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犯人は私です(6)

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 握られていた右手を引っ張られた。そのままバランスを失って、彼に身体を預ける。すっぽりと彼の腕の中に包まれていた。

 これは、いつものように私に甘えて抱きしめていた行為とは違う。甘える仕草ではない。

「ウィル。ごめんなさい」
「謝らなくていい。あのときの女性がアイちゃんだと知ったら、安心した。それに、アンドレイ殿の話も聞いていたし、なんとなくわかったような気がするし、俺がアイちゃんに反応するのは、ある意味、正しいということもわかった」
「だけど。私のせいで、ウィルは辛い思いをしたでしょ? 二年間も」

 彼は、ふるふると首を振った。

「まぁ、あれがあってから、女性が怖くて近づきたくなかったのは事実だが。別にそれで辛い思いはしていない。むしろ、俺の肩書きとか財産とかを狙ってくる女性から逃げることができてよかった。と、今では思ってる」
「だけど、二年間も不能だったわけでしょう?」
「だから、それも困ってない。いや、少しは困ったか。まぁ、アイちゃんを抱きたいと思ったときくらいだ、困ったのは」
「ウィル。そんなこと、思ってたの?」

 さらっとさっきの場でも同じようなことを言ったような気はするけど。

「アイちゃんが、ここから出ていきたいのかなと思いはじめてからな。俺にとってアイちゃんは、俺の側にいるべき人なんだって思った。離れないようにさせるにはどうしたらいいか。だけど、不能だから無理だろうなって」
「でも、今は反応してるし」

 先ほどから、私のお腹に硬いモノが当たっている。
 アンドレイの話では、ウィルフォードのウィルフォードは私にしか反応しないはずなのに、今の今までは反応しなかったのだ。

「なんだろう。まぁ、アイちゃんにも好かれてるってわかったから、かな。俺だって、嫌がるアイちゃんを無理矢理とは考えていなかったから」

 そういうところは紳士なんだよね。私があれだけ酷いことをしたにもかかわらず。

「アイちゃん。いや、アイリ。もう一度、言ってもいいか?」
「何を?」
「俺と結婚してほしい。これからの人生を、君と共に生きたい」

 セルリアンブルーの瞳の中に、今にも泣きだしそうな私の顔がうつっている。

「は、はい。私をウィルフォードのお嫁さんにしてください」

 ウィルフォードの大きな手が、私の顎を捕らえた。これが、顎クイか。この顔でやられると心臓がきゅうっと締め付けられた。

 彼の顔が近づいてきて、唇を合わせる。触れた場所からは、熱を感じた。
 気持ちが通じ合ったキスは、心がほわほわとする。

 彼は名残惜しそうに、唇を離した。

 こうやってまじまじと見つめ合うと、恥ずかしい。じんわりと頬に熱がたまっていくのがよくわかる。

「本音を言うと。俺のモノが使いモノになっているかどうかを試したい」

 つまり、それってヤりたいってことだよね? 
 そんなことを面と向かって言われたら、急にドキドキしてきた。

「だけどそれは今日じゃないと思う。今日は、アイリと気持ちが通じ合っただけで幸せだ」

 ウィルフォードが抱きしめていた私を解放する。

「アイリも今日は疲れただろう? ゆっくり休もう」
「あ、あ。うん」
「なんだ? 期待してたのか?」

 ウィルフォードの微笑みが恐い。

「安心しろ。アイリの期待には答えてやる。それに、あのときのお礼もたっぷりとしてあげたい。アイリを気持ちよく、何度もイかせてやるから、楽しみにしてろ」

 あ。やっぱり、根に持ってる。
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