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第三章(2)
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シェリルも驚き、イライアスのほうに向き直る。
目が合った。瞬間、イライアスの顔が少しずつ赤くなっていく。
「シェリル……きれいだ……よく似合っている……」
熱っぽい視線を向けられ、挙げ句そんなことを言われてしまえば、シェリルでさえも勘違いしてしまいそうになる。
だが、心を引き締める。
「お褒めいただきありがとうございます」
イライアスだって黒紅の上衣に金色の刺繍が施され、繊細な白いレースのクラヴァットが目を引く。普段は前髪をおろしているのに、今日はすっきりと後ろになでつけていた。
(どうしよう……イライアス様が……新鮮だわ……)
いつもと違う彼の姿を目にして、胸が音を立てて弾んだ。
「皆が待っている。では行こうか」
しかし、シェリルの手を取ったイライアスは、そこでいきなり跪いた。
驚いたのはシェリルだけではない。側にいた侍女たちも、きょとんと目を丸くする。
「シェリル・イートン。どうか私と結婚してほしい」
こんな熱く真剣な眼差しのイライアスの顔を、シェリルは見たことがない。
それに今、彼はシェリルに向かってなんと言ったのか。
室内はシンと静まり返り、心臓の音だけがトクントクンと身体に響く。
「シェリル……?」
不安そうに見上げるイライアスの瞳は、かすかに揺らめいている。
「は、はい。すみません、突然のことで驚きました」
驚きすぎて、呼吸をするのも忘れたくらい。
そして、それは紛れもないシェリルの本心。急にこのようなことをされたら、誰だって驚くだろう。なによりも二人の関係は偽りのもの。
「これから皆の前で俺たちの仲を発表するからな。その前に、きちんと伝えておこうと思ったのだよ」
イライアスが手の甲にちゅっと唇を落とせば、キャーと侍女たちからは悲鳴のような声があがる。
「は、はい……ありがとうございます。嬉しいです」
なぜか目頭が熱くなった。だが、ここで涙を流してはせっかくの化粧が落ちてしまう。
泣かないようにと目に力を入れる表情を見られたくないから、少しだけ顔を逸らして彼の腕をとった。
偽りの関係だとわかっているし、この婚約の先に待ち受けているキャサリンたちからの仕打ちも予想がつくというのに、高鳴る鼓動をおさえることはできなかった。
大広前へと続く扉の前で足を止める。背丈の倍以上もある白い荘厳な扉には、蔦模様が金色で描かれている。この扉の向こうには、国内外からたくさんの人が集まっているのだ。そして、ナーレスト王国王太子の婚約者となる人物がどのような者なのかと、いまかいまかと待っているのだろう。王太子妃となりうる人物としてふさわしいのかと、その価値を見定めるために。
イライアスと結婚したいと思っている令嬢も多々いるだろう。むしろ、娘をその相手にと望んでいた者も多い。そこを勝ち抜いた者だけがイライアスの隣に立てると思われていた。
だが、今までその話題にあがらなかったシェリルが、ひょこっと現れたわけだ。
「あの……殿下。今日はわたしも少しだけ化粧をしているのですが、大丈夫でしょうか?」
彼は化粧と香水のにおいが嫌いだったはず。
「問題ない。シェリルからはいい匂いしかしない。堂々としていろ」
なぜかその言葉で、シェリルの気持ちがふわりと軽くなった。
白い扉が重々しく開き、音楽団の華やかな演奏が聞こえてきた。
まばゆい光を放つシャンデリアによって、ホール内は隅々まで明るい。一歩足を踏み入れると、視線を感じた。それも一人や二人の視線ではない。集まっているすべての人間の眼差しが、一斉に二人に向いたのだ。
壇上には国王と王妃が座っており、にこやかに笑みを浮かべている。
シェリルはイライアスに身体を預け、すべてを彼にまかせるかのようにして歩を進める。二人は、国王の隣に立つ。
目が合った。瞬間、イライアスの顔が少しずつ赤くなっていく。
「シェリル……きれいだ……よく似合っている……」
熱っぽい視線を向けられ、挙げ句そんなことを言われてしまえば、シェリルでさえも勘違いしてしまいそうになる。
だが、心を引き締める。
「お褒めいただきありがとうございます」
イライアスだって黒紅の上衣に金色の刺繍が施され、繊細な白いレースのクラヴァットが目を引く。普段は前髪をおろしているのに、今日はすっきりと後ろになでつけていた。
(どうしよう……イライアス様が……新鮮だわ……)
いつもと違う彼の姿を目にして、胸が音を立てて弾んだ。
「皆が待っている。では行こうか」
しかし、シェリルの手を取ったイライアスは、そこでいきなり跪いた。
驚いたのはシェリルだけではない。側にいた侍女たちも、きょとんと目を丸くする。
「シェリル・イートン。どうか私と結婚してほしい」
こんな熱く真剣な眼差しのイライアスの顔を、シェリルは見たことがない。
それに今、彼はシェリルに向かってなんと言ったのか。
室内はシンと静まり返り、心臓の音だけがトクントクンと身体に響く。
「シェリル……?」
不安そうに見上げるイライアスの瞳は、かすかに揺らめいている。
「は、はい。すみません、突然のことで驚きました」
驚きすぎて、呼吸をするのも忘れたくらい。
そして、それは紛れもないシェリルの本心。急にこのようなことをされたら、誰だって驚くだろう。なによりも二人の関係は偽りのもの。
「これから皆の前で俺たちの仲を発表するからな。その前に、きちんと伝えておこうと思ったのだよ」
イライアスが手の甲にちゅっと唇を落とせば、キャーと侍女たちからは悲鳴のような声があがる。
「は、はい……ありがとうございます。嬉しいです」
なぜか目頭が熱くなった。だが、ここで涙を流してはせっかくの化粧が落ちてしまう。
泣かないようにと目に力を入れる表情を見られたくないから、少しだけ顔を逸らして彼の腕をとった。
偽りの関係だとわかっているし、この婚約の先に待ち受けているキャサリンたちからの仕打ちも予想がつくというのに、高鳴る鼓動をおさえることはできなかった。
大広前へと続く扉の前で足を止める。背丈の倍以上もある白い荘厳な扉には、蔦模様が金色で描かれている。この扉の向こうには、国内外からたくさんの人が集まっているのだ。そして、ナーレスト王国王太子の婚約者となる人物がどのような者なのかと、いまかいまかと待っているのだろう。王太子妃となりうる人物としてふさわしいのかと、その価値を見定めるために。
イライアスと結婚したいと思っている令嬢も多々いるだろう。むしろ、娘をその相手にと望んでいた者も多い。そこを勝ち抜いた者だけがイライアスの隣に立てると思われていた。
だが、今までその話題にあがらなかったシェリルが、ひょこっと現れたわけだ。
「あの……殿下。今日はわたしも少しだけ化粧をしているのですが、大丈夫でしょうか?」
彼は化粧と香水のにおいが嫌いだったはず。
「問題ない。シェリルからはいい匂いしかしない。堂々としていろ」
なぜかその言葉で、シェリルの気持ちがふわりと軽くなった。
白い扉が重々しく開き、音楽団の華やかな演奏が聞こえてきた。
まばゆい光を放つシャンデリアによって、ホール内は隅々まで明るい。一歩足を踏み入れると、視線を感じた。それも一人や二人の視線ではない。集まっているすべての人間の眼差しが、一斉に二人に向いたのだ。
壇上には国王と王妃が座っており、にこやかに笑みを浮かべている。
シェリルはイライアスに身体を預け、すべてを彼にまかせるかのようにして歩を進める。二人は、国王の隣に立つ。
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