【R18】あなたを不能にした娼婦は私です、ごめんなさい。

澤谷弥(さわたに わたる)

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明かされた真実(1)

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「アイリ様。少しお話をよろしいでしょうか? できれば、談話室で」

 ぎょっと目を見開いたのはウィルフォードのほうだ。彼の視線の先を捕えると、私に声をかけてきた人物の姿がある。

 きみのはなの『は』、ハゾレカ小国の君主、某アニメキャラのようなこの美形は忘れていない。

「アイリ様をお貸しいただいても?」

 それはウィルフォードに向かって放たれた言葉。だって、さっきからウィルフォードが彼を睨みつけている。

「話ならここでいいだろう? 俺たちは食事中だ」
「ですが、アイリ様としては、あまり他人に聞かれたくない話だと思います。食事中というのであれば、終わるまで待ちます」

 何事かと、周囲の視線が集まってくる。

「アイリ、君はどうしたい?」

 どうしたいと言われても、話をしたいことはない。それを正直に口にする。

「私は特にお話したいことはないのですが」

 その言葉になぜかウィルフォードがどや顔をする。ほら見たことかと、その顔は言っている。

「そうですか? ですが、私は知っておりますよ。あなたが、ここではない世界の人であるということを」
「ゲホッ」

 私は口に含んでいたデザートのケーキを喉に詰まらせるところだった。

 ウィルフォードが慌てて飲み物を手渡した。

 それを一気に飲み干す様子を、彼ははらはらとしながら見守っているし、ハゾレカ小国の君主はにこにことしながら見つめてくる。

「はぁ。ところで、私、お名前を知らないのですよね。お伺いしても?」

 もしかしたら、先ほどの挨拶で名乗ったかもしれない。けれど、興味のなかった私が聞いているはずもない。聞いたとしても覚えているわけがない。四つの小国の名前を覚えただけでも偉いと自分でも思っているのに。

「失礼しました。私はハゾレカ小国のアンドレイ・バラン・エゾニックです」

 長い、覚えられない。

「どうぞ、レイとお呼びください」

 私の心の声を読んだ?

「レイさんのおっしゃっていることが、よくわかりません。ここではない世界って、どういう意味でしょう」

 棒読みのセリフである。心臓はドキドキとしていて、これで誤魔化せるとも思っていない。

「なるほど。ですが、その髪と瞳の色が何よりも証拠ですよ」

 だからか! やっぱり、見た目でばれていた。

「アイリ様の真の名をお伺いしても?」

 しらを切るつもりだったけど、アンドレイの顔が怖い。いや、穏やかに笑みを浮かべているのだけれど、目が怖い。

 ここまできたら誤魔化せないだろうな、と腹をくくる。
 ウィルフォードも眉間に深くしわを刻んでいる。

廣瀬ひろせ愛璃あいりです。姓がヒロセ、名前がアイリ。私がいたところでは、先に姓を名乗るので」
「では、アイリ様。向こうでじっくりとお話を聞かせてください。もちろん、私の話もあなたにとって有益な話になるかと思います」

 他の人には聞かれたくない話である。アンドレイなりの優しさなのか。

「俺も同席しても問題ないよな?」
「えぇ。あなた様はアイリ様の婚約者ですよね? 婚約者であれば、我々の話を聞いてもらいたい。そして、場合によってはそれを解消していただきたいのです」

 ウィルフォードが震えている。めちゃくちゃ作り笑いを浮かべている。誰が見たってわかるだろう。今、彼は猛烈に怒っている。

 私と婚約者と言われたのが不本意なのだろう。そもそも彼は女性恐怖症なのだから。たまたま触れることのできる女性が近くにいたから、その女性を使用人として雇っているだけなのだから。

「ウィル、ごめんね」

 私は彼にそう言うことしかできなかった。

 席を立った私は、アンドレイの後ろをついていく。とぼとぼと背中を丸めて歩く姿はきっとこの場には相応しくない。わかってはいるけれど、これからすべての罪が明るみになってしまうような、そんな気持ちなので堂々とするなんては無理。

「アイリ」

 ウィルフォードが優しく名を呼び、そっと手を握ってくれた。
 私は、この優しい男をずっと騙していたのだ。それだけでも、罪悪感でいっぱいだった。

「ウィル、ごめんね」

 私はもう一度、彼にそう言った。

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