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可能ならば帰りたい(1)
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ゴトゴトと馬車はチョコレート色の外壁の王城へと向かっている。この馬車が走っているのはレンガ路。徒歩でも滅多に利用しない路である。
私は隣に座るウィルフォードをじっと見つめた。彼もその視線に気がついたようで、こちらを真っすぐに見つめてくる。
「ウィルって何者?」
そう尋ねたのは無意識だった。心の声のつもりだったはずなのに、なぜか声に出ていたようで、ウィルフォードは困ったように目尻を下げた。
「王国騎士団第五師団師団長」
「っていう格好してないよね、今。騎士として参加するなら、騎士団の式典用の正装じゃないの? だから、今日のウィルは何者? 私が隣にいてもいいの?」
今の私が、彼の隣に相応しいとは思えない。
「むしろ、いてくれないと困る。一曲踊ったら、逃げたいから」
その言い方が、私の心をくすぐる。キリリとした表情と、困ったように苦笑する様子と。くるくるとかわる彼の顔から、目が離せない。
今だって、叱られた親から逃げようとする幼稚園児みたい。
「逃げるって何から?」
「その場からに決まっているだろう? 変な女が寄ってきたらどうする? いや……」
そう言ったところでウィルフォードは考え込んだ。顎に手を当てて、そこだけ考える人のポーズになっている。
「そうか。アイリと三曲続けて踊ればいいのか。三曲くらい、イケるよな?」
「え? あ、まぁ。練習したしね。体力もついたと思うけど」
体力がなくて倒れてしまった事件から、ダンスの練習やら剣術の練習やらで、毎日体力づくりに励んでいた。
そのおかげもあってから、ダンスの練習で息があがるようなことはなくなった。
考えてみれば、それまでは階段を上がるだけでも息切れしていた。
「よし、アイリ。俺と三曲踊ってくれ。踊り終わったら、帰る」
「え、あ。うん。だけど、美味しい料理も忘れないでね」
「もちろんだ」
ウィルフォードは満面の笑みを浮かべた。その笑顔がちょっと可愛いだなんて、思ってしまう。
馬車が止まり、ウィルフォードにエスコートされて降りる。ずらりと並んだ馬車だが、これも家柄によって停車できる場所が異なると何かで読んだような気がする。
だけど、ウィルフォードと共に降り立ったのは、王城入口ど真ん前。
「だから、ウィルって何者?」
先ほどからそう尋ねているのに、彼は答えてくれない。笑顔で誤魔化して腕を差し出してきたので、礼儀だと思ってその腕をとった。
「ウィル。絶対に一人にしないでよね」
「アイリのほうこそ、俺から離れるなよ?」
これからお化け屋敷にでも入るような二人である。むしろ、人が少ないという意味ではお化け屋敷のほうがマシかもしれない。
初めて足を踏み入れた王城は、エントランスから大広間まで真っ赤な絨毯が敷かれていた。白い壁には金と銀の刺繍が込み入った形で施されており、天井は高く、天使のような絵が描かれている。
大広間へと続く、人の背丈の倍以上もある扉の前には、騎士服に身を包む騎士がビシッとした姿勢で立っていた。
ウィルフォードが彼らと顔なじみであると、なんとなく察した。だって、相手のほうがウィルフォードを見てニタニタと笑っているから。
私は無意識に彼と絡めていた腕にぎゅぎゅっと力を込めた。
私は隣に座るウィルフォードをじっと見つめた。彼もその視線に気がついたようで、こちらを真っすぐに見つめてくる。
「ウィルって何者?」
そう尋ねたのは無意識だった。心の声のつもりだったはずなのに、なぜか声に出ていたようで、ウィルフォードは困ったように目尻を下げた。
「王国騎士団第五師団師団長」
「っていう格好してないよね、今。騎士として参加するなら、騎士団の式典用の正装じゃないの? だから、今日のウィルは何者? 私が隣にいてもいいの?」
今の私が、彼の隣に相応しいとは思えない。
「むしろ、いてくれないと困る。一曲踊ったら、逃げたいから」
その言い方が、私の心をくすぐる。キリリとした表情と、困ったように苦笑する様子と。くるくるとかわる彼の顔から、目が離せない。
今だって、叱られた親から逃げようとする幼稚園児みたい。
「逃げるって何から?」
「その場からに決まっているだろう? 変な女が寄ってきたらどうする? いや……」
そう言ったところでウィルフォードは考え込んだ。顎に手を当てて、そこだけ考える人のポーズになっている。
「そうか。アイリと三曲続けて踊ればいいのか。三曲くらい、イケるよな?」
「え? あ、まぁ。練習したしね。体力もついたと思うけど」
体力がなくて倒れてしまった事件から、ダンスの練習やら剣術の練習やらで、毎日体力づくりに励んでいた。
そのおかげもあってから、ダンスの練習で息があがるようなことはなくなった。
考えてみれば、それまでは階段を上がるだけでも息切れしていた。
「よし、アイリ。俺と三曲踊ってくれ。踊り終わったら、帰る」
「え、あ。うん。だけど、美味しい料理も忘れないでね」
「もちろんだ」
ウィルフォードは満面の笑みを浮かべた。その笑顔がちょっと可愛いだなんて、思ってしまう。
馬車が止まり、ウィルフォードにエスコートされて降りる。ずらりと並んだ馬車だが、これも家柄によって停車できる場所が異なると何かで読んだような気がする。
だけど、ウィルフォードと共に降り立ったのは、王城入口ど真ん前。
「だから、ウィルって何者?」
先ほどからそう尋ねているのに、彼は答えてくれない。笑顔で誤魔化して腕を差し出してきたので、礼儀だと思ってその腕をとった。
「ウィル。絶対に一人にしないでよね」
「アイリのほうこそ、俺から離れるなよ?」
これからお化け屋敷にでも入るような二人である。むしろ、人が少ないという意味ではお化け屋敷のほうがマシかもしれない。
初めて足を踏み入れた王城は、エントランスから大広間まで真っ赤な絨毯が敷かれていた。白い壁には金と銀の刺繍が込み入った形で施されており、天井は高く、天使のような絵が描かれている。
大広間へと続く、人の背丈の倍以上もある扉の前には、騎士服に身を包む騎士がビシッとした姿勢で立っていた。
ウィルフォードが彼らと顔なじみであると、なんとなく察した。だって、相手のほうがウィルフォードを見てニタニタと笑っているから。
私は無意識に彼と絡めていた腕にぎゅぎゅっと力を込めた。
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