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犯人は私です(5)
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そうなってしまった原因は私にあるわけで、そして反応し始めた理由もアンドレイの話を聞いていたから、なんとなく理由はわかるけど。
なぜこのタイミングなのかはわからない。
「よし、アイちゃん。結婚しよう。まずは父上に報告をして、あとは国王に」
そこまで口にして、ウィルフォードはまた顔を曇らせた。
「あ、国王には反対されるかもしれないな。その、アイちゃんは異界人だから、初めての相手を捜せと言われていたんだよな」
「ウィルは、結婚するにも国王の許可が必要なの?」
ずっと誤魔化されていた彼の身分を、ここで明らかにしてもらおう。
「あ、あぁ。まぁ、そうだな。国王は伯父だからな。俺の父親が、国王の弟だと言えばわかりやすいか?」
なんとなく予想していたけど、予想通りの答えをありがとうという感じだ。
「そうなのね」
「だから、俺の結婚は国王の許可が必要だし。多分、アイちゃんもそうだろう」
自由に恋愛結婚できないのは、辛いかもしれない。
「国のことを考えると、アイちゃんはその相手と結婚するのがいいんだろうな。だけど、俺としては、知らない男にアイちゃんをとられるのが嫌だ。それをずっと考えていた」
「あー、うん。そうだねー」
わざとらしい返事だったかもしれない。
「アンドレイ殿が言うには、アイちゃんの相手は、アイちゃん以外には反応しなくなるわけだろ? 本人が困ってなければいいんじゃないかと思うんだ。俺だって勃たなかったが、そんなに不便じゃなかったし」
「あー、うん。そうだねー」
これは、そろそろウィルフォードに正直に話すべきだろうか。
「だから、国王にはきっちりとアイちゃんと結婚したい旨を伝えて、相手の男には正直に話してあきらめてもらおうかと」
「あー、うん。そうだねー」
「もしかしてアイちゃんは、やっぱりそのときの男のほうがいいのか?」
「え?」
「さっきから、上の空だから。もしかして、俺じゃやっぱりダメなのか?」
「へ?」
違う違う、と勢いよく頭を横に振った。ウィルフォードは今にも泣き出しそうなほど、目尻を下げている。
「あー、うー」
言わなきゃいけないと思って口を開くけど、それがなかなか言葉に出てこない。
「アイちゃん。はっきり言ってくれ」
ウィルフォードが私の右手をがっしりと両手で握りしめた。
「ウィル、ごめんなさい」
私が勢いよく謝ったからか、彼はまた困ったように眉をハの字にした。
「あの、あの……あのときのあのあれは、私なの」
あのあのが多くて、ウィルフォードも理解できていないようで、ハの字の眉の間に濁点ができた。
「ええと。二年くらい前のあの娼館でウィルフォードの相手が私」
「いや。あのときの女性は、髪の色が金髪だったし、長かった。あのあと、アイちゃんと出会ったけど、俺が少年と間違えるくらい、髪が短かったじゃないか」
「そうそう、そうなんだけど。あのときは、オーナーがカツラを準備してくれて」
握られている手に、少しだけ力が込められた。彼にとっては無意識なのだろう。
「だから、ごめん。ウィルフォードを不能にしたのは私です」
ささっと、彼の顔から血の気が引いた。
「あのときの娼婦がアイちゃん?」
彼は必死であのときのことを思い出そうとしているのだろうか。正面から私を見つめる。
「そう。ずっと黙っててごめん。ウィルの話を聞いて、私のせいで女性恐怖症になったんだなって思った。あのときの私は、初めてだからってオーナーから薬をもらって」
二人しか知らないような話を、ちょっとだけ口にすると「それ以上、言うな」とウィルフォードに止められた。
「それよりも……初めてだったのか?」
「え? あ。うん。だから、痛くないようにってお薬を」
それでも信じられないと、ウィルフォードは首を横に振る。
「ごめん。ウィルが苦しんでたのに、言えなかった。言ったら嫌われて、追い出されると思ったから」
なぜこのタイミングなのかはわからない。
「よし、アイちゃん。結婚しよう。まずは父上に報告をして、あとは国王に」
そこまで口にして、ウィルフォードはまた顔を曇らせた。
「あ、国王には反対されるかもしれないな。その、アイちゃんは異界人だから、初めての相手を捜せと言われていたんだよな」
「ウィルは、結婚するにも国王の許可が必要なの?」
ずっと誤魔化されていた彼の身分を、ここで明らかにしてもらおう。
「あ、あぁ。まぁ、そうだな。国王は伯父だからな。俺の父親が、国王の弟だと言えばわかりやすいか?」
なんとなく予想していたけど、予想通りの答えをありがとうという感じだ。
「そうなのね」
「だから、俺の結婚は国王の許可が必要だし。多分、アイちゃんもそうだろう」
自由に恋愛結婚できないのは、辛いかもしれない。
「国のことを考えると、アイちゃんはその相手と結婚するのがいいんだろうな。だけど、俺としては、知らない男にアイちゃんをとられるのが嫌だ。それをずっと考えていた」
「あー、うん。そうだねー」
わざとらしい返事だったかもしれない。
「アンドレイ殿が言うには、アイちゃんの相手は、アイちゃん以外には反応しなくなるわけだろ? 本人が困ってなければいいんじゃないかと思うんだ。俺だって勃たなかったが、そんなに不便じゃなかったし」
「あー、うん。そうだねー」
これは、そろそろウィルフォードに正直に話すべきだろうか。
「だから、国王にはきっちりとアイちゃんと結婚したい旨を伝えて、相手の男には正直に話してあきらめてもらおうかと」
「あー、うん。そうだねー」
「もしかしてアイちゃんは、やっぱりそのときの男のほうがいいのか?」
「え?」
「さっきから、上の空だから。もしかして、俺じゃやっぱりダメなのか?」
「へ?」
違う違う、と勢いよく頭を横に振った。ウィルフォードは今にも泣き出しそうなほど、目尻を下げている。
「あー、うー」
言わなきゃいけないと思って口を開くけど、それがなかなか言葉に出てこない。
「アイちゃん。はっきり言ってくれ」
ウィルフォードが私の右手をがっしりと両手で握りしめた。
「ウィル、ごめんなさい」
私が勢いよく謝ったからか、彼はまた困ったように眉をハの字にした。
「あの、あの……あのときのあのあれは、私なの」
あのあのが多くて、ウィルフォードも理解できていないようで、ハの字の眉の間に濁点ができた。
「ええと。二年くらい前のあの娼館でウィルフォードの相手が私」
「いや。あのときの女性は、髪の色が金髪だったし、長かった。あのあと、アイちゃんと出会ったけど、俺が少年と間違えるくらい、髪が短かったじゃないか」
「そうそう、そうなんだけど。あのときは、オーナーがカツラを準備してくれて」
握られている手に、少しだけ力が込められた。彼にとっては無意識なのだろう。
「だから、ごめん。ウィルフォードを不能にしたのは私です」
ささっと、彼の顔から血の気が引いた。
「あのときの娼婦がアイちゃん?」
彼は必死であのときのことを思い出そうとしているのだろうか。正面から私を見つめる。
「そう。ずっと黙っててごめん。ウィルの話を聞いて、私のせいで女性恐怖症になったんだなって思った。あのときの私は、初めてだからってオーナーから薬をもらって」
二人しか知らないような話を、ちょっとだけ口にすると「それ以上、言うな」とウィルフォードに止められた。
「それよりも……初めてだったのか?」
「え? あ。うん。だから、痛くないようにってお薬を」
それでも信じられないと、ウィルフォードは首を横に振る。
「ごめん。ウィルが苦しんでたのに、言えなかった。言ったら嫌われて、追い出されると思ったから」
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