上 下
7 / 46

7.ここは耽美な世界ですね(7)

しおりを挟む
 次の日、目が覚めると、やはりジーニアはジーニアだった。実はジーニアという人物になりきっている夢を見ていたのではないかと思っていた中の人だが、やはりジーニアが現実の世界らしい。

 ――大丈夫、私には推しがいる。クラレンス様がいる。だから、この世界で生きていける。

 思い出してしまった前世の記憶に戸惑うことはあるが、それでもジーニアとして生きていかなければならない。ここで彼女としての人生を投げ出してしまったら、ジーニアとしての生を閉じるということで。そうなったらあの両親と兄たちは悲しむことだろう。それだけは絶対にやってはいけない。

 さて、この世界の主要登場人物であるあの六名を思い出したジーニアであるが、ジーニア自身はどのような人物であったのか。
 まあ、モブである。場合によっては当て馬と呼べるかもしれない。第一のシナリオでは兄の恋を成就させるために、その命を散らす。
 第二と第三のシナリオでは、卒業パーティに参加しているただの参加者。それ以降の登場は無い。

 ――あれ? じゃ、私。卒業後はどうしたらいいんだろう。もしかして、あの人たちの絡みが見れない、とか?

 自分がモブであることを思い出したジーニアだが、それでも推しと推しの絡みは見たい。この目に焼き付けたい。拝みたい。
 ちなみに彼らは王宮にいる。王太子と宰相の息子はもちろんのことだが、騎士団の屯所も王宮の敷地内にあるし、王宮魔導士団というくらいだから魔導士団の研究室も王宮敷地内にある。つまり、王宮に潜り込むことができれば、彼らの絡みをお目にかかることができる、というわけで。

 ――ジーニアって、卒業後はどうするの?

 ゲームの世界では一切描かれることの無かったジーニア。ジェレミーの妹というだけの存在。そんな彼女が学院の卒業後にどのような道に進んだのか、ジーニアの中の人はまったくわからない。のだが。

 昨日、お風呂に入らなかった分、朝からシャワーを浴びて、髪の毛をもぞもぞと吹き上げていたら、メイドが「朝食の時間ですがいかがなさいますか」と呼びに来てしまったため、それなりの恰好をさせてもらってから食堂へと向かう。
 のんびり朝シャワーをしていたジーニアが最後であったようだ。

「おはよう、ジーン。今日はお寝坊さんなのね」
 母親がニッコリと笑っている。
「おはようございます。遅くなりまして、すいません。お父さまもお兄さまも、早いのですね」

「あははは。あのくらいで酔いつぶれるようなトンプソン家の男ではないからな」
 父親は、息子と酒を飲んだのがよっぽど楽しかったのか、目尻を下げて朝から豪快に笑っていた。その父親を冷たい視線で見つめる母親。この二人に何があったのかは聞かないでおこう。

「お兄さまは今日、あちらに戻られるのですね」
 ジェレミーは、王宮の敷地内にある、騎士団の宿舎に常駐している。何かの呼び出しにすぐ応えられるように、と。

「ああ。だが、次の休暇にはまた戻ってくるつもりだが……。そうなると、もしかしたらジーンとは入れ違いになってしまうかもしれないな」

 ――ん? 入れ違い? あ、そうだった。私、王宮で侍女として働くんだった。

 中の人の記憶に侵されて、ジーニア自身の記憶を失うところだった。そう、ジーニアは行儀見習いも兼ねて、王宮の王族付きの侍女として働くことになっている。侍女にはそれなりの家柄も求められるのだが、兄のジェレミーも第五騎士隊の隊長を務めるくらいの家柄であるため、侍女になるには相応しい身分を持っていたようだ。

 ――ナイス、ジーニア。さすが、ジーニア。天才としかいいようがないわ。

 しかもジーニアはあのクラレンスの妹であるアマリエ王女付きの侍女となるのだ。ということを、兄の言葉で思い出した。

 ――ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待って。アマリエ王女の侍女ってことは、クラレンス様と会える機会もあるかもしれないってことよね。いや、会えなくてもいい。すれ違うだけでもいい。あの美しい顔を拝めるのであれば、庭園の草でもいい。むしろ草のほうがクラレンス様とシリル様の絡みが見れる、かもしれない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

完結 チート悪女に転生したはずが絶倫XL騎士は私に夢中~自分が書いた小説に転生したのに独占されて溺愛に突入~

シェルビビ
恋愛
 男の人と付き合ったことがない私は自分の書いた18禁どすけべ小説の悪女イリナ・ペシャルティに転生した。8歳の頃に記憶を思い出して、小説世界に転生したチート悪女のはずが、ゴリラの神に愛されて前世と同じこいつおもしれえ女枠。私は誰よりも美人で可愛かったはずなのに皆から面白れぇ女扱いされている。  10年間のセックス自粛期間を終え18歳の時、初めて隊長メイベルに出会って何だかんだでセックスする。これからズッコンバッコンするはずが、メイベルにばっかり抱かれている。  一方メイベルは事情があるみたいだがイレナに夢中。  自分の小説世界なのにメイベルの婚約者のトリーチェは訳がありそうで。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

ゲームの序盤に殺されるモブに転生してしまった

白雲八鈴
恋愛
「お前の様な奴が俺に近づくな!身の程を知れ!」 な····なんて、推しが尊いのでしょう。ぐふっ。わが人生に悔いなし! ここは乙女ゲームの世界。学園の七不思議を興味をもった主人公が7人の男子生徒と共に学園の七不思議を調べていたところに学園内で次々と事件が起こっていくのです。 ある女生徒が何者かに襲われることで、本格的に話が始まるゲーム【ラビリンスは人の夢を喰らう】の世界なのです。 その事件の開始の合図かのように襲われる一番目の犠牲者というのが、なんとこの私なのです。 内容的にはホラーゲームなのですが、それよりも私の推しがいる世界で推しを陰ながら愛でることを堪能したいと思います! *ホラーゲームとありますが、全くホラー要素はありません。 *モブ主人のよくあるお話です。さらりと読んでいただけたらと思っております。 *作者の目は節穴のため、誤字脱字は存在します。 *小説家になろう様にも投稿しております。

【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。

airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。 どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。 2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。 ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。 あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて… あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?

【完結】ただの悪役令嬢ですが、大国の皇子を拾いました。〜お嬢様は、実は皇子な使用人に執着される〜

曽根原ツタ
恋愛
「――あなたに拾っていただけたことは、俺の人生の中で何よりも幸運でした」 (私は、とんでもない拾いものをしてしまったのね。この人は、大国の皇子様で、ゲームの攻略対象。そして私は……私は――ただの悪役令嬢) そこは、運命で結ばれた男女の身体に、対になる紋章が浮かぶという伝説がある乙女ゲームの世界。 悪役令嬢ジェナー・エイデンは、ゲームをプレイしていた前世の記憶を思い出していた。屋敷の使用人として彼女に仕えている元孤児の青年ギルフォードは――ゲームの攻略対象の1人。その上、大国テーレの皇帝の隠し子だった。 いつの日にか、ギルフォードにはヒロインとの運命の印が現れる。ジェナーは、ギルフォードに思いを寄せつつも、未来に現れる本物のヒロインと彼の幸せを願い身を引くつもりだった。しかし、次第に運命の紋章にまつわる本当の真実が明らかになっていき……? ★使用人(実は皇子様)× お嬢様(悪役令嬢)の一筋縄ではいかない純愛ストーリーです。 小説家になろう様でも公開中 1月4日 HOTランキング1位ありがとうございます。 (完結保証 )

悪役令嬢なのに王子の慰み者になってしまい、断罪が行われません

青の雀
恋愛
公爵令嬢エリーゼは、王立学園の3年生、あるとき不注意からか階段から転落してしまい、前世やりこんでいた乙女ゲームの中に転生してしまったことに気づく でも、実際はヒロインから突き落とされてしまったのだ。その現場をたまたま見ていた婚約者の王子から溺愛されるようになり、ついにはカラダの関係にまで発展してしまう この乙女ゲームは、悪役令嬢はバッドエンドの道しかなく、最後は必ずギロチンで絶命するのだが、王子様の慰み者になってから、どんどんストーリーが変わっていくのは、いいことなはずなのに、エリーゼは、いつか処刑される運命だと諦めて……、その表情が王子の心を煽り、王子はますますエリーゼに執着して、溺愛していく そしてなぜかヒロインも姿を消していく ほとんどエッチシーンばかりになるかも?

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

処理中です...