31 / 66
第四章(7)
しおりを挟む
「おいおい、お前たち。自分がどれだけ危険なことを言っているのか、わかっているのか?」
「わかっています。ですが、このまま闇に葬り去ってもよい案件だとは思えません。仮に王太子殿下が聖女様を殺害したのであれば、やはりそこははっきりすべきです」
フィアナがこれほどまで大きな声を出すのも珍しいだろう。
「動機はなんだ? お嬢ちゃんが聖女様を殺す理由がないのであれば、王太子殿下にだってないだろ?」
「聖女と王太子という関係であればないのかもしれませんが。男と女になればあるのでは?」
ナシオンの言葉にタミオスもぎょっと目を見開く。ナシオンののんべんだらりとした言い方が思い雰囲気をやわらげてはいるものの、それがタミオスの眉間のしわの原因にもなるのだ。
「王太子は聖女に求婚して振られているようです。しかも、聖女からみれば王太子の第一印象は最悪ときたもんだ。それはもう、挽回できないくらいに。それでも王太子はしつこく聖女のもとへ通っていたようですが、聖女はそれを全力で拒否する。だというのに、それが突然、聖女のほうから王城へ向かうようになった。あれだけ王太子を嫌っていたはずなのに、なぜ王城へ行くようになったのか? この心変わり具合もよくわからないのですがね。まあ、二人の関係は交際にまでは発展していないみたいですけど。とにかく、聖女を手に入れたい王太子と、その王太子から逃げたい聖女。そんな男女であれば、もめ事も起こりやすいのではないですか?」
タミオスが額に右手を押しつけて唸っている。
「お前たちは、頭が痛くなるようなことしか言わないな」
「俺が言ったわけではないですよ? カリノちゃんが言ったんですって。王太子は聖女に振られたってね。ですがね、振られてもしつこく言い寄って、その挙げ句に感情が爆発したってこともあるかもしれませんよね? まあ、そんな事件、その辺にもごろごろしているでしょう?」
ナシオンの言ったことが間違いではないのが恐ろしい。
恋人、夫婦関係のもつれから事件が起こるというのは、ここ王都エルメルでも珍しい話しではない。そういった事件の捜査に駆り出されたことだって、何度もある。
「とにかくだ。この件について、俺からはなんも言えねぇ。第一の奴らにも伝えない。だが、お前たちがそれを時間外にやるというのであれば、止めはしない。なにしろ、時間外だからな。俺の管轄外だ」
フィアナはナシオンと顔を見合わせた。
「お前たちの言い分もわかるし、現場から王太子殿下の短剣が出てきたら、事件の内容がひっくり返る。だが、それを俺が主導でやってはいけないんだ。そうなったとたん、この情報部は王国騎士団全部と王族を敵にまわす」
「だけど、俺たちが勝手にやったことであれば、万が一のときには、俺たちだけばっさりと切ればいい。そういうことですね?」
ナシオンが右眉をひくりと動かした。
「すまん。俺には俺の部下を守る義務がある」
「いえ、知っていながらも黙って見過ごしてくれる。これほど心強いものはありません。もしものときは、骨を拾ってください」
フィアナは真っ直ぐにタミオスを見つめる。
「拾いはするが、お前たちの意志は継がないからな。お前たちが骨になれば、この事件の真相は闇に葬り去られるわけだ。だから、真実を明らかにさせたいのであれば、骨になるなよ」
先ほどからタミオスも素直ではない。だけど、その素直ではない言葉が、フィアナには嬉しかった。
間違いなく、カリノは聖女殺しの犯人ではない。
それを信じてくれる仲間がいるのだから。
「わかっています。ですが、このまま闇に葬り去ってもよい案件だとは思えません。仮に王太子殿下が聖女様を殺害したのであれば、やはりそこははっきりすべきです」
フィアナがこれほどまで大きな声を出すのも珍しいだろう。
「動機はなんだ? お嬢ちゃんが聖女様を殺す理由がないのであれば、王太子殿下にだってないだろ?」
「聖女と王太子という関係であればないのかもしれませんが。男と女になればあるのでは?」
ナシオンの言葉にタミオスもぎょっと目を見開く。ナシオンののんべんだらりとした言い方が思い雰囲気をやわらげてはいるものの、それがタミオスの眉間のしわの原因にもなるのだ。
「王太子は聖女に求婚して振られているようです。しかも、聖女からみれば王太子の第一印象は最悪ときたもんだ。それはもう、挽回できないくらいに。それでも王太子はしつこく聖女のもとへ通っていたようですが、聖女はそれを全力で拒否する。だというのに、それが突然、聖女のほうから王城へ向かうようになった。あれだけ王太子を嫌っていたはずなのに、なぜ王城へ行くようになったのか? この心変わり具合もよくわからないのですがね。まあ、二人の関係は交際にまでは発展していないみたいですけど。とにかく、聖女を手に入れたい王太子と、その王太子から逃げたい聖女。そんな男女であれば、もめ事も起こりやすいのではないですか?」
タミオスが額に右手を押しつけて唸っている。
「お前たちは、頭が痛くなるようなことしか言わないな」
「俺が言ったわけではないですよ? カリノちゃんが言ったんですって。王太子は聖女に振られたってね。ですがね、振られてもしつこく言い寄って、その挙げ句に感情が爆発したってこともあるかもしれませんよね? まあ、そんな事件、その辺にもごろごろしているでしょう?」
ナシオンの言ったことが間違いではないのが恐ろしい。
恋人、夫婦関係のもつれから事件が起こるというのは、ここ王都エルメルでも珍しい話しではない。そういった事件の捜査に駆り出されたことだって、何度もある。
「とにかくだ。この件について、俺からはなんも言えねぇ。第一の奴らにも伝えない。だが、お前たちがそれを時間外にやるというのであれば、止めはしない。なにしろ、時間外だからな。俺の管轄外だ」
フィアナはナシオンと顔を見合わせた。
「お前たちの言い分もわかるし、現場から王太子殿下の短剣が出てきたら、事件の内容がひっくり返る。だが、それを俺が主導でやってはいけないんだ。そうなったとたん、この情報部は王国騎士団全部と王族を敵にまわす」
「だけど、俺たちが勝手にやったことであれば、万が一のときには、俺たちだけばっさりと切ればいい。そういうことですね?」
ナシオンが右眉をひくりと動かした。
「すまん。俺には俺の部下を守る義務がある」
「いえ、知っていながらも黙って見過ごしてくれる。これほど心強いものはありません。もしものときは、骨を拾ってください」
フィアナは真っ直ぐにタミオスを見つめる。
「拾いはするが、お前たちの意志は継がないからな。お前たちが骨になれば、この事件の真相は闇に葬り去られるわけだ。だから、真実を明らかにさせたいのであれば、骨になるなよ」
先ほどからタミオスも素直ではない。だけど、その素直ではない言葉が、フィアナには嬉しかった。
間違いなく、カリノは聖女殺しの犯人ではない。
それを信じてくれる仲間がいるのだから。
71
お気に入りに追加
188
あなたにおすすめの小説
男装の皇族姫
shishamo346
ファンタジー
辺境の食糧庫と呼ばれる領地の領主の息子として誕生したアーサーは、実の父、平民の義母、腹違いの義兄と義妹に嫌われていた。
領地では、妖精憑きを嫌う文化があるため、妖精憑きに愛されるアーサーは、領地民からも嫌われていた。
しかし、領地の借金返済のために、アーサーの母は持参金をもって嫁ぎ、アーサーを次期領主とすることを母の生家である男爵家と契約で約束させられていた。
だが、誕生したアーサーは女の子であった。帝国では、跡継ぎは男のみ。そのため、アーサーは男として育てられた。
そして、十年に一度、王都で行われる舞踏会で、アーサーの復讐劇が始まることとなる。
なろうで妖精憑きシリーズの一つとして書いていたものをこちらで投稿しました。
草食系ヴァンパイアはどうしていいのか分からない!!
アキナヌカ
ファンタジー
ある時、ある場所、ある瞬間に、何故だか文字通りの草食系ヴァンパイアが誕生した。
思いつくのは草刈りとか、森林を枯らして開拓とか、それが実は俺の天職なのか!?
生まれてしまったものは仕方がない、俺が何をすればいいのかは分からない!
なってしまった草食系とはいえヴァンパイア人生、楽しくいろいろやってみようか!!
◇以前に別名で連載していた『草食系ヴァンパイアは何をしていいのかわからない!!』の再連載となります。この度、完結いたしました!!ありがとうございます!!評価・感想などまだまだおまちしています。ピクシブ、カクヨム、小説家になろうにも投稿しています◇
逆行転生した悪役令嬢だそうですけれど、反省なんてしてやりませんわ!
九重
恋愛
我儘で自分勝手な生き方をして処刑されたアマーリアは、時を遡り、幼い自分に逆行転生した。
しかし、彼女は、ここで反省できるような性格ではなかった。
アマーリアは、破滅を回避するために、自分を処刑した王子や聖女たちの方を変えてやろうと決意する。
これは、逆行転生した悪役令嬢が、まったく反省せずに、やりたい放題好き勝手に生きる物語。
ツイッターで先行して呟いています。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
サフォネリアの咲く頃
水星直己
ファンタジー
物語の舞台は、大陸ができたばかりの古の時代。
人と人ではないものたちが存在する世界。
若い旅の剣士が出逢ったのは、赤い髪と瞳を持つ『天使』。
それは天使にあるまじき災いの色だった…。
※ 一般的なファンタジーの世界に独自要素を追加した世界観です。PG-12推奨。若干R-15も?
※pixivにも同時掲載中。作品に関するイラストもそちらで投稿しています。
https://www.pixiv.net/users/50469933
辺境伯聖女は城から追い出される~もう王子もこの国もどうでもいいわ~
サイコちゃん
恋愛
聖女エイリスは結界しか張れないため、辺境伯として国境沿いの城に住んでいた。しかし突如王子がやってきて、ある少女と勝負をしろという。その少女はエイリスとは違い、聖女の資質全てを備えていた。もし負けたら聖女の立場と爵位を剥奪すると言うが……あることが切欠で全力を発揮できるようになっていたエイリスはわざと負けることする。そして国は真の聖女を失う――
身に覚えがないのに断罪されるつもりはありません
おこめ
恋愛
シャーロット・ノックスは卒業記念パーティーで婚約者のエリオットに婚約破棄を言い渡される。
ゲームの世界に転生した悪役令嬢が婚約破棄後の断罪を回避するお話です。
さらっとハッピーエンド。
ぬるい設定なので生温かい目でお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる