上 下
60 / 66

第八章(4)

しおりを挟む
「そういえばイアンさんが、大聖堂の地下に何かがあると……」
「地下か……」

 うぅむと、タミオスは唸るものの、その顔はどうしたものかと言っている。
 彼が悩むのも仕方あるまい。

 ドンドン、ドンドンと乱暴に会議室の扉が叩かれた。

「なんだ? 打ち合わせ中だ」

 タミオスが慣れた様子で答えるものの、扉は乱暴に開かれた。

「大事な打ち合わせ中に悪いな」
「そ、総帥……」

 ガタガタと音を立ててタミオスは立ち上がる。フィアナもナシオンもつられて席を立つ。

「まったく……先ほどのあれはおまえの差し金か?」
「ち、ちがいます。彼女が何を言ったのかなんて、俺はさっぱりわかりませんからね」
「ふん、まぁいい。それよりも、おまえたちも捜査に入れ」

 総帥はナシオンとフィアナをギロリと睨みつけた。ナシオンなんて肩をすくめている。

「捜査? どちらにですか?」

 フィアナが尋ねれば「大聖堂だ」と返ってくる。
 フィアナはナシオンと顔を見合わせる。

「おいおい、フィアナ……お前のせいでもあるんだからな?」

 そう言った総帥の声は、けしてフィアナを咎めているわけではない。

「あのあと、アルテール殿下がな。大聖堂の話を暴露し始めて、捜査に入らないわけにはいかない状況になった」
「ですが、今、カリノさんの捜査中ですよね?」
「その件と、アルテール殿下の件は別だ。アルテール殿下が言うには、大聖堂では非人道的な実験が行われていると。そういったたれ込みがあったなら、我々としては事実を確認する必要があるだろう?」

 だからアルテールが言ったからではなく、そういった事実があるというたれ込みがあったことが原因だとでも強調するかのようだった。

「先ほどの子も逆移送でこちらに送り返される。そっちはそっちで再捜査。はっきりいって今、手が足りない。おまえたちも大聖堂に行き、捜査にくわわってくれ。特にフィアナ。おまえは怪しいと思ったところを徹底的に洗い出してこい」

 はい、とフィアナは返事をした。

「タミオス。お前は私と一緒に、指揮を取れ。あっちもこっちもで、もう手が回らん」
「はい」

 こんなときでも、三人分のカップをささっと片づけるナシオンには頭が上がらない。
 フィアナとナシオンは、素早く準備をすませると大聖堂へと足を向ける。

「まったく……いったい、何が起こったのやら……」

 走りながらもナシオンがそうぼやくのも仕方ないだろう。フィアナだって同じ思いだ。

「ですが。イアンさんが言っていた地下室。もしかしたら、入れるかもしれませんね」
「かもしれない。じゃなくて、入らなきゃやばいだろ?」

 大聖堂に近づくと「キャー」という、女性特有の甲高い声が聞こえる。
 フィアナはとにかく顔見知りの誰かを探すことにした。門扉の前にはイアンが立っている。

「あ、イアンさん……」
「あぁ。私もあなたを探しておりました。これはいったい、どういうことでしょう? 突然、彼らが押し寄せてきて……今、大聖堂の中は混乱しております」
「申し訳ありません。巫女たちには、自室に戻るようにと言ってもらえませんか? 彼女たちを脅そうとか思っているわけではありません。私たちは、真実を暴きにきました」

 イアンはフィアナとナシオンに交互に視線を向けた。

「そうですね。先に来たあの者たちよりも、あなたたちのほうが信用はできますからね。どうぞ……」

 そう言ったイアンは、近くにいた聖騎士らに指示を出し始める。
 フィアナは大きく息を吸ってから、大聖堂の中に一歩、足を踏み入れた。
 回廊には取り込んだであろう洗濯物が、放り出されている。騎士らの姿を目にした巫女たちが、慌てて逃げたようだ。

「もうちょっと、穏便にやれないのかね。あの人たちは……」

 ナシオンも、ぼそりと呟いた。

「あいつら。頭の中まで筋肉みたいな存在だから、無理か」

 ナシオンが自分で答えを出したところで、目の前に王国騎士団の彼らを見つけた。

「情報部のフィアナ・フラシスです」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

学園アルカナディストピア

石田空
ファンタジー
国民全員にアルカナカードが配られ、大アルカナには貴族階級への昇格が、小アルカナには平民としての屈辱が与えられる階級社会を形成していた。 その中で唯一除外される大アルカナが存在していた。 何故か大アルカナの内【運命の輪】を与えられた人間は処刑されることとなっていた。 【運命の輪】の大アルカナが与えられ、それを秘匿して生活するスピカだったが、大アルカナを持つ人間のみが在籍する学園アルカナに召喚が決まってしまう。 スピカは自分が【運命の輪】だと気付かれぬよう必死で潜伏しようとするものの、学園アルカナ内の抗争に否が応にも巻き込まれてしまう。 国の維持をしようとする貴族階級の生徒会。 国に革命を起こすために抗争を巻き起こす平民階級の組織。 何故か暗躍する人々。 大アルカナの中でも発生するスクールカースト。 入学したてで右も左もわからないスピカは、同時期に入学した【愚者】の少年アレスと共に抗争に身を投じることとなる。 ただの学園内抗争が、世界の命運を決める……? サイトより転載になります。

草食系ヴァンパイアはどうしていいのか分からない!!

アキナヌカ
ファンタジー
ある時、ある場所、ある瞬間に、何故だか文字通りの草食系ヴァンパイアが誕生した。 思いつくのは草刈りとか、森林を枯らして開拓とか、それが実は俺の天職なのか!? 生まれてしまったものは仕方がない、俺が何をすればいいのかは分からない! なってしまった草食系とはいえヴァンパイア人生、楽しくいろいろやってみようか!! ◇以前に別名で連載していた『草食系ヴァンパイアは何をしていいのかわからない!!』の再連載となります。この度、完結いたしました!!ありがとうございます!!評価・感想などまだまだおまちしています。ピクシブ、カクヨム、小説家になろうにも投稿しています◇

逆行転生した悪役令嬢だそうですけれど、反省なんてしてやりませんわ!

九重
恋愛
我儘で自分勝手な生き方をして処刑されたアマーリアは、時を遡り、幼い自分に逆行転生した。 しかし、彼女は、ここで反省できるような性格ではなかった。 アマーリアは、破滅を回避するために、自分を処刑した王子や聖女たちの方を変えてやろうと決意する。 これは、逆行転生した悪役令嬢が、まったく反省せずに、やりたい放題好き勝手に生きる物語。 ツイッターで先行して呟いています。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

辺境伯聖女は城から追い出される~もう王子もこの国もどうでもいいわ~

サイコちゃん
恋愛
聖女エイリスは結界しか張れないため、辺境伯として国境沿いの城に住んでいた。しかし突如王子がやってきて、ある少女と勝負をしろという。その少女はエイリスとは違い、聖女の資質全てを備えていた。もし負けたら聖女の立場と爵位を剥奪すると言うが……あることが切欠で全力を発揮できるようになっていたエイリスはわざと負けることする。そして国は真の聖女を失う――

身に覚えがないのに断罪されるつもりはありません

おこめ
恋愛
シャーロット・ノックスは卒業記念パーティーで婚約者のエリオットに婚約破棄を言い渡される。 ゲームの世界に転生した悪役令嬢が婚約破棄後の断罪を回避するお話です。 さらっとハッピーエンド。 ぬるい設定なので生温かい目でお願いします。

【完結】人々に魔女と呼ばれていた私が実は聖女でした。聖女様治療して下さい?誰がんな事すっかバーカ!

隣のカキ
ファンタジー
私は魔法が使える。そのせいで故郷の村では魔女と迫害され、悲しい思いをたくさんした。でも、村を出てからは聖女となり活躍しています。私の唯一の味方であったお母さん。またすぐに会いに行きますからね。あと村人、テメぇらはブッ叩く。 ※三章からバトル多めです。

処理中です...