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淑女に大変身(5)
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その日は朝からウィルフォードもバタバタと動き回っていた。いや、私が起こしに行く前にきちっと目覚めて、朝の鍛錬を行って、シャワーを浴びて、食堂の椅子に座っていた。
「どうしたの? 今日は……」
朝食の準備を終えてから彼を起こすはずだったのに、その朝食の準備の前に背筋を伸ばして座っていたのだ。
「いや、今日はほら。パーティーがあるからな」
なぜか彼がソワソワとしている。このような催し物が苦手であると思っていたのに、もしかして遠足前の園児並に楽しみにしていたのだろうか。
「ほら、アイちゃんのドレスを着付けるために、手伝いを頼んだだろう?」
「ああ、ありがとう。サイズを合わせてもらったのはいいけれども、あれは一人では着ることができないから」
だから、衣装部屋に置きっぱなしである。
「まぁ、その手伝い人が来るからな」
なるほど。手伝い人のために、ウィルフォードは気合いを入れていたようだ。どんな感じの手伝い人であるかが気になるところではある。もしかして、この気合いの入れようから、ウィルフォードの想い人では、と勘ぐってしまう。
そして女性恐怖症の彼だからこそ、その想い人は……だなんて、変な妄想すらはかどるくらい、私は気が重かった。
「アイちゃん、ホントにめんどくさいことに巻き込んですまない。だが、まぁ、ほら。ぱぱっと挨拶して、ぱぱっと踊れば、それだけだから。あとは、美味しい料理をたらふく食べてくれ」
「あ、うん。わかってる。でもね、知らない人もたくさんいるわけでしょ?」
元の世界でコミュ障だった私からしたら、知らない人がたくさん集まるパーティーほど気が重いものはない。
「安心してくれ。ロドニーは来る。ロドニーの奥さんもいる、無理矢理頼んだ」
知ってる人が近くにいるだけで心強い。困ったら、ロドニーの奥さん――ミラに助けを求めよう。
パーティーは夜に開かれるので、私はいつものように掃除やら洗濯をこなしていた。
昼食の時間も過ぎ、片づけをしていたら屋敷の入り口のほうが騒がしい。
誰かが来たようだ。
エントランスにて出迎えると、ビシっと髪を後ろに撫でつけ一つに結わえている女性が三人並んでいた。そしてもう一人、初老の男性。
その姿を見た途端、私はヒシッと固まった。だって、私が見ただけでもなんとなくわかる彼らの立場。いわゆる、執事と侍女という雰囲気を纏っている彼らなのだ。
「アイちゃん、いいところにきた。今日、手伝いをしてくれる人たちだ」
ウィルフォードにおいでおいでと手を振られたため、私は彼の側にそろそろと近づいた。
「紹介する。彼女が俺のパートナーのアイリ」
「アイリです。お世話になります」
四人の視線が、まるで私を値踏みするかのようにじっとりとまとわりつく。
「坊ちゃま……」
そう言葉を発したのは、初老の男だった。この人が口を開いたのにも驚いたけれど、坊ちゃまと呼ばれている相手は間違いなくウィルフォードで、こんな彼と坊ちゃまという言葉が似合わなくて、私はおもわず噴き出しそうになるのを堪えた。
「こういった特定のお相手がいるのであれば、もっと早く教えていただければ……」
なぜか初老の男性が泣きそうになっている。すると、他の三人の女性もうんうんと頷いている。
「彼女はそういう相手ではない。俺の身の回りの世話をお願いしているだけだ。勘違いするな、チャールズ」
ここで私は、この初老の男性の名がチャールズであると知った。
「ですが。あれほどまで頑なに女性を近づけなかった坊ちゃまが、女性を近くにおくだなんて……」
「いいから。彼女も困っているだろう? それに、時間もないのではないのか? 悪いが、彼女の着替えを手伝ってくれ」
「失礼します、お嬢様」
一番年配の侍女に手を取られ、私はウィルフォードから引き離された。不思議なことに、彼女たちは案内しなくてもこの屋敷を我が物のように歩いている。
「どうしたの? 今日は……」
朝食の準備を終えてから彼を起こすはずだったのに、その朝食の準備の前に背筋を伸ばして座っていたのだ。
「いや、今日はほら。パーティーがあるからな」
なぜか彼がソワソワとしている。このような催し物が苦手であると思っていたのに、もしかして遠足前の園児並に楽しみにしていたのだろうか。
「ほら、アイちゃんのドレスを着付けるために、手伝いを頼んだだろう?」
「ああ、ありがとう。サイズを合わせてもらったのはいいけれども、あれは一人では着ることができないから」
だから、衣装部屋に置きっぱなしである。
「まぁ、その手伝い人が来るからな」
なるほど。手伝い人のために、ウィルフォードは気合いを入れていたようだ。どんな感じの手伝い人であるかが気になるところではある。もしかして、この気合いの入れようから、ウィルフォードの想い人では、と勘ぐってしまう。
そして女性恐怖症の彼だからこそ、その想い人は……だなんて、変な妄想すらはかどるくらい、私は気が重かった。
「アイちゃん、ホントにめんどくさいことに巻き込んですまない。だが、まぁ、ほら。ぱぱっと挨拶して、ぱぱっと踊れば、それだけだから。あとは、美味しい料理をたらふく食べてくれ」
「あ、うん。わかってる。でもね、知らない人もたくさんいるわけでしょ?」
元の世界でコミュ障だった私からしたら、知らない人がたくさん集まるパーティーほど気が重いものはない。
「安心してくれ。ロドニーは来る。ロドニーの奥さんもいる、無理矢理頼んだ」
知ってる人が近くにいるだけで心強い。困ったら、ロドニーの奥さん――ミラに助けを求めよう。
パーティーは夜に開かれるので、私はいつものように掃除やら洗濯をこなしていた。
昼食の時間も過ぎ、片づけをしていたら屋敷の入り口のほうが騒がしい。
誰かが来たようだ。
エントランスにて出迎えると、ビシっと髪を後ろに撫でつけ一つに結わえている女性が三人並んでいた。そしてもう一人、初老の男性。
その姿を見た途端、私はヒシッと固まった。だって、私が見ただけでもなんとなくわかる彼らの立場。いわゆる、執事と侍女という雰囲気を纏っている彼らなのだ。
「アイちゃん、いいところにきた。今日、手伝いをしてくれる人たちだ」
ウィルフォードにおいでおいでと手を振られたため、私は彼の側にそろそろと近づいた。
「紹介する。彼女が俺のパートナーのアイリ」
「アイリです。お世話になります」
四人の視線が、まるで私を値踏みするかのようにじっとりとまとわりつく。
「坊ちゃま……」
そう言葉を発したのは、初老の男だった。この人が口を開いたのにも驚いたけれど、坊ちゃまと呼ばれている相手は間違いなくウィルフォードで、こんな彼と坊ちゃまという言葉が似合わなくて、私はおもわず噴き出しそうになるのを堪えた。
「こういった特定のお相手がいるのであれば、もっと早く教えていただければ……」
なぜか初老の男性が泣きそうになっている。すると、他の三人の女性もうんうんと頷いている。
「彼女はそういう相手ではない。俺の身の回りの世話をお願いしているだけだ。勘違いするな、チャールズ」
ここで私は、この初老の男性の名がチャールズであると知った。
「ですが。あれほどまで頑なに女性を近づけなかった坊ちゃまが、女性を近くにおくだなんて……」
「いいから。彼女も困っているだろう? それに、時間もないのではないのか? 悪いが、彼女の着替えを手伝ってくれ」
「失礼します、お嬢様」
一番年配の侍女に手を取られ、私はウィルフォードから引き離された。不思議なことに、彼女たちは案内しなくてもこの屋敷を我が物のように歩いている。
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