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本編
どんどんと罠が深まる(5)
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カリッドがイアンの部屋から戻ると、モニカがちょうど風呂から上がったところだった。昨日と同じガウン姿。何も期待していなかった、と言ったら嘘になる。昨日の少し布地面積が少ないと表現されたあの夜着を身につけてくれているんじゃないかな、というほのかな期待がなかったわけではない。
「あ、リディ。お風呂あがりました」
タオルでぽんぽんと髪の毛を拭いているモニカをずっと見ていたい気持ちになるのが不思議だった。そう、ずっと彼女を愛でていたい。
「俺も、風呂に入ってくる」
高まる鼓動を落ち着かせるかのようにそう言葉を放ったカリッドは、浴室へとその姿を消した。そして、壁に手をついで項垂れる。
とにかく、モニカが可愛い。可愛すぎてやばい。しかも自分の恋人になったというその事実。
一度己を制してから、風呂からあがった。
カリッドを見つけたモニカは笑いかけてくる。その顔を見るだけでカリッドの胸は苦しいくらいに締め付けられた。
ソファに座っていた彼女の隣に、カリッドも腰を落ち着ける。
「とりあえず、明日のことだが」
何か真面目な話をしないと、またカリッドのカリッドが目覚めてしまう。モニカはそんなカリッドに気付くわけも無く、彼の話を黙って聞いていた。恋人でありながら恋人の振りをする明日のイベント。
「わかりました」
カリッドの話を聞き終えたモニカは、じっとカリッドの顔を見ていた。
「どうか、したか?」
「あ、いえ。ま、その」
と、何かモニカは非常に言いにくそうだ。
「その、俺たちは恋人同士になったわけだから。遠慮せずに君の気持ちを伝えて欲しいのだが」
「あ、はい。その。あの、劇場でリディがおっしゃっていたことです」
「俺が言ったこと?」
はて、なんだろう、とカリッドは劇場での自分の行動を思い出す。だが、舞い上がってしまっていたからか、その告白の前後の記憶がすっぱりと抜け落ちている。
「す、すまない。その、舞い上がり過ぎて忘れてしまった」
いつも団長としてびしっと団員をまとめているカリッドなのに、舞い上がってそうやって忘れてしまうこともあるんだな、と思ったモニカは、そのカリッドが可愛らしく見えてくるから不思議だった。いわゆる、ギャップ萌えと呼ばれるような心理状態に陥っていることに、モニカ自身も気付くわけも無く。それでも、彼を翻弄させてやりたいという小悪魔的な欲望も無いわけでも無く。
「え、と。劇場での続きは、宿に戻ってからだって」
劇場での続き、とは何だろうとカリッドは記憶を掘り起こす。告白の前に何をしたか。じっくりと記憶を掘り起こして、背筋に嫌な汗が流れた。そうだ、勢いにのってベロカラ的な濃厚な口づけをしてしまった。
つまり、それの続きということは。
「モ、モニカ。その、あの口づけの続きをしても、いいのか?」
カリッドは思わずそう尋ねていた。すると、彼女はゆっくりと首を縦に振ると、ガウンの襟元になぜか手をかける。そうやって、肩からするりとそれを滑り落とすと。
「……っ」
カリッドは思わず息を飲んだ。
「その。昨日はせっかく準備していただいたのに、その、着なかったので」
ガウンの下から出てきたものは、恐らく昨日イアンが口にしていた少々刺激の強すぎる夜着なのだろう。カリッドには間違いなく、刺激が強すぎた。モニカ本人だって布地面積が少ないと言っていた。そしてそれを身に着けてくれることを、どこかで期待していたわけでもあって。
「……」
カリッドは言葉を発することができず、言いたい言葉の全てを飲み込んだ。挙句、右手でその口元を押さえてしまう仕草は、照れているからなのだろうか。
「あの、変、ですか? その、せっかく準備していただいから、着た方がいいのかと思ったのですが」
言葉を発することのできないカリッドは、激しく首を横に振った。その首がもぎ取られてしまうのではないか、というほど激しく。その姿が普段のカリッドからは想像できないもので、またモニカの心の奥がキュっと鳴いてしまった。
(どうしよう、団長が可愛い……)
「あの、変ですか?」
モニカはもう一度尋ねた。できればその答えを彼の口から聞きたいと思っていたから。
「あ、リディ。お風呂あがりました」
タオルでぽんぽんと髪の毛を拭いているモニカをずっと見ていたい気持ちになるのが不思議だった。そう、ずっと彼女を愛でていたい。
「俺も、風呂に入ってくる」
高まる鼓動を落ち着かせるかのようにそう言葉を放ったカリッドは、浴室へとその姿を消した。そして、壁に手をついで項垂れる。
とにかく、モニカが可愛い。可愛すぎてやばい。しかも自分の恋人になったというその事実。
一度己を制してから、風呂からあがった。
カリッドを見つけたモニカは笑いかけてくる。その顔を見るだけでカリッドの胸は苦しいくらいに締め付けられた。
ソファに座っていた彼女の隣に、カリッドも腰を落ち着ける。
「とりあえず、明日のことだが」
何か真面目な話をしないと、またカリッドのカリッドが目覚めてしまう。モニカはそんなカリッドに気付くわけも無く、彼の話を黙って聞いていた。恋人でありながら恋人の振りをする明日のイベント。
「わかりました」
カリッドの話を聞き終えたモニカは、じっとカリッドの顔を見ていた。
「どうか、したか?」
「あ、いえ。ま、その」
と、何かモニカは非常に言いにくそうだ。
「その、俺たちは恋人同士になったわけだから。遠慮せずに君の気持ちを伝えて欲しいのだが」
「あ、はい。その。あの、劇場でリディがおっしゃっていたことです」
「俺が言ったこと?」
はて、なんだろう、とカリッドは劇場での自分の行動を思い出す。だが、舞い上がってしまっていたからか、その告白の前後の記憶がすっぱりと抜け落ちている。
「す、すまない。その、舞い上がり過ぎて忘れてしまった」
いつも団長としてびしっと団員をまとめているカリッドなのに、舞い上がってそうやって忘れてしまうこともあるんだな、と思ったモニカは、そのカリッドが可愛らしく見えてくるから不思議だった。いわゆる、ギャップ萌えと呼ばれるような心理状態に陥っていることに、モニカ自身も気付くわけも無く。それでも、彼を翻弄させてやりたいという小悪魔的な欲望も無いわけでも無く。
「え、と。劇場での続きは、宿に戻ってからだって」
劇場での続き、とは何だろうとカリッドは記憶を掘り起こす。告白の前に何をしたか。じっくりと記憶を掘り起こして、背筋に嫌な汗が流れた。そうだ、勢いにのってベロカラ的な濃厚な口づけをしてしまった。
つまり、それの続きということは。
「モ、モニカ。その、あの口づけの続きをしても、いいのか?」
カリッドは思わずそう尋ねていた。すると、彼女はゆっくりと首を縦に振ると、ガウンの襟元になぜか手をかける。そうやって、肩からするりとそれを滑り落とすと。
「……っ」
カリッドは思わず息を飲んだ。
「その。昨日はせっかく準備していただいたのに、その、着なかったので」
ガウンの下から出てきたものは、恐らく昨日イアンが口にしていた少々刺激の強すぎる夜着なのだろう。カリッドには間違いなく、刺激が強すぎた。モニカ本人だって布地面積が少ないと言っていた。そしてそれを身に着けてくれることを、どこかで期待していたわけでもあって。
「……」
カリッドは言葉を発することができず、言いたい言葉の全てを飲み込んだ。挙句、右手でその口元を押さえてしまう仕草は、照れているからなのだろうか。
「あの、変、ですか? その、せっかく準備していただいから、着た方がいいのかと思ったのですが」
言葉を発することのできないカリッドは、激しく首を横に振った。その首がもぎ取られてしまうのではないか、というほど激しく。その姿が普段のカリッドからは想像できないもので、またモニカの心の奥がキュっと鳴いてしまった。
(どうしよう、団長が可愛い……)
「あの、変ですか?」
モニカはもう一度尋ねた。できればその答えを彼の口から聞きたいと思っていたから。
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