26 / 82
4-(1)
しおりを挟む
一昨日の夜。あの場所からどのようにして戻ってきたのか、アルベティーナには記憶が無かった。
昨日の朝、いつもの寝台の上でいつもの夜着に身を包んだ状態で目を覚ました。ただ普段と違っていたのは、頭が重くて身体も怠いということ。眠ったはずなのに、身体の疲れが抜けきらないような感じだった。
ベルを鳴らして侍女のミリアンを呼ぶと、彼女はすぐに姿を見せて、今にも泣き出しそうなほど顔を歪めていた。
『お目覚めになられて、よかったです』
なぜかすぐさまセヴェリまでが部屋にやって来た。
『昨日の今日で、今日は休みだ。だから、ゆっくり休め』
事務的な口調でそう告げたセヴェリは、すぐに部屋から出ていった。記憶が曖昧なアルベティーナは、素直にその言葉に従うことにした。
だがミリアンはアルベティーナの様子を非常に心配していて、食事を部屋にまで運んできたり、アルベティーナが動こうとすれば甲斐甲斐しく世話をしてきたりという始末。過保護、という言葉が脳内によぎったが、とにかく身体が重くて動きたくなかったのは事実であるため、ミリアンの世話を有難く受け入れることにした。
そうやって昨日はほとんどの時間を寝台の上で過ごしたが、さすがに今日は騎士団の仕事へ行かねばならない。騎士団の仕事はきっちりとローテーションが組まれている。
アルベティーナは騎士服に身を包むものの、なぜか仕事に行きたくないと思えてきた。彼女がこのような気持ちになるのは初めてのことだ。騎士になることに憧れを抱き、騎士になったことに誇りを持っていたにも関わらず。
何がそうさせているのか。騎士服の前の留め具を掛けながら、悶々と考えていたアルベティーナは小さく息を吐いた。
(そうか……。私、団長に会うのが恥ずかしいんだ……)
動かしていた手をふと止める。自覚してしまうと、顔中に熱が溜まってくるような感じがした。今思い出しても、恥ずかしい姿を見られてしまった自覚はある。むしろ痴態だ。それでもあのときはルドルフに助けてもらいたかった。誰でも良かったわけではない。
「うわぁ……」
アルベティーナは顔を両手で覆って、思わずその場にしゃがみ込む。
(どうしよう、どうしよう……。どんな顔して団長と会えばいいのかしら……)
一度意識してしまうと、頭からその考えが離れてくれない。むしろ、それに支配されてしまう。
だが、今日は任務だ。両手でペシペシと頬を叩いて気合を入れて立ち上がった。
「おはようございます」
食堂に向かうとすでに二人の兄たちが食事をしているところだった。
「おはよう」
エルッキが爽やかな笑顔が、アルベティーナの心を落ち着けてくれた。
「おはよう、ティーナ。身体の方はもう大丈夫なのか?」
身体を気遣ってくれるのはセヴェリだ。
「はい。ご心配おかけしましたが、もう大丈夫です。ところでセヴェリお兄さま。私、一昨日の夜にどうやって帰ってきたのか、記憶がさっぱりなくて……」
「ああ。俺もよくわからないが、酒に混ぜられて毒薬か何かを飲まされ、気を失ってしまったとしか聞いてないな。あの団長が平謝りしていったからなぁ。俺としてはそっちの方が驚いた」
毒薬――。
あれはそんなものではなかったと思うのだが、恐らくそれがルドルフなりの気遣いなのだろう。
「ティーナが警備隊に配属された理由は私も知っているが……。やはり、囮作戦というのは……。私としては反対したいところではあるな」
「ですが、兄上。あれはもう取り押さえたので。当分、ティーナにはそのような任務は無いと思いますが。既に昨日から取り調べが始まっていること、兄上も知っているでしょう」
セヴェリがエルッキに言い訳をしているようにも聞こえた。
昨日の朝、いつもの寝台の上でいつもの夜着に身を包んだ状態で目を覚ました。ただ普段と違っていたのは、頭が重くて身体も怠いということ。眠ったはずなのに、身体の疲れが抜けきらないような感じだった。
ベルを鳴らして侍女のミリアンを呼ぶと、彼女はすぐに姿を見せて、今にも泣き出しそうなほど顔を歪めていた。
『お目覚めになられて、よかったです』
なぜかすぐさまセヴェリまでが部屋にやって来た。
『昨日の今日で、今日は休みだ。だから、ゆっくり休め』
事務的な口調でそう告げたセヴェリは、すぐに部屋から出ていった。記憶が曖昧なアルベティーナは、素直にその言葉に従うことにした。
だがミリアンはアルベティーナの様子を非常に心配していて、食事を部屋にまで運んできたり、アルベティーナが動こうとすれば甲斐甲斐しく世話をしてきたりという始末。過保護、という言葉が脳内によぎったが、とにかく身体が重くて動きたくなかったのは事実であるため、ミリアンの世話を有難く受け入れることにした。
そうやって昨日はほとんどの時間を寝台の上で過ごしたが、さすがに今日は騎士団の仕事へ行かねばならない。騎士団の仕事はきっちりとローテーションが組まれている。
アルベティーナは騎士服に身を包むものの、なぜか仕事に行きたくないと思えてきた。彼女がこのような気持ちになるのは初めてのことだ。騎士になることに憧れを抱き、騎士になったことに誇りを持っていたにも関わらず。
何がそうさせているのか。騎士服の前の留め具を掛けながら、悶々と考えていたアルベティーナは小さく息を吐いた。
(そうか……。私、団長に会うのが恥ずかしいんだ……)
動かしていた手をふと止める。自覚してしまうと、顔中に熱が溜まってくるような感じがした。今思い出しても、恥ずかしい姿を見られてしまった自覚はある。むしろ痴態だ。それでもあのときはルドルフに助けてもらいたかった。誰でも良かったわけではない。
「うわぁ……」
アルベティーナは顔を両手で覆って、思わずその場にしゃがみ込む。
(どうしよう、どうしよう……。どんな顔して団長と会えばいいのかしら……)
一度意識してしまうと、頭からその考えが離れてくれない。むしろ、それに支配されてしまう。
だが、今日は任務だ。両手でペシペシと頬を叩いて気合を入れて立ち上がった。
「おはようございます」
食堂に向かうとすでに二人の兄たちが食事をしているところだった。
「おはよう」
エルッキが爽やかな笑顔が、アルベティーナの心を落ち着けてくれた。
「おはよう、ティーナ。身体の方はもう大丈夫なのか?」
身体を気遣ってくれるのはセヴェリだ。
「はい。ご心配おかけしましたが、もう大丈夫です。ところでセヴェリお兄さま。私、一昨日の夜にどうやって帰ってきたのか、記憶がさっぱりなくて……」
「ああ。俺もよくわからないが、酒に混ぜられて毒薬か何かを飲まされ、気を失ってしまったとしか聞いてないな。あの団長が平謝りしていったからなぁ。俺としてはそっちの方が驚いた」
毒薬――。
あれはそんなものではなかったと思うのだが、恐らくそれがルドルフなりの気遣いなのだろう。
「ティーナが警備隊に配属された理由は私も知っているが……。やはり、囮作戦というのは……。私としては反対したいところではあるな」
「ですが、兄上。あれはもう取り押さえたので。当分、ティーナにはそのような任務は無いと思いますが。既に昨日から取り調べが始まっていること、兄上も知っているでしょう」
セヴェリがエルッキに言い訳をしているようにも聞こえた。
0
お気に入りに追加
489
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
つがいの皇帝に溺愛される幼い皇女の至福
ゆきむら さり
恋愛
稚拙な私の作品をHOTランキング(7/1)に入れて頂き、ありがとうございます✨ 読んで下さる皆様のおかげです🧡
〔あらすじ〕📝強大な魔帝国を治める時の皇帝オーブリー。壮年期を迎えても皇后を迎えない彼には、幼少期より憧れを抱く美しい人がいる。その美しい人の産んだ幼な姫が、自身のつがいだと本能的に悟る皇帝オーブリーは、外の世界に憧れを抱くその幼な姫の皇女ベハティを魔帝国へと招待することに……。
完結した【堕ちた御子姫は帝国に囚われる】のスピンオフ。前作の登場人物達の子供達のお話に加えて、前作の登場人物達のその後も書かれておりますので、気になる方は是非ご一読下さい🤗
ゆるふわで甘いお話し。溺愛。ハピエン♥️
※設定などは独自の世界観でご都合主義となります。
愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる