠。私は誰よりも美人で可愛かったはずなのに皆から面白れぇ女扱いされている。  10年間のセックス自粛期間を終え18歳の時、初めて隊長メイベルに出会って何だかんだでセックスする。これからズッコンバッコンするはずが、メイベルにばっかり抱かれている。  一方メイベルは事情があるみたいだがイレナに夢中。  自分の小説世界なのにメイベルの婚約者のトリーチェは訳がありそうで。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

ゲームの序盤に殺されるモブに転生してしまった

白雲八鈴
恋愛
「お前の様な奴が俺に近づくな!身の程を知れ!」 な····なんて、推しが尊いのでしょう。ぐふっ。わが人生に悔いなし! ここは乙女ゲームの世界。学園の七不思議を興味をもった主人公が7人の男子生徒と共に学園の七不思議を調べていたところに学園内で次々と事件が起こっていくのです。 ある女生徒が何者かに襲われることで、本格的に話が始まるゲーム【ラビリンスは人の夢を喰らう】の世界なのです。 その事件の開始の合図かのように襲われる一番目の犠牲者というのが、なんとこの私なのです。 内容的にはホラーゲームなのですが、それよりも私の推しがいる世界で推しを陰ながら愛でることを堪能したいと思います! *ホラーゲームとありますが、全くホラー要素はありません。 *モブ主人のよくあるお話です。さらりと読んでいただけたらと思っております。 *作者の目は節穴のため、誤字脱字は存在します。 *小説家になろう様にも投稿しております。

【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。

airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。 どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。 2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。 ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。 あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて… あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?

【完結】ただの悪役令嬢ですが、大国の皇子を拾いました。〜お嬢様は、実は皇子な使用人に執着される〜

曽根原ツタ
恋愛
「――あなたに拾っていただけたことは、俺の人生の中で何よりも幸運でした」 (私は、とんでもない拾いものをしてしまったのね。この人は、大国の皇子様で、ゲームの攻略対象。そして私は……私は――ただの悪役令嬢) そこは、運命で結ばれた男女の身体に、対になる紋章が浮かぶという伝説がある乙女ゲームの世界。 悪役令嬢ジェナー・エイデンは、ゲームをプレイしていた前世の記憶を思い出していた。屋敷の使用人として彼女に仕えている元孤児の青年ギルフォードは――ゲームの攻略対象の1人。その上、大国テーレの皇帝の隠し子だった。 いつの日にか、ギルフォードにはヒロインとの運命の印が現れる。ジェナーは、ギルフォードに思いを寄せつつも、未来に現れる本物のヒロインと彼の幸せを願い身を引くつもりだった。しかし、次第に運命の紋章にまつわる本当の真実が明らかになっていき……? ★使用人(実は皇子様)× お嬢様(悪役令嬢)の一筋縄ではいかない純愛ストーリーです。 小説家になろう様でも公開中 1月4日 HOTランキング1位ありがとうございます。 (完結保証 )

悪役令嬢なのに王子の慰み者になってしまい、断罪が行われません

青の雀
恋愛
公爵令嬢エリーゼは、王立学園の3年生、あるとき不注意からか階段から転落してしまい、前世やりこんでいた乙女ゲームの中に転生してしまったことに気づく でも、実際はヒロインから突き落とされてしまったのだ。その現場をたまたま見ていた婚約者の王子から溺愛されるようになり、ついにはカラダの関係にまで発展してしまう この乙女ゲームは、悪役令嬢はバッドエンドの道しかなく、最後は必ずギロチンで絶命するのだが、王子様の慰み者になってから、どんどんストーリーが変わっていくのは、いいことなはずなのに、エリーゼは、いつか処刑される運命だと諦めて……、その表情が王子の心を煽り、王子はますますエリーゼに執着して、溺愛していく そしてなぜかヒロインも姿を消していく ほとんどエッチシーンばかりになるかも?

処理中です...