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第三章(6)
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しかし、その耐えしのぐ時間が問題なのだ。長ければ、一週間ほど続く。今回飲んだお酒に含まれるイチゴの成分が、どのくらいの量、濃度だったかがわからない。しかも二杯も飲んでしまった。最低でも三日、長ければ一週間は見積もったほうがいいだろう。その間、もちろんクローディアの補佐官として仕事をすることなどできない。クローディアには迷惑をかけてしまう。
とにかく体調不良ということで、休暇を申請しなければ。
「とりあえず、俺の部屋に連れていく」
このような姿を他人には見られたくなかった。もちろん、イライアスにもだ。
この事実は、シェリルにとっての弱みのようなもの。他人の弱みを握りたいとは思いつつも、自身の弱みはけして知られたくないというのは、人間の性だろう。
「少しドレスを緩めよう。苦しそうだ」
部屋に入ったとたん、イライアスがシェリルの背中にあるドレスの鈎を、プツ、プツと、外していく。さらにコルセットの編み上げもゆっくりと緩めた。
ここは幾度となく足を運んだ彼の部屋。だけど、いつもは居間で食事をするだけ。寝室にまで入ったのは、初めてだ。天蓋つきの豪奢なベッド、マホガニーのソファは落ち着いた室内と調和している。
中途半端にドレスを脱がされたシェリルは、静かにそこにおろされた。
「……はぁ」
しめつけられていた胸が解放され、大きく呼吸ができるようになった。そのままずるりと背もたれに身体を預ける。
そんなシェリルの様子を、隣に座ったイライアスは凝視していた。
「殿下……な、何を見ているんですか?」
「す、すまない」
イライアスが慌てて顔を逸らす。
はしたない姿をイライアスに見せている自覚はあるし、これからもっと乱れた姿を見せるだろう。
「んっ……は、はぁ……」
シェリルは緩めたドレスの胸元をつかんで、パタパタと仰ぐ。
「暑いのか?」
「身体が火照っているだけです……」
放っておいてほしい。だけど、先ほどからイライアスがこちらを気にかけている様子が伝わってくる。
(とにかく、早く部屋に戻りたい……)
しかし、ここから自室に戻る手段は歩くしかない。このような状況で、まともに歩けるとも思えなかった。どうせなら、イライアスの部屋ではなくシェリルの部屋に連れていってくれればよかったのに。
そうしたら、こんなドレスもコルセットもすべて脱ぎ捨てて、素っ裸で寝台の上に寝転がれるだろう。
それに、隣にイライアスがいるだけで、酩酊感が襲ってくる。なぜか彼の匂いをより強く感じ、下腹部がずくりと疼く。
「はぁ……、んっ……。ごめ……なさ……」
変な声が出てしまうのを謝罪しようとしても、まともに言葉が出てこない。それらは熱い吐息の中に消えていく。
「気にするな」
気にするなと言われても、シェリルとしては気にしてしまう。
「やはり、全部脱いだほうがいいな? 苦しいだろう?」
苦しいのは事実。いくら緩めたと言っても、肌に布地がまとわりついているところは、圧迫感がある。
「ちょっと待っていろ」
イライアスがそう言うと、扉を叩く音が聞こえた。
彼は居間へと向かい、扉を開けて何やらやりとりをし、ワゴンを押しながら戻ってくる。
「先に、水でも飲むか?」
コクンと頷く。暑さのせいで口の中がからからに渇いていた。
「身体、起こせるか?」
横になったまま、シェリルは指一本、動かしたくなかった。それでもこのままでは水が飲めない。ゆっくりと身体を起こすために手をつくと、力が入らない。
「無理そうだな……」
その様子を見ていたイライアスも、困ったように目を細くした。
思い通りにならない身体が情けない。イチゴのお酒を飲んだだけでこのざまだ。悔しいのか恥ずかしいのかすらもわからなくなってきた。
とにかく体調不良ということで、休暇を申請しなければ。
「とりあえず、俺の部屋に連れていく」
このような姿を他人には見られたくなかった。もちろん、イライアスにもだ。
この事実は、シェリルにとっての弱みのようなもの。他人の弱みを握りたいとは思いつつも、自身の弱みはけして知られたくないというのは、人間の性だろう。
「少しドレスを緩めよう。苦しそうだ」
部屋に入ったとたん、イライアスがシェリルの背中にあるドレスの鈎を、プツ、プツと、外していく。さらにコルセットの編み上げもゆっくりと緩めた。
ここは幾度となく足を運んだ彼の部屋。だけど、いつもは居間で食事をするだけ。寝室にまで入ったのは、初めてだ。天蓋つきの豪奢なベッド、マホガニーのソファは落ち着いた室内と調和している。
中途半端にドレスを脱がされたシェリルは、静かにそこにおろされた。
「……はぁ」
しめつけられていた胸が解放され、大きく呼吸ができるようになった。そのままずるりと背もたれに身体を預ける。
そんなシェリルの様子を、隣に座ったイライアスは凝視していた。
「殿下……な、何を見ているんですか?」
「す、すまない」
イライアスが慌てて顔を逸らす。
はしたない姿をイライアスに見せている自覚はあるし、これからもっと乱れた姿を見せるだろう。
「んっ……は、はぁ……」
シェリルは緩めたドレスの胸元をつかんで、パタパタと仰ぐ。
「暑いのか?」
「身体が火照っているだけです……」
放っておいてほしい。だけど、先ほどからイライアスがこちらを気にかけている様子が伝わってくる。
(とにかく、早く部屋に戻りたい……)
しかし、ここから自室に戻る手段は歩くしかない。このような状況で、まともに歩けるとも思えなかった。どうせなら、イライアスの部屋ではなくシェリルの部屋に連れていってくれればよかったのに。
そうしたら、こんなドレスもコルセットもすべて脱ぎ捨てて、素っ裸で寝台の上に寝転がれるだろう。
それに、隣にイライアスがいるだけで、酩酊感が襲ってくる。なぜか彼の匂いをより強く感じ、下腹部がずくりと疼く。
「はぁ……、んっ……。ごめ……なさ……」
変な声が出てしまうのを謝罪しようとしても、まともに言葉が出てこない。それらは熱い吐息の中に消えていく。
「気にするな」
気にするなと言われても、シェリルとしては気にしてしまう。
「やはり、全部脱いだほうがいいな? 苦しいだろう?」
苦しいのは事実。いくら緩めたと言っても、肌に布地がまとわりついているところは、圧迫感がある。
「ちょっと待っていろ」
イライアスがそう言うと、扉を叩く音が聞こえた。
彼は居間へと向かい、扉を開けて何やらやりとりをし、ワゴンを押しながら戻ってくる。
「先に、水でも飲むか?」
コクンと頷く。暑さのせいで口の中がからからに渇いていた。
「身体、起こせるか?」
横になったまま、シェリルは指一本、動かしたくなかった。それでもこのままでは水が飲めない。ゆっくりと身体を起こすために手をつくと、力が入らない。
「無理そうだな……」
その様子を見ていたイライアスも、困ったように目を細くした。
思い通りにならない身体が情けない。イチゴのお酒を飲んだだけでこのざまだ。悔しいのか恥ずかしいのかすらもわからなくなってきた。
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