7 / 40
パーティーへのお誘い(3)
しおりを挟む
「それよりも、腹が減った」
ウィルフォードは両手を広げていた。つまり、私を抱きしめたがっている。これはもう、愛玩動物を愛でるような行為の一種であると認識している。猫の肉球をふにふにすると癒されるような、そんな仕草の一つ。
特に、仕事で嫌なことがあったとき、彼は私を抱きしめたがる。求められるのは嫌ではない。だって、筋肉。
だけど、いつまでも彼の世話になるわけもいかないから、いつかは終わってしまうこの関係に胸が痛むだけ。
「また今日も、事務官のお嬢様方にいじわるされたの?」
「違う。あいつだ、ロドニーだ。昨日のことを文句言ったら、いい加減、結婚をしろとか妻帯しろとか言い出した。次のパーティーで相手を紹介するとか言いやがったから、余計なお世話だと言った。だから、髪を切ってきた」
なんとなく理解した。
金髪のさらさらヘアのウィルフォードは、筋肉でありながらも爽やかなのだ。それが髪を切ったことで、より野生味が溢れる。
となれば、彼に爽やかさを求めていた女性は離れていくだろう。そうなれば、ロドニーも強くは言わないだろうと、そう考えたようだ。単純といえば単純だが、素直なウィルフォードらしいといえばらしい。
ウィルフォードは少しだけ私の首元に顔を埋め、気持ちを落ち着かせていた。
「はぁ」
彼の吐息が首元に触れ、どこかくすぐったい。
「ほら、お腹、空いたでしょ? マーサさんがサービスしてくれたから、今日はぶ厚いステーキ肉よ!!」
ステーキ肉に反応したウィルフォードはやっと顔をあげる。
「アイちゃんは俺が食べたいものがわかるみたいだな」
「そんなことないわよ。私が食べたかっただけだもの」
なんとかウィルフォードを引きはがして、手を洗ってくるようにと言う。
しゅんと背中を丸めて浴室に向かう姿は、玩具をとられてとぼとぼと歩いている小型犬のよう。
見た目は屈強なのに、たまに弱々しい姿を見せてくるから気になってしまう。自立しなければと思いながらも、なかなか彼に言い出せないのはそれが原因でもあった。
ウィルフォードが着替えやら何やらしている間に、急いで夕飯の支度を整える。今日のぶ厚いステーキ肉は、いい魔獣が手に入ったからとの理由で、肉屋のマーサが色をつけてくれたものである。
この世界には魔獣と呼ばれる生き物がいる。魔獣とは魔力を備えている動物のようなもの。魔獣にも種類があり、人間たちに害をなすものと利益を与えるものと大きく二つに分けられている。
害をなす魔獣は人間を餌としたり、田畑を荒らしたりする。利益を与える魔獣は、人間たちに食を提供したり、人間たちの生活を助けてくれたりする。場合によっては愛玩となり癒しすら与えてくれるのだ。
「あ、ウィル。席について。ご飯にしましょう」
少しだけこざっぱりとしたウィルフォードが、食事の並んだテーブルの前に座る。
テーブルは、二十人くらいは座れるんじゃないかという大きなものであるが、私たちはそこの端っこに向かい合って座る。ちょっとした合宿所の食堂みたいな感じだ。
「へぇ、立派な肉だな」
「でしょでしょ? マーサさんのところで、なんかいい肉が手に入ったからって、サービスしてもらっちゃった」
「それは、あれだな。第四師団の連中がザクザクと魔獣を狩ってきたからだな。最近、外れの西の森に魔獣が住み着いて困っているという話があってな。西の森では、珍しい果実が採れるからそこに魔獣が住み着くとその果実が、魔獣たちに食べられてしまうんだ」
珍しい果実の名前はガボナといい、食べるのはもちろんのこと、粉末や液体など加工がしやすいのが特徴である。栄養価も高く、重宝されているのだ。それを主な収入源としている領地にとっては、収入減に繋がる大ダメージでもあった。そのため、魔獣討伐に騎士団の第四師団が向かったとのことだった。
つまりは、畑を荒らす猪みたいなものなのだろう。駆逐した後は食べる。
「じゃ、いただきましょう」
私が手を合わせると、ウィルフォードも慌てて手を合わせ、すぐさまフォークとナイフを手に持った。
「うん、美味い。この味付けが絶妙だな」
「よかった! これもマーサさんに教えてもらったの」
「マーサは商売上手だからな。余計な物まで買わされないように気をつけろよ」
「うっ」
私は言葉に詰まってしまった。いや、あれは余計な物ではない。必要な物だった。魔獣の内臓は健康によいからって、買わされただけだ。
「ん。このスープの味付けは独特だな。少しだけ生臭いような気もするし。変わった肉? それも入ってるな」
結局、魔獣の内臓の使い道に悩んだ私はスープに全部放り込んだ。健康によいなら、問題なし。
これ以上、この話題を続けられたらボロが出てしまう。
ウィルフォードは両手を広げていた。つまり、私を抱きしめたがっている。これはもう、愛玩動物を愛でるような行為の一種であると認識している。猫の肉球をふにふにすると癒されるような、そんな仕草の一つ。
特に、仕事で嫌なことがあったとき、彼は私を抱きしめたがる。求められるのは嫌ではない。だって、筋肉。
だけど、いつまでも彼の世話になるわけもいかないから、いつかは終わってしまうこの関係に胸が痛むだけ。
「また今日も、事務官のお嬢様方にいじわるされたの?」
「違う。あいつだ、ロドニーだ。昨日のことを文句言ったら、いい加減、結婚をしろとか妻帯しろとか言い出した。次のパーティーで相手を紹介するとか言いやがったから、余計なお世話だと言った。だから、髪を切ってきた」
なんとなく理解した。
金髪のさらさらヘアのウィルフォードは、筋肉でありながらも爽やかなのだ。それが髪を切ったことで、より野生味が溢れる。
となれば、彼に爽やかさを求めていた女性は離れていくだろう。そうなれば、ロドニーも強くは言わないだろうと、そう考えたようだ。単純といえば単純だが、素直なウィルフォードらしいといえばらしい。
ウィルフォードは少しだけ私の首元に顔を埋め、気持ちを落ち着かせていた。
「はぁ」
彼の吐息が首元に触れ、どこかくすぐったい。
「ほら、お腹、空いたでしょ? マーサさんがサービスしてくれたから、今日はぶ厚いステーキ肉よ!!」
ステーキ肉に反応したウィルフォードはやっと顔をあげる。
「アイちゃんは俺が食べたいものがわかるみたいだな」
「そんなことないわよ。私が食べたかっただけだもの」
なんとかウィルフォードを引きはがして、手を洗ってくるようにと言う。
しゅんと背中を丸めて浴室に向かう姿は、玩具をとられてとぼとぼと歩いている小型犬のよう。
見た目は屈強なのに、たまに弱々しい姿を見せてくるから気になってしまう。自立しなければと思いながらも、なかなか彼に言い出せないのはそれが原因でもあった。
ウィルフォードが着替えやら何やらしている間に、急いで夕飯の支度を整える。今日のぶ厚いステーキ肉は、いい魔獣が手に入ったからとの理由で、肉屋のマーサが色をつけてくれたものである。
この世界には魔獣と呼ばれる生き物がいる。魔獣とは魔力を備えている動物のようなもの。魔獣にも種類があり、人間たちに害をなすものと利益を与えるものと大きく二つに分けられている。
害をなす魔獣は人間を餌としたり、田畑を荒らしたりする。利益を与える魔獣は、人間たちに食を提供したり、人間たちの生活を助けてくれたりする。場合によっては愛玩となり癒しすら与えてくれるのだ。
「あ、ウィル。席について。ご飯にしましょう」
少しだけこざっぱりとしたウィルフォードが、食事の並んだテーブルの前に座る。
テーブルは、二十人くらいは座れるんじゃないかという大きなものであるが、私たちはそこの端っこに向かい合って座る。ちょっとした合宿所の食堂みたいな感じだ。
「へぇ、立派な肉だな」
「でしょでしょ? マーサさんのところで、なんかいい肉が手に入ったからって、サービスしてもらっちゃった」
「それは、あれだな。第四師団の連中がザクザクと魔獣を狩ってきたからだな。最近、外れの西の森に魔獣が住み着いて困っているという話があってな。西の森では、珍しい果実が採れるからそこに魔獣が住み着くとその果実が、魔獣たちに食べられてしまうんだ」
珍しい果実の名前はガボナといい、食べるのはもちろんのこと、粉末や液体など加工がしやすいのが特徴である。栄養価も高く、重宝されているのだ。それを主な収入源としている領地にとっては、収入減に繋がる大ダメージでもあった。そのため、魔獣討伐に騎士団の第四師団が向かったとのことだった。
つまりは、畑を荒らす猪みたいなものなのだろう。駆逐した後は食べる。
「じゃ、いただきましょう」
私が手を合わせると、ウィルフォードも慌てて手を合わせ、すぐさまフォークとナイフを手に持った。
「うん、美味い。この味付けが絶妙だな」
「よかった! これもマーサさんに教えてもらったの」
「マーサは商売上手だからな。余計な物まで買わされないように気をつけろよ」
「うっ」
私は言葉に詰まってしまった。いや、あれは余計な物ではない。必要な物だった。魔獣の内臓は健康によいからって、買わされただけだ。
「ん。このスープの味付けは独特だな。少しだけ生臭いような気もするし。変わった肉? それも入ってるな」
結局、魔獣の内臓の使い道に悩んだ私はスープに全部放り込んだ。健康によいなら、問題なし。
これ以上、この話題を続けられたらボロが出てしまう。
171
お気に入りに追加
722
あなたにおすすめの小説
追放された悪役令嬢は辺境にて隠し子を養育する
3ツ月 葵(ミツヅキ アオイ)
恋愛
婚約者である王太子からの突然の断罪!
それは自分の婚約者を奪おうとする義妹に嫉妬してイジメをしていたエステルを糾弾するものだった。
しかしこれは義妹に仕組まれた罠であったのだ。
味方のいないエステルは理不尽にも王城の敷地の端にある粗末な離れへと幽閉される。
「あぁ……。私は一生涯ここから出ることは叶わず、この場所で独り朽ち果ててしまうのね」
エステルは絶望の中で高い塀からのぞく狭い空を見上げた。
そこでの生活も数ヵ月が経って落ち着いてきた頃に突然の来訪者が。
「お姉様。ここから出してさし上げましょうか? そのかわり……」
義妹はエステルに悪魔の様な契約を押し付けようとしてくるのであった。
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
夫が私に魅了魔法をかけていたらしい
綺咲 潔
恋愛
公爵令嬢のエリーゼと公爵のラディリアスは2年前に結婚して以降、まるで絵に描いたように幸せな結婚生活を送っている。
そのはずなのだが……最近、何だかラディリアスの様子がおかしい。
気になったエリーゼがその原因を探ってみると、そこには女の影が――?
そんな折、エリーゼはラディリアスに呼び出され、思いもよらぬ告白をされる。
「君が僕を好いてくれているのは、魅了魔法の効果だ。つまり……本当の君は僕のことを好きじゃない」
私が夫を愛するこの気持ちは偽り?
それとも……。
*全17話で完結予定。
王太子殿下の想い人が騎士団長だと知った私は、張り切って王太子殿下と婚約することにしました!
奏音 美都
恋愛
ソリティア男爵令嬢である私、イリアは舞踏会場を離れてバルコニーで涼んでいると、そこに王太子殿下の逢引き現場を目撃してしまいました。
そのお相手は……ロワール騎士団長様でした。
あぁ、なんてことでしょう……
こんな、こんなのって……尊すぎますわ!!
【完結】美しい人。
❄️冬は つとめて
恋愛
「あなたが、ウイリアム兄様の婚約者? 」
「わたくし、カミーユと言いますの。ねえ、あなたがウイリアム兄様の婚約者で、間違いないかしら。」
「ねえ、返事は。」
「はい。私、ウイリアム様と婚約しています ナンシー。ナンシー・ヘルシンキ伯爵令嬢です。」
彼女の前に現れたのは、とても美しい人でした。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
もう一度だけ。
しらす
恋愛
私の一番の願いは、貴方の幸せ。
最期に、うまく笑えたかな。
**タグご注意下さい。
***ギャグが上手く書けなくてシリアスを書きたくなったので書きました。
****ありきたりなお話です。
*****小説家になろう様にても掲載しています。
結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?
秋月一花
恋愛
本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。
……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。
彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?
もう我慢の限界というものです。
「離婚してください」
「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」
白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?
あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。
※カクヨム様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる