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第二章(5)
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彼は、クッキーの粉を拭い取るかのようにその指をペロリと舐めた。
まるで自分の指が舐められたような感じがして、肌が粟立った。
「どうした? クッキーをもっと食べたいのか?」
口の中はクッキーで満たされているため、声が出せない。その代わり、首を横に振って否定する。
「そう」
なぜかイライアスは残念そうに目を細くした。
シェリルが口の中を潤そうとカップに手を伸ばせば、すかさずイライアスに横取りされる。
「俺が飲ませてあげよう」
自分で飲む。という意思を込めて顔を横に振ってみるものの、彼には伝わらないらしい。
「シェリルは、本当に恥ずかしがり屋だな」
そんなことを言われてしまえば、かぁあっと顔中が熱くなる。
そうこうしているうちに、カップが唇に近づけられて、コクンと中身を飲み込んだ。
「あっ……」
自分のペースで飲めないため、イライアスがカップを傾けるのと、シェリルが紅茶を飲むタイミングがずれてしまった。口の端から、つつぅっと紅茶がこぼれる。
「あ、悪い。何か、拭くもの……ま、いっか……」
お目当てのものが見つかったのか、イライアスは顔を近づけてきて、そのままぺろっとこぼれた紅茶を舌で舐め取った。
「――っ!?」
シェリルはかっと大きく目を見開き、イライアスを凝視する。
「なっ……な、何を?」
「ただ、舐めただけだろ? そんなに驚く必要ないだろ。俺の指を食べたくせに」
あれは不可抗力だ。わざとではない。
「もう、知りません。わたし、戻ります」
これ以上、イライアスのペースにのせられるのは危険である。
すくっと立ち上がると、すぐに手首を掴まれた。
「逃げるのか? このままじゃ俺たちの関係が疑われてしまうぞ? 俺はシェリルに命令したよな? 俺と結婚しろと。つまり、俺とそういった関係を築けということだ」
命令と言われてしまえば、シェリルも反論できない。これを断って家族に何かあったらと考えたら、素直に従うしかない。
今にも逃げ出したい衝動を抑え込んで、シェリルはもう一度ソファに座り直した。
だがイライアスは気まずそうに顔を背ける。
「……シェリル、すまない。俺もやり過ぎた。シェリルが可愛すぎるから、つい……」
そう言ってなぜか口元をおさえているイライアスの耳の下が、ほんのりと赤く染まっていた。
シェリルはそれを見なかった振りをして、残りの紅茶を一気に飲み干す。
「もう一杯、おかわりをいただけますか」
紅茶を飲んだばかりだというのに、口の中は異様に渇いていた。しかも、動揺したあまりお茶が欲しいとイライアスに向かってお願いしている。慌てて取り繕う前に、イライアスは答える。
「ああ。もちろん」
彼は嬉しそうにティーポットに残っていたお茶をカップに注ぎ入れた。
「だが、シェリル。俺と恋人の関係なんだから、もう少し俺に慣れるべきだな」
「ぜ、善処します……」
今度は自分のペースでゆっくりと紅茶を飲む。できるだけイライアスを意識しないように、紅茶の香りを堪能するためにゆっくりと嚥下した。
「……ふぅ」
先ほどからイライアスのペースにのせられて、気が張り詰めっぱなしだった。
「落ち着いたか?」
「誰のせいだと思っているんですか」
「すまない。シェリルが相手だと、つい、かまいたくなるんだ」
結局、イライアスにとってシェリルはからかいの対象なのだ。
「シェリル。触れてもいいか?」
「え?」
普段とは違うその言い方に、心の奥がトクリと音を立てる。
「だから、言っただろ? シェリルはもう少し俺に慣れるべきだって。だから、少しずつ俺と触れ合えるようになろう、な?」
そこで優しく微笑むイライアスを見れば、そうしてもいいかなという気持ちになるのが不思議だった。
「まずは手を出してくれ」
「……手?」
手だけならいいだろうか。
「どうぞ」
右手を彼の目の前に差し出した。その手はすぐにイライアスの両手によって包み込まれる。手のひらから、じんわりと彼の熱が伝わってきた。大きくて、どこか骨張っている手。自分の手とは違う感触に、興味が湧いてきた。
まるで自分の指が舐められたような感じがして、肌が粟立った。
「どうした? クッキーをもっと食べたいのか?」
口の中はクッキーで満たされているため、声が出せない。その代わり、首を横に振って否定する。
「そう」
なぜかイライアスは残念そうに目を細くした。
シェリルが口の中を潤そうとカップに手を伸ばせば、すかさずイライアスに横取りされる。
「俺が飲ませてあげよう」
自分で飲む。という意思を込めて顔を横に振ってみるものの、彼には伝わらないらしい。
「シェリルは、本当に恥ずかしがり屋だな」
そんなことを言われてしまえば、かぁあっと顔中が熱くなる。
そうこうしているうちに、カップが唇に近づけられて、コクンと中身を飲み込んだ。
「あっ……」
自分のペースで飲めないため、イライアスがカップを傾けるのと、シェリルが紅茶を飲むタイミングがずれてしまった。口の端から、つつぅっと紅茶がこぼれる。
「あ、悪い。何か、拭くもの……ま、いっか……」
お目当てのものが見つかったのか、イライアスは顔を近づけてきて、そのままぺろっとこぼれた紅茶を舌で舐め取った。
「――っ!?」
シェリルはかっと大きく目を見開き、イライアスを凝視する。
「なっ……な、何を?」
「ただ、舐めただけだろ? そんなに驚く必要ないだろ。俺の指を食べたくせに」
あれは不可抗力だ。わざとではない。
「もう、知りません。わたし、戻ります」
これ以上、イライアスのペースにのせられるのは危険である。
すくっと立ち上がると、すぐに手首を掴まれた。
「逃げるのか? このままじゃ俺たちの関係が疑われてしまうぞ? 俺はシェリルに命令したよな? 俺と結婚しろと。つまり、俺とそういった関係を築けということだ」
命令と言われてしまえば、シェリルも反論できない。これを断って家族に何かあったらと考えたら、素直に従うしかない。
今にも逃げ出したい衝動を抑え込んで、シェリルはもう一度ソファに座り直した。
だがイライアスは気まずそうに顔を背ける。
「……シェリル、すまない。俺もやり過ぎた。シェリルが可愛すぎるから、つい……」
そう言ってなぜか口元をおさえているイライアスの耳の下が、ほんのりと赤く染まっていた。
シェリルはそれを見なかった振りをして、残りの紅茶を一気に飲み干す。
「もう一杯、おかわりをいただけますか」
紅茶を飲んだばかりだというのに、口の中は異様に渇いていた。しかも、動揺したあまりお茶が欲しいとイライアスに向かってお願いしている。慌てて取り繕う前に、イライアスは答える。
「ああ。もちろん」
彼は嬉しそうにティーポットに残っていたお茶をカップに注ぎ入れた。
「だが、シェリル。俺と恋人の関係なんだから、もう少し俺に慣れるべきだな」
「ぜ、善処します……」
今度は自分のペースでゆっくりと紅茶を飲む。できるだけイライアスを意識しないように、紅茶の香りを堪能するためにゆっくりと嚥下した。
「……ふぅ」
先ほどからイライアスのペースにのせられて、気が張り詰めっぱなしだった。
「落ち着いたか?」
「誰のせいだと思っているんですか」
「すまない。シェリルが相手だと、つい、かまいたくなるんだ」
結局、イライアスにとってシェリルはからかいの対象なのだ。
「シェリル。触れてもいいか?」
「え?」
普段とは違うその言い方に、心の奥がトクリと音を立てる。
「だから、言っただろ? シェリルはもう少し俺に慣れるべきだって。だから、少しずつ俺と触れ合えるようになろう、な?」
そこで優しく微笑むイライアスを見れば、そうしてもいいかなという気持ちになるのが不思議だった。
「まずは手を出してくれ」
「……手?」
手だけならいいだろうか。
「どうぞ」
右手を彼の目の前に差し出した。その手はすぐにイライアスの両手によって包み込まれる。手のひらから、じんわりと彼の熱が伝わってきた。大きくて、どこか骨張っている手。自分の手とは違う感触に、興味が湧いてきた。
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