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パーティーへのお誘い(2)
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そのまま、王立図書館王都本館へと足を向けた。そもそも娯楽の少ないところだから、時間潰しには本を読むしかない。
でも、今日を生きるために仕事をしているような人たちばかりだから、図書館はいつ行っても余生を楽しむ者か、仕事をしなくてもいいような人たちしかいなかった。あとは、学生さん。この辺は、私がいた日本と同じかもしれない。
最近、図書館から借りる本は、この世界や国について書かれているような本が多かった。地理、歴史、産業、文芸、なんでもござれ。なぜなら、この世界にきて二年経つけれども、まだわからないことも多いからだ。自国の小国の名前も覚えられないくらいだし。
ウィルフォードから離れて自立したいという気持ちもあるため、この世界についてはいろいろと知っておきたかった。場合によっては、他の国にいってもいいかなとも思っている。
ウィンと音を立てて、図書館の入口の扉が開く。ガラス戸の自動ドアになっていて、私が知っている図書館と似たようなもの。だけど、自動ドアの動力は電気ではなく魔力らしい。
この世界にきて驚いたのが、この魔力の存在である。電気もない、ガスもない、水はあるけど上下水道は整備されていない。と思っていたら魔法があって、魔法が発動する源である魔力と呼ばれる力がある。
つまり電気やガスの代わりに魔法を使う、そんなイメージ。そしてもちろん、私には魔力がない。だから、魔法は使えない。
そんな私でもお湯を沸かしたり火を起こしたりできる道具が、魔道具と呼ばれるものだ。電化製品の代わりに魔道具。そんな感じの世界である。
図書館の受付カウンターに座っている係の人とも顔なじみになった。まさしく顔パス。
一階の奥にある地理歴史の書架の前に立つ。
『国家の成り立ち』『魔獣について』『魔法の基礎』『伝説の異界人』『聖女とは』『魔道具の歴史』などなど。おとぎ話のようなタイトルが多いが、これがこの世界では現実なのだ。
今後の自立を考えると、どのようなお仕事があるかを確認しておきたいところ。
そういえば『ハローワーク』というタイトルの入った本が、過去にベストセラーになったことを思い出したが、ここではハローワークとは言わない。
紹介状をもらって他の家に奉公に行ったり、あとは知人のツテで仕事を得たりというのが多いらしい。いかにしてその紹介状とツテを手に入れるかが、仕事につくための最低条件でもある。
『十六歳からはじめる憧れのオトナになる方法』
そんなタイトルが目に飛び込んできた。
この国では、十六歳で成人を迎える。成人を迎えてからはじめるオトナの方法。興味がある。きっと立派な大人として、自立するための方法が書かれているにちがいない。
それから『自立する女性』という、哲学的なタイトルの本も見つけた。『金稼ぎ』というシンプルなタイトルにも興味が沸く。
それら三冊の本を手にして、貸出の手続きをした。
こうやって本を借りられるような身分を手に入れたのも、ウィルフォードのおかげだろう。
本をカゴにしまって、先ほど通り過ぎた露店へと足を向ける。
「アイちゃん、待ってたよ~」
露店の女将がニコニコ顔で声をかけてきたのなら、そこで買うしかない。
夕飯の準備をしていると、カタカタと物音がした。
どうやら、ウィルフォードが帰ってきたようだ。エプロンで手を拭きながら「お帰りなさい」と口にしようとしたが、残念ながら「なさい」を言う前に、私は固まってしまった。
「どうしたの? その髪」
今朝までは金髪のミディアムヘアだったウィルフォードだったはずなのに、今は坊主の一歩手前というか、スポーツ刈りというか。金色のさらさらヘアが短くなってしまった。かろうじて、前髪はツンツンと立てることができるくらいの長さだ。
「切った」
「あ、うん。切ったのは見ればわかるんだけど、なぜ切ったのかを聞きたいというかなんというか……。まぁ、ええと……そういうことで」
動揺しまくりの私は、自分でも何を言っているのかがわからなくなっていた。
「きちんと、散髪のプロに頼んだぞ? 変か?」
「変ではないけれど」
どちらかというと、より野生味が増して胸がきゅんきゅんするくらいに格好よい。むしろ、こちらの姿のほうが、好みど真ん中である。
王子様のようなキラキライケメンよりは、プロレスラーのようながちむちのワイルドイケメンが好みの私には、たまらない。
だけど、それを口にしてはいけないような気がした。だって、ウィルフォードは女性恐怖症だから、女性から格好よいとか素敵とか言い寄られると気分が悪くなるのだ。
「ただ、急に髪を切ったから驚いただけよ。変ではない。似合ってる」
その言葉で安心したのか、彼は破顔した。その笑顔が、じゃれたがる子犬のように見えて、また胸をぐっと掴まれた。
「そうか、よかった」
「だけど、パーティーがあるのでしょう? そのような姿で出席して大丈夫なの?」
「ああ。むしろ、この姿のほうが女性は寄ってこないだろ?」
それは、好みの問題もあるとは思うけれども。
とりあえず私は「そうね」と呟いた。
でも、今日を生きるために仕事をしているような人たちばかりだから、図書館はいつ行っても余生を楽しむ者か、仕事をしなくてもいいような人たちしかいなかった。あとは、学生さん。この辺は、私がいた日本と同じかもしれない。
最近、図書館から借りる本は、この世界や国について書かれているような本が多かった。地理、歴史、産業、文芸、なんでもござれ。なぜなら、この世界にきて二年経つけれども、まだわからないことも多いからだ。自国の小国の名前も覚えられないくらいだし。
ウィルフォードから離れて自立したいという気持ちもあるため、この世界についてはいろいろと知っておきたかった。場合によっては、他の国にいってもいいかなとも思っている。
ウィンと音を立てて、図書館の入口の扉が開く。ガラス戸の自動ドアになっていて、私が知っている図書館と似たようなもの。だけど、自動ドアの動力は電気ではなく魔力らしい。
この世界にきて驚いたのが、この魔力の存在である。電気もない、ガスもない、水はあるけど上下水道は整備されていない。と思っていたら魔法があって、魔法が発動する源である魔力と呼ばれる力がある。
つまり電気やガスの代わりに魔法を使う、そんなイメージ。そしてもちろん、私には魔力がない。だから、魔法は使えない。
そんな私でもお湯を沸かしたり火を起こしたりできる道具が、魔道具と呼ばれるものだ。電化製品の代わりに魔道具。そんな感じの世界である。
図書館の受付カウンターに座っている係の人とも顔なじみになった。まさしく顔パス。
一階の奥にある地理歴史の書架の前に立つ。
『国家の成り立ち』『魔獣について』『魔法の基礎』『伝説の異界人』『聖女とは』『魔道具の歴史』などなど。おとぎ話のようなタイトルが多いが、これがこの世界では現実なのだ。
今後の自立を考えると、どのようなお仕事があるかを確認しておきたいところ。
そういえば『ハローワーク』というタイトルの入った本が、過去にベストセラーになったことを思い出したが、ここではハローワークとは言わない。
紹介状をもらって他の家に奉公に行ったり、あとは知人のツテで仕事を得たりというのが多いらしい。いかにしてその紹介状とツテを手に入れるかが、仕事につくための最低条件でもある。
『十六歳からはじめる憧れのオトナになる方法』
そんなタイトルが目に飛び込んできた。
この国では、十六歳で成人を迎える。成人を迎えてからはじめるオトナの方法。興味がある。きっと立派な大人として、自立するための方法が書かれているにちがいない。
それから『自立する女性』という、哲学的なタイトルの本も見つけた。『金稼ぎ』というシンプルなタイトルにも興味が沸く。
それら三冊の本を手にして、貸出の手続きをした。
こうやって本を借りられるような身分を手に入れたのも、ウィルフォードのおかげだろう。
本をカゴにしまって、先ほど通り過ぎた露店へと足を向ける。
「アイちゃん、待ってたよ~」
露店の女将がニコニコ顔で声をかけてきたのなら、そこで買うしかない。
夕飯の準備をしていると、カタカタと物音がした。
どうやら、ウィルフォードが帰ってきたようだ。エプロンで手を拭きながら「お帰りなさい」と口にしようとしたが、残念ながら「なさい」を言う前に、私は固まってしまった。
「どうしたの? その髪」
今朝までは金髪のミディアムヘアだったウィルフォードだったはずなのに、今は坊主の一歩手前というか、スポーツ刈りというか。金色のさらさらヘアが短くなってしまった。かろうじて、前髪はツンツンと立てることができるくらいの長さだ。
「切った」
「あ、うん。切ったのは見ればわかるんだけど、なぜ切ったのかを聞きたいというかなんというか……。まぁ、ええと……そういうことで」
動揺しまくりの私は、自分でも何を言っているのかがわからなくなっていた。
「きちんと、散髪のプロに頼んだぞ? 変か?」
「変ではないけれど」
どちらかというと、より野生味が増して胸がきゅんきゅんするくらいに格好よい。むしろ、こちらの姿のほうが、好みど真ん中である。
王子様のようなキラキライケメンよりは、プロレスラーのようながちむちのワイルドイケメンが好みの私には、たまらない。
だけど、それを口にしてはいけないような気がした。だって、ウィルフォードは女性恐怖症だから、女性から格好よいとか素敵とか言い寄られると気分が悪くなるのだ。
「ただ、急に髪を切ったから驚いただけよ。変ではない。似合ってる」
その言葉で安心したのか、彼は破顔した。その笑顔が、じゃれたがる子犬のように見えて、また胸をぐっと掴まれた。
「そうか、よかった」
「だけど、パーティーがあるのでしょう? そのような姿で出席して大丈夫なの?」
「ああ。むしろ、この姿のほうが女性は寄ってこないだろ?」
それは、好みの問題もあるとは思うけれども。
とりあえず私は「そうね」と呟いた。
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