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甘えん坊のガッチリむちむち騎士(2)
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「そう、昨日は事務官の女がやってきた。ロドニーが担当している案件なのに、あいつが不在だとかなんだとか言って、俺の部屋にまでやって来やがったんだ」
吐き捨てるかのように彼はつぶやくが、そのたびに息が耳元を撫でていく。
「なんのための受付よ」
言葉と同時にため息をつく。
彼らに会うためには、いくら事務官であっても受付を通らねばならない。受付も騎士団に所属する騎士が勤め、会う相手と理由をきちんと確認する。書類程度であれば、受付の騎士が預かり、そこから必要なところに配布する仕組みになっているはずなのだが――。
昨日の女は、どうやらその受付をすり抜けてきてしまったようだ。
たまにそういうこともある。そのたびに受付での確認を強化するようにきつく言うのだが、やはり相手のほうが何枚も上手であり、金やら身体やらを使う者もいるとのこと。間違いなく、その女も、金やら身体やらを使って受付をすり抜けてきたのだろう。
女性恐怖症のウィルフォードは、職場でそうやって女性と接するたびに荒れる。帰ってきてから、私の目の届かないところで酒を飲み、暴れて寝る。
次の日はケロッとしているように見えて、こうやって甘えてくる。ウィルフォードにとって、私は母親的存在のようなもの。
だからといって、私が彼の母親の年代のわけではない。まだ二十代の裏若き乙女で、パンイチのこのあたりの年代の男性を生で見たら「キャ」と恥じらうお年頃である。
だけど、今までの生活によってそんな恥じらいはすべて失われていた。
「はいはい。受付の人間にはもっと強く注意したほうがいいわね。場合によっては懲罰も考えたほうがいいわよ。どうせ金とかもらっているんでしょう?」
ようは賄賂である。間違いなく賄賂だ。
よしよしとウィルフォードを宥める。彼は私の首元に埋めていた顔をやっとあげた。
「アイちゃん、ありがとう。シャワー浴びてくるわ」
「うん。ご飯の準備、しておくね」
私の言葉にウィルフォードは笑みを浮かべて、部屋から出ていった。せっかくなので、シーツの他に枕カバーも洗濯してしまおう。すべてに酒のにおいが染みついているような気がする。私の身体にも、雄のにおいがうつっているような感じがした。
彼の部屋を出て、洗濯物をまとめて籠にいれる。洗濯機なんて便利なものはないので、洗濯はすべて手洗いである。
私がこの世界にやって来たのは二年前。それまでは地球という惑星の日本という国にいた。ウィルフォードからはアイちゃんと呼ばれているが、本当の名は廣瀬愛璃。こちらの世界にやって来たときは二十歳だったが、二年もここで過ごしているので二十二歳になった。
私とウィルフォードの最初の出会いは、娼館と呼ばれる性的サービスを提供するお店である。
よくわからないうちにこちらの世界にやって来た私は、なぜか娼館で働くことになっていた。
家もない、家族もいない、金もない。となれば生活はできない。そんな私を拾ってくれたのが、娼館のオーナーなのだから仕方ない。
元の世界ではコミュ障だった私も、見知らぬ世界で生きていくために開き直るというもの。それに、娼館のオーナーが気さくな人柄だったのも、コミュ障の壁を少しだけ壊してくれた。
だけど娼館のオーナーは、私を初めて見た時に、女性だとは気づかなかったらしい。だから清掃員として雇おうとしてくれたのだ。それは私が童顔で、今ではミディアムヘアとなった髪型も、当時はョートヘアにしていたからだと思う。
オーナーは私が女性だと知ると悩んだようだが、とりあえずはそんな容姿では客がつかないと思ったみたいで、本当に清掃員として雇ってくれた。
身体を売らなくてよい分、私としてはありがたかった。それに他の誰かと会うたびに、体力というか忍耐力というか、それを使わない分、助かった。オーナーには感謝しても感謝しきれない。だって、当時はまだコミュ障の延長上にいたような私である。
だけどそんな想いも束の間。娼婦たちにいろいろあって人手が足りなくなってしまった。
吐き捨てるかのように彼はつぶやくが、そのたびに息が耳元を撫でていく。
「なんのための受付よ」
言葉と同時にため息をつく。
彼らに会うためには、いくら事務官であっても受付を通らねばならない。受付も騎士団に所属する騎士が勤め、会う相手と理由をきちんと確認する。書類程度であれば、受付の騎士が預かり、そこから必要なところに配布する仕組みになっているはずなのだが――。
昨日の女は、どうやらその受付をすり抜けてきてしまったようだ。
たまにそういうこともある。そのたびに受付での確認を強化するようにきつく言うのだが、やはり相手のほうが何枚も上手であり、金やら身体やらを使う者もいるとのこと。間違いなく、その女も、金やら身体やらを使って受付をすり抜けてきたのだろう。
女性恐怖症のウィルフォードは、職場でそうやって女性と接するたびに荒れる。帰ってきてから、私の目の届かないところで酒を飲み、暴れて寝る。
次の日はケロッとしているように見えて、こうやって甘えてくる。ウィルフォードにとって、私は母親的存在のようなもの。
だからといって、私が彼の母親の年代のわけではない。まだ二十代の裏若き乙女で、パンイチのこのあたりの年代の男性を生で見たら「キャ」と恥じらうお年頃である。
だけど、今までの生活によってそんな恥じらいはすべて失われていた。
「はいはい。受付の人間にはもっと強く注意したほうがいいわね。場合によっては懲罰も考えたほうがいいわよ。どうせ金とかもらっているんでしょう?」
ようは賄賂である。間違いなく賄賂だ。
よしよしとウィルフォードを宥める。彼は私の首元に埋めていた顔をやっとあげた。
「アイちゃん、ありがとう。シャワー浴びてくるわ」
「うん。ご飯の準備、しておくね」
私の言葉にウィルフォードは笑みを浮かべて、部屋から出ていった。せっかくなので、シーツの他に枕カバーも洗濯してしまおう。すべてに酒のにおいが染みついているような気がする。私の身体にも、雄のにおいがうつっているような感じがした。
彼の部屋を出て、洗濯物をまとめて籠にいれる。洗濯機なんて便利なものはないので、洗濯はすべて手洗いである。
私がこの世界にやって来たのは二年前。それまでは地球という惑星の日本という国にいた。ウィルフォードからはアイちゃんと呼ばれているが、本当の名は廣瀬愛璃。こちらの世界にやって来たときは二十歳だったが、二年もここで過ごしているので二十二歳になった。
私とウィルフォードの最初の出会いは、娼館と呼ばれる性的サービスを提供するお店である。
よくわからないうちにこちらの世界にやって来た私は、なぜか娼館で働くことになっていた。
家もない、家族もいない、金もない。となれば生活はできない。そんな私を拾ってくれたのが、娼館のオーナーなのだから仕方ない。
元の世界ではコミュ障だった私も、見知らぬ世界で生きていくために開き直るというもの。それに、娼館のオーナーが気さくな人柄だったのも、コミュ障の壁を少しだけ壊してくれた。
だけど娼館のオーナーは、私を初めて見た時に、女性だとは気づかなかったらしい。だから清掃員として雇おうとしてくれたのだ。それは私が童顔で、今ではミディアムヘアとなった髪型も、当時はョートヘアにしていたからだと思う。
オーナーは私が女性だと知ると悩んだようだが、とりあえずはそんな容姿では客がつかないと思ったみたいで、本当に清掃員として雇ってくれた。
身体を売らなくてよい分、私としてはありがたかった。それに他の誰かと会うたびに、体力というか忍耐力というか、それを使わない分、助かった。オーナーには感謝しても感謝しきれない。だって、当時はまだコミュ障の延長上にいたような私である。
だけどそんな想いも束の間。娼婦たちにいろいろあって人手が足りなくなってしまった。
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