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「あなた。昔から自分の髪の色が私と違うことを気にしていたでしょう?」
アンヌッカの言葉にアルベティーナはゆっくりと頷く。気にしていたからこそ、染めていたのだ。母親と同じ髪色になるように。
「うすうすあなたも感じていたかもしれないけれど……。私とあなたに血の繋がりはないの……」
ずっと軽かったアンヌッカの口調が重くなったのは、やはり口にしにくいと思ったからなのだろう。
「そう、ですか……」
ずっとなんとなくそんな気がしていたアルベティーナは、意外と冷静にそれを受け止めることができた。父親とも母親ともそして二人の兄たちとも、外見が違い過ぎるのだ。染め粉で髪を染めて、なんとかアンヌッカに似ているところを作り出す程度。
「そんな顔をしないで。たとえ血の繋がりがないとしても、あなたは私の可愛い娘なのよ」
アンヌッカが握っている手に優しく力を込めた。それはアルベティーナを安心させるかのように。
「お母さま……」
「だけど、もう少しお話をしましょうね。こんな中途半端なところで終わってしまっては、あなたも嫌でしょう?」
一緒に暮らしていた家族が実の家族ではなかった。となれば、本当の家族はどこにいるのか。
「先ほども言った通り、あなたは昔、あそこの王城で暮らしていたわ」
「私の両親が、王族関係者なのですか?」
「そうね。王族の血を引いているかと問われると、微妙なところだけれど。あなたの本当のお母さまは王妃陛下の妹よ」
またアルベティーナの身体はピクっと震えた。
「王妃陛下は、南の国のミサンジウダから嫁がれてきたでしょう?」
国王が外遊でミサンジウダを訪れた時、当時、その国の王女であった彼女を見初めたというのは有名な話だ。ミサンジウダは小国と呼べるほどの小さな国であるため、力が強い国とも言えない。王女がグルブランソン王国に嫁ぐことで、後ろ盾ができたようなものだ。
「王妃陛下が妹であるあなたのお母さまをグルブランソンに呼んだのは、あなたを身籠ったから」
「私の、本当の父親というのは?」
アンヌッカは首を横に振る。
「いろいろと噂はされているけれど。どれが真実であるかはわからない。そんな状態であなたには教えることはできない。だけど、あなたのお母さまはあなたが生まれてくることをとても楽しみにしていたし、国王陛下も王妃陛下も、あなたたち母娘を守ろうとしていた」
守る、という言葉が口から出てくるということは、そうしなければならない状況であったということ。
「だけど。あの王宮があなたにとって安全な場所ではなくなってしまったの。あなたのお母さまが亡くなってしまったから」
実の母親を失っていた事実を突きつけられ、胸の奥が苦しくなった。
「ちょうどその頃。私も三番目の子をお腹のなかで失ったときでね。それで、あなたを引き取ることにしたの」
アンヌッカはそこでアルベティーナの肩を抱き寄せた。
「初めて私たちの元に来たとき。あなたは見知らぬ場所で心細かったのでしょうね。あの人の顔を見た途端、大泣きしてね。それに困って、あの人はおろおろし始めたわ。鬼団長も形無しだって、エルッキは笑っていた。年の近いセヴェリが宥めると、あなたはやっと泣き止んでくれて。そこからあなたは私たちの家族になったのよ」
アルベティーナのことを『家族』と表現してくれたことが嬉しかった。血の繋がりはなくとも、心で繋がっているような気がしたからだ。
「本当はね。あなたをミサンジウダに帰した方がいいのでは、という話もあったの。だけど、あなたのお母さまのことがあったから、王妃陛下がしばらく面倒をみてくださったのよ」
王妃を見た時に、懐かしい気持ちが込み上げてきたのは、幼い頃の忘れていた記憶が原因だったのだろう。また、デビュタントのときに、王妃から特別に声をかけられたのも、アンヌッカの話を聞いて納得できた。姪であるアルベティーナと少しでも言葉を交わしたいと思ったに違いない。
「シーグルード殿下が、あそこまであなたに執着しているのが予想外だったけれど」
くすっと笑ったアンヌッカは、アルベティーナを解放した。
「シーグルード殿下と一緒になるのであれば、安心できるわ。あのときはまだ力がなかったけれど、今であれば、きっちりあなたを守ってくれるから」
幸せになりなさい、とアンヌッカは口にする。
アンヌッカの言葉にアルベティーナはゆっくりと頷く。気にしていたからこそ、染めていたのだ。母親と同じ髪色になるように。
「うすうすあなたも感じていたかもしれないけれど……。私とあなたに血の繋がりはないの……」
ずっと軽かったアンヌッカの口調が重くなったのは、やはり口にしにくいと思ったからなのだろう。
「そう、ですか……」
ずっとなんとなくそんな気がしていたアルベティーナは、意外と冷静にそれを受け止めることができた。父親とも母親ともそして二人の兄たちとも、外見が違い過ぎるのだ。染め粉で髪を染めて、なんとかアンヌッカに似ているところを作り出す程度。
「そんな顔をしないで。たとえ血の繋がりがないとしても、あなたは私の可愛い娘なのよ」
アンヌッカが握っている手に優しく力を込めた。それはアルベティーナを安心させるかのように。
「お母さま……」
「だけど、もう少しお話をしましょうね。こんな中途半端なところで終わってしまっては、あなたも嫌でしょう?」
一緒に暮らしていた家族が実の家族ではなかった。となれば、本当の家族はどこにいるのか。
「先ほども言った通り、あなたは昔、あそこの王城で暮らしていたわ」
「私の両親が、王族関係者なのですか?」
「そうね。王族の血を引いているかと問われると、微妙なところだけれど。あなたの本当のお母さまは王妃陛下の妹よ」
またアルベティーナの身体はピクっと震えた。
「王妃陛下は、南の国のミサンジウダから嫁がれてきたでしょう?」
国王が外遊でミサンジウダを訪れた時、当時、その国の王女であった彼女を見初めたというのは有名な話だ。ミサンジウダは小国と呼べるほどの小さな国であるため、力が強い国とも言えない。王女がグルブランソン王国に嫁ぐことで、後ろ盾ができたようなものだ。
「王妃陛下が妹であるあなたのお母さまをグルブランソンに呼んだのは、あなたを身籠ったから」
「私の、本当の父親というのは?」
アンヌッカは首を横に振る。
「いろいろと噂はされているけれど。どれが真実であるかはわからない。そんな状態であなたには教えることはできない。だけど、あなたのお母さまはあなたが生まれてくることをとても楽しみにしていたし、国王陛下も王妃陛下も、あなたたち母娘を守ろうとしていた」
守る、という言葉が口から出てくるということは、そうしなければならない状況であったということ。
「だけど。あの王宮があなたにとって安全な場所ではなくなってしまったの。あなたのお母さまが亡くなってしまったから」
実の母親を失っていた事実を突きつけられ、胸の奥が苦しくなった。
「ちょうどその頃。私も三番目の子をお腹のなかで失ったときでね。それで、あなたを引き取ることにしたの」
アンヌッカはそこでアルベティーナの肩を抱き寄せた。
「初めて私たちの元に来たとき。あなたは見知らぬ場所で心細かったのでしょうね。あの人の顔を見た途端、大泣きしてね。それに困って、あの人はおろおろし始めたわ。鬼団長も形無しだって、エルッキは笑っていた。年の近いセヴェリが宥めると、あなたはやっと泣き止んでくれて。そこからあなたは私たちの家族になったのよ」
アルベティーナのことを『家族』と表現してくれたことが嬉しかった。血の繋がりはなくとも、心で繋がっているような気がしたからだ。
「本当はね。あなたをミサンジウダに帰した方がいいのでは、という話もあったの。だけど、あなたのお母さまのことがあったから、王妃陛下がしばらく面倒をみてくださったのよ」
王妃を見た時に、懐かしい気持ちが込み上げてきたのは、幼い頃の忘れていた記憶が原因だったのだろう。また、デビュタントのときに、王妃から特別に声をかけられたのも、アンヌッカの話を聞いて納得できた。姪であるアルベティーナと少しでも言葉を交わしたいと思ったに違いない。
「シーグルード殿下が、あそこまであなたに執着しているのが予想外だったけれど」
くすっと笑ったアンヌッカは、アルベティーナを解放した。
「シーグルード殿下と一緒になるのであれば、安心できるわ。あのときはまだ力がなかったけれど、今であれば、きっちりあなたを守ってくれるから」
幸せになりなさい、とアンヌッカは口にする。
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