上 下
68 / 82

8-(7)

しおりを挟む
 王城へ向かう日は、セヴェリがアルベティーナの護衛についてくれるとのことだった。
「俺が迎えにくるからな」
 安心しろ、とでも言うかのようにセヴェリは大きく笑った。
「向こうに着いたら、当分は私がティーナの護衛としてつくからね」
 あれほどアルベティーナにエルッキとセヴェリに会わせようとしなかったシーグルードが、どうやら方針転換をしたようだ。
「シーグルード殿下、というよりは国王陛下と王妃陛下の考えかな」
 そう言って、エルッキは笑っていた。
「人材が確保できれば、ティーナにも女性騎士が護衛としてつくようになるからね。でも、まだ婚約の段階だし、公務もさほど多くはないから、外に出るようなことも少ないだろう」
 それでも慣れ親しんだ二人の兄をこうやって近くに配置してくれることが、アルベティーナには心強かった。
 とうとう、王城へと向かう日がやって来た。エルッキとセヴェリは朝早くから騎士団への仕事に向かったし、アンヌッカはアルベティーナの衣装や髪型のことで頭がいっぱいであったようだ。コンラードは、なぜかこのタイミングで騎士団から呼び出され、息子の後を追うようにして王城へと向かった。家令が騎士団からの書状を手にしていたからだ。今朝早く届いていたらしい。その書状にエルッキとセヴェリも首を傾げたが、書状に使用されている封筒や封印が騎士団公式で使用しているものであるため、その内容に従うことにしたようだ。
「このような日に、呼び出されるなんて」
 アンヌッカはぼやいていたが、騎士団からの命令は国からの命令。それに従わなければ、国の命令に背くと捉えられてしまうこともある。
「もしかして、お父さまが警護についてくださるのかしら」
 アルベティーナは呑気にそんな冗談を口にしていた。
「お嬢様。お迎えの馬車がいらっしゃいました」
 使用人が呼びに来た。アルベティーナはアンヌッカと共に、エントランスへ向かう。アルベティーナが屋敷から連れていくことのできる人間は一人。アルベティーナが選んだのは、昔から彼女に仕えてくれた侍女であるクレア。年はアルベティーナの三つ上。これを機に、素敵な伴侶を見つけますと口にしてしまうところが、彼女らしいとも思えた。
「アルベティーナ様、お迎えに参りました」
「あら? セヴェリお兄さまではないの?」
 アルベティーナの迎えと称して現れたのは、昔の同僚でもあるイリダルだった。
「セヴェリは今、緊急案件で呼び出されまして。私が代わりに」
 だからコンラードも呼び出されたのだろう。
「お母さま。こちら、警備隊で一緒だったイリダルさん」
 イリダルはアンヌッカに向かって深く頭を下げる。このようなピシっとしたイリダルを目にするのも、アルベティーナには変な感じがした。イリダルという男は、いつも一歩ふざけた感じがするからだ。
「ティーナ。きちんと王妃陛下の言うことを聞くのよ」
 アンヌッカの声のかけ方は、子供扱いそのものである。
「お預かりいたします」
 イリダルがアルベティーナの手を取り、馬車へと案内する。その後ろに荷物を手にしたクレアがついていく。
「あら? 思っていたよりも、小さな馬車なのね」
 王城からのお迎えであるし、あのシーグルードのことだから、大きくて立派な豪勢な馬車を準備するのかと思っていた。
「えぇ。あまり派手にしますと、周囲に知られてしまいますからね。ここから王城まではさほど距離はありませんが、護衛の人数が限られているため、それとなく知られないようにアルベティーナ様を迎えに行くようにと言われましたので」
「なるほど」
 王城からの豪勢な馬車であると、襲われる可能性が高いとイリダルは言いたいのだろう。
「私もご一緒させていただきます。アルベティーナ様に何かあったら困りますので」
「イリダルさんがそのような言葉でお話されていると、何か、変な気分ですね」
「私のことは、どうかイリダルと」
 それでもアルベティーナの心はどこかむず痒い感じがした。
 アルベティーナはクレアと並んで座り、その向かい側にイリダルが座った。まるで、二人を監視するかのように。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

ループ22回目の侯爵令嬢は、猫以外どうでもいい ~猫ちゃんをモフっていたら敵国の王太子が求婚してきました~

湊祥@書籍13冊発売中
ファンタジー
スクーカム「べ、別に猫がかわいいだなんて思ってないんだからな?」 ソマリ「は、はあ……?」 侯爵令嬢ソマリ・シャルトリューは、十五歳で無実の罪を理由に婚約破棄され修道院送りとなり、二十歳で隣国との戦に巻き込まれて命を落とす……という人生を、すでに21回も繰り返していた。 繰り返される人生の中、ソマリはそれまで一度も見たことが無かった猫と出会う。 猫は悪魔の使いとされ、ソマリの暮らす貴族街には侵入を許していなかったためだ。 ソマリ「これが猫……! な、なんて神がかり的なかわいさなのっ。かわいが過ぎて辛い……! 本気を出した神が作りし最高傑作に違いないわ!」 と、ソマリは猫のかわいさに心酔し、「どうせ毎回五年で死ぬんだし、もう猫ちゃんとのんびり過ごせればそれでいいや」と考えるようになる。 しかし二十二回目の人生ではなんと、ソマリの死因である戦を仕掛けた、隣国サイベリアン王国の王太子スクーカム・サイベリアンが突然求婚してきて!? そのスクーカム、「流麗の鉄仮面」というふたつ名を持ち、常に冷静沈着なはずなのになぜか猫を見せると挙動不審になる。 スクーカム「くっ……。そのふわふわの毛、甘い鳴き声、つぶらな瞳……なんという精神攻撃だ……!」 ソマリ「あの、息苦しそうですけど大丈夫ですか?」 ――よくわからないけれど結婚とか別にしなくて大丈夫です! 私は猫ちゃんをかわいがれれば他のことはどうでもいいんですからっ。 猫モフモフラブストーリー、開幕!

可愛いあの子は。

ましろ
恋愛
本当に好きだった。貴方に相応しい令嬢になる為にずっと努力してきたのにっ…! 第三王子であるディーン様とは政略的な婚約だったけれど、穏やかに少しずつ思いを重ねて来たつもりでした。 一人の転入生の存在がすべてを変えていくとは思わなかったのです…。 (11月5日、タグを少し変更しました) (11月12日、短編から長編に変更しました) ✻ゆるふわ設定です。

スラムに堕ちた追放聖女は、無自覚に異世界無双する~もふもふもイケメンも丸っとまとめて面倒みます~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
どうやら異世界転移したらしいJK田崎 唯は、気がついたら異世界のスラムにどこかから堕ちていた。そこにいたる記憶が喪失している唯を助けてくれたのは、無能だからと王都を追放された元王太子。今は、治癒師としてスラムで人々のために働く彼の助手となった唯は、その規格外の能力で活躍する。 エブリスタにも掲載しています。

婚約者が王子に加担してザマァ婚約破棄したので父親の騎士団長様に責任をとって結婚してもらうことにしました

山田ジギタリス
恋愛
女騎士マリーゴールドには幼馴染で姉弟のように育った婚約者のマックスが居た。  でも、彼は王子の婚約破棄劇の当事者の一人となってしまい、婚約は解消されてしまう。  そこで息子のやらかしは親の責任と婚約者の父親で騎士団長のアレックスに妻にしてくれと頼む。  長いこと男やもめで女っ気のなかったアレックスはぐいぐい来るマリーゴールドに推されっぱなしだけど、先輩騎士でもあるマリーゴールドの母親は一筋縄でいかなくて。 脳筋イノシシ娘の猪突猛進劇です、 「ザマァされるはずのヒロインに転生してしまった」 「なりすましヒロインの娘」 と同じ世界です。 このお話は小説家になろうにも投稿しています

最恐魔女の姉に溺愛されている追放令嬢はどん底から成り上がる

盛平
ファンタジー
幼い頃に、貴族である両親から、魔力が少ないとう理由で捨てられたプリシラ。召喚士養成学校を卒業し、霊獣と契約して晴れて召喚士になった。学業を終えたプリシラにはやらなければいけない事があった。それはひとり立ちだ。自分の手で仕事をし、働かなければいけない。さもないと、プリシラの事を溺愛してやまない姉のエスメラルダが現れてしまうからだ。エスメラルダは優秀な魔女だが、重度のシスコンで、プリシラの周りの人々に多大なる迷惑をかけてしまうのだ。姉のエスメラルダは美しい笑顔でプリシラに言うのだ。「プリシラ、誰かにいじめられたら、お姉ちゃんに言いなさい?そいつを攻撃魔法でギッタギッタにしてあげるから」プリシラは冷や汗をかきながら、決して危険な目にあってはいけないと心に誓うのだ。だがなぜかプリシラの行く先々で厄介ごとがふりかかる。プリシラは平穏な生活を送るため、唯一使える風魔法を駆使して、就職活動に奮闘する。ざまぁもあります。

平民の方が好きと言われた私は、あなたを愛することをやめました

天宮有
恋愛
公爵令嬢の私ルーナは、婚約者ラドン王子に「お前より平民の方が好きだ」と言われてしまう。 平民を新しい婚約者にするため、ラドン王子は私から婚約破棄を言い渡して欲しいようだ。 家族もラドン王子の酷さから納得して、言うとおり私の方から婚約を破棄した。 愛することをやめた結果、ラドン王子は後悔することとなる。

亡き妻を求める皇帝は耳の聞こえない少女を妻にして偽りの愛を誓う

永江寧々
恋愛
二年前に婚約したばかりの幼馴染から突然、婚約破棄を受けたイベリス。 愛しすぎたが故の婚約破棄。なんとか笑顔でありがとうと告げ、別れを終えた二日後、イベリスは求婚される。相手は自国の貴族でも隣国の王子でもなく、隣の大陸に存在する大帝国テロスを統べる若き皇帝ファーディナンド・キルヒシュ。 婚約破棄の現場を見ており、幼馴染に見せた笑顔に一目惚れしたと突然家を訪ねてきた皇帝の求婚に戸惑いながらもイベリスは彼と結婚することにした。耳が聞こえない障害を理解した上での求婚だったからイベリスも両親も安心していた。 伯爵令嬢である自分が帝国に嫁ぐというのは不安もあったが、彼との明るい未来を想像していた。しかし、結婚してから事態は更に一変する。城の至る所に飾られたイベリスそっくりの女性の肖像画や写真に不気味さを感じ、服や装飾品など全て前皇妃の物を着用させられる。 自分という人間がまるで他人になるよう矯正されている感覚を覚える日々。優しさと甘さを注いでくれるはずだったファーディナンドへの不信感を抱えていたある日、イベリスは知ることになる。ファーディナンドが亡き妻の魂を降ろそうとしていること。瓜二つの自分がその器として求婚されたことを。 知られていないと思っている皇帝と、彼の計画を知りながらも妻でいることを決めた少女の行く末は──…… ※中盤辺りまで胸糞展開ございますので、苦手な方はご注意ください。

処理中です...