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第一章(5)
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「ああ、俺もしらん」
予想した通りの答えが返ってきた。これでナシオンが神聖力について知っていたらもうけもんだと、そんなふうに考えていただけだった。
ナシオンはフィアナの隣の席に座る。
「ナシオンさん。あの子と話をして、本当にあの子がやったのかって、そればかり考えているんです」
心の中にあったもやもやを吐露した。
「それは、何かの根拠があってそう思っているのか?」
「いえ、勘です」
だから、どこにも報告はできない。根拠のない勘は、捜査を混乱させるだけ。それなのに勘は大事にしろとも言われている。
「俺たち情報部の人間としては、情報を収集し、その情報から真実を見極めるだけだからな」
余計な感情は捨てろとでもナシオンは言いたげだった。
「おい、フィアナ」
部屋の入り口から大声で名前を呼ばれた。フィアナ以外の者も顔をあげ、声の出所を確認するように首を振る。
「は、はい」
立ち上がって、ここにいますとアピールしなければ、その者はフィアナの名前を大声で呼び続けるのではないかと思えてきた。
さらに声をしたほうに顔を向けると、情報部をとりまとめている情報部長、タミオスの姿が目に入る。
「なんだ、そこにいたのか。小さくて見えなかった」
フィアナの父親と同じくらいの年代のタミオスは、こうやってフィアナをいじるような発言をちょくちょくとしてくる。
「部長、それ禁句です」
すかさず反論したのはナシオンだ。
「なんだ。ナシオンまでいるのか」
「俺たち、コンビですからね。二人一組での行動が基本」
ナシオンとタミオスの話を聞きながらも、いったいこのようなときになんの用だろうと、フィアナは思案する。たいてい、タミオス本人がこうやってフィアナを探しているときは、面倒な仕事しか持ってこない。
今日のカリノの取り調べだって、彼がフィアナを指名したからだ。
ダミオスがずかずかと目の前にまで近づいてきたので、ぐいっと見上げた。
どうせなので、ついでに今日の調書も手渡しておく。
「部長。本日の調書です。たいした話は聞けておりませんが、今後の扱いについてはひととおり説明はしました」
「一度ですべて聞き出せなんては言わない。お前に望むのは、あの子の心に寄り添って真実を聞き出すことだ」
この男はフィアナをけなしたかと思えば、こうやって励ます言葉をかけてくる。フィアナも苦手とする人物の一人であるものの、嫌いになれないのはこのような面があるからだろう。
「明日は、大聖堂に行って巫女たちの話を聞いてくれ」
「それは、第一が担当ではないのですか?」
現場を確認したり関係者から話を聞いたりしているのは、第一騎士団に所属する騎士たちだ。
「そうなんだが……。巫女たちが、あいつらを見て怯えてるみたいでな。こう、会話が弾まないというか」
会話を弾ませるようなところではないのだが、巫女たちから必要な話が引き出せていないというのだけはわかった。
フィアナ自身も、今日は同じような感じだ。カリノから必要な情報を聞き出せていない。
巫女たちも、いきなり男性の騎士がずかずかとやってきて、話を聞かせてくれと言われたら、警戒してしまうだろう。まして俗世と距離を置いている彼女たちであれば、なおのこと。
「まあ。今日のこれからの会議であいつらの成果報告もあるだろうが。どこも似たり寄ったりだろうな。被害者が聖女様ってだけで、なんかこう、隠されている感じがするんだよな」
フィアナが手渡した調書を、手のひらにパシンパシンと打ち付けて、タミオスは自席へと戻っていく。同じ部署なだけに、その席もわりと近くにある。
「淹れ直す?」
ナシオンが聞いたのは紅茶のことだろう。カップから、ゆらいでいた白い湯気は消えている。
「いえ、大丈夫です」
予想した通りの答えが返ってきた。これでナシオンが神聖力について知っていたらもうけもんだと、そんなふうに考えていただけだった。
ナシオンはフィアナの隣の席に座る。
「ナシオンさん。あの子と話をして、本当にあの子がやったのかって、そればかり考えているんです」
心の中にあったもやもやを吐露した。
「それは、何かの根拠があってそう思っているのか?」
「いえ、勘です」
だから、どこにも報告はできない。根拠のない勘は、捜査を混乱させるだけ。それなのに勘は大事にしろとも言われている。
「俺たち情報部の人間としては、情報を収集し、その情報から真実を見極めるだけだからな」
余計な感情は捨てろとでもナシオンは言いたげだった。
「おい、フィアナ」
部屋の入り口から大声で名前を呼ばれた。フィアナ以外の者も顔をあげ、声の出所を確認するように首を振る。
「は、はい」
立ち上がって、ここにいますとアピールしなければ、その者はフィアナの名前を大声で呼び続けるのではないかと思えてきた。
さらに声をしたほうに顔を向けると、情報部をとりまとめている情報部長、タミオスの姿が目に入る。
「なんだ、そこにいたのか。小さくて見えなかった」
フィアナの父親と同じくらいの年代のタミオスは、こうやってフィアナをいじるような発言をちょくちょくとしてくる。
「部長、それ禁句です」
すかさず反論したのはナシオンだ。
「なんだ。ナシオンまでいるのか」
「俺たち、コンビですからね。二人一組での行動が基本」
ナシオンとタミオスの話を聞きながらも、いったいこのようなときになんの用だろうと、フィアナは思案する。たいてい、タミオス本人がこうやってフィアナを探しているときは、面倒な仕事しか持ってこない。
今日のカリノの取り調べだって、彼がフィアナを指名したからだ。
ダミオスがずかずかと目の前にまで近づいてきたので、ぐいっと見上げた。
どうせなので、ついでに今日の調書も手渡しておく。
「部長。本日の調書です。たいした話は聞けておりませんが、今後の扱いについてはひととおり説明はしました」
「一度ですべて聞き出せなんては言わない。お前に望むのは、あの子の心に寄り添って真実を聞き出すことだ」
この男はフィアナをけなしたかと思えば、こうやって励ます言葉をかけてくる。フィアナも苦手とする人物の一人であるものの、嫌いになれないのはこのような面があるからだろう。
「明日は、大聖堂に行って巫女たちの話を聞いてくれ」
「それは、第一が担当ではないのですか?」
現場を確認したり関係者から話を聞いたりしているのは、第一騎士団に所属する騎士たちだ。
「そうなんだが……。巫女たちが、あいつらを見て怯えてるみたいでな。こう、会話が弾まないというか」
会話を弾ませるようなところではないのだが、巫女たちから必要な話が引き出せていないというのだけはわかった。
フィアナ自身も、今日は同じような感じだ。カリノから必要な情報を聞き出せていない。
巫女たちも、いきなり男性の騎士がずかずかとやってきて、話を聞かせてくれと言われたら、警戒してしまうだろう。まして俗世と距離を置いている彼女たちであれば、なおのこと。
「まあ。今日のこれからの会議であいつらの成果報告もあるだろうが。どこも似たり寄ったりだろうな。被害者が聖女様ってだけで、なんかこう、隠されている感じがするんだよな」
フィアナが手渡した調書を、手のひらにパシンパシンと打ち付けて、タミオスは自席へと戻っていく。同じ部署なだけに、その席もわりと近くにある。
「淹れ直す?」
ナシオンが聞いたのは紅茶のことだろう。カップから、ゆらいでいた白い湯気は消えている。
「いえ、大丈夫です」
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