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13.あきらめない気持ち(2)
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アーネストはすぐに立ち上がって、扉にしっかりと鍵をかける。
「アーネストさま?」
「ジョアンは神出鬼没なんだ。二人きりで話をしたいからな。邪魔が入らないようにだ」
二人きりと言われ、オレリアの気持ちはきゅっと高鳴った。
アーネストはもう一度オレリアの隣に座った。ここで距離をとられたら、オレリアはショックで倒れたかもしれない。でも、これで拒まれていないとわかった。
アーネストの執務室には初めて足を踏み入れたが、白い壁に白い天井と飾り気のない部屋だった。
「あの……アーネストさま」
「なんだ」
「ごめんなさい。その……騙すようなことをしてしまって……怒っていらっしゃいます?」
オレリアがじぃっとアーネストに視線を向けるが、彼はこちらを見ようとはしない。項垂れて下を見たまま、大きく息を吐く。
「怒ってはいない」
「でしたら、どうしてこちらを見てくださらないのですか?」
ひくりと大きな身体が震えた。
「オレリアが……」
「わたしが?」
「その……思っていたより、美しすぎて……」
オレリアの胸がきゅんと疼いた。美しいと言われて恥ずかしいけれど嬉しくて、それよりもこんな拗ねたような態度を取るアーネストが可愛らしい。
「アーネストさま。これからもわたしたちは一緒にいるんですよね? わたしたち、離縁はしませんよね?」
「そ、それは……」
「アーネストさま!!」
ぴくりとも反応を示さないアーネストにオレリアは抱きついた。
「うおっ」
彼もそんなことをされるとは予想していなかったのだろう。オレリアに抱きつかれ、バランスを崩して長椅子に倒れ込む。
「アーネストさま」
無理矢理彼の顎をとらえ、オレリアはその唇を奪う。
これぞマルガレットの「押し倒せ」だろう。ふにっと彼の唇に少しだけ触れたのに、いきなり頭の後ろを鷲づかみにされ、深く口づけてくる。
「んっ、ん……ん、んっ!」
苦しくなって、アーネストの肩をバシバシと叩くと、やっと彼が解放してくれた。
「アーネストさま……く、苦しいです」
はぁはぁと顔を真っ赤にしながら、涙目でアーネストを見上げた。
「煽ってきたお前が悪い。俺は、ずっとこうやって耐えていたというのに」
「耐えていた? 怒っていらっしゃったのではなく?」
「今だって、お前を押し倒したい衝動と闘っている。だが今、それだけは駄目だと俺の理性でなんとか耐えている」
「え、と。それって……」
オレリアとしてはどうしてもいい方向に考えてしまう。
「まあ、いい。それで、お前はどうしてこんな場所まで来たんだ?」
理性で耐えたアーネストが、話題を変えてきた。
「どうしてって……そんなの決まっているじゃないですか。先ほども言いましたよね? わたし、アーネストさまと別れる気はありません。それを伝えに来たんです」
「そうか……」
「そうかって、それだけですか?」
ダスティンやマルガレットが朴念仁と言っていた意味がわかってきたような気がする。
怒っているようではないのだが、それでも口を真っ直ぐに結んで、何を考えているのかがさっぱりわからない。
「アーネストさまは、わたしが嫌いですか? それとも他に好きな方がいらっしゃるんですか? でもそれって、リリーのことですよね。そうなれば、それってわたしのことですよね?」
息次ぐ間もなく、オレリアはぐいぐいとアーネストに迫る。アーネストはたじたじで、何かを言いかけて口を開くが、やっぱりまた閉じる。
「アーネストさま。何度も言いますけれども、わたしはアーネストさまと別れるつもりはありません。ですが、アーネストさまがわたしのことを嫌いで、顔を見たくないと言うのであれば、泣く泣くアーネストさまをあきらめます」
やっと観念したかのように、アーネストは大きく息を吐いた。
「先ほども言ったが、俺はお前より二十歳も年上だ。お前には、お前に相応しい男がいる」
「おりません。アーネストさま以上の男性なんて、おりません。アーネストさまは、そこまでしてわたしと別れたいのですか? わたしのことが嫌い?」
「嫌い、ではない」
「嫌いでないのであれば、何も問題はないですね。このまま、婚姻関係を続けるとしましょう。それに、さっきも離縁届は破いてしまいましたしね。まぁ、アーネストさまがいくら用意したとしても、わたしはあれにサインする気はありませんけれども」
「アーネストさま?」
「ジョアンは神出鬼没なんだ。二人きりで話をしたいからな。邪魔が入らないようにだ」
二人きりと言われ、オレリアの気持ちはきゅっと高鳴った。
アーネストはもう一度オレリアの隣に座った。ここで距離をとられたら、オレリアはショックで倒れたかもしれない。でも、これで拒まれていないとわかった。
アーネストの執務室には初めて足を踏み入れたが、白い壁に白い天井と飾り気のない部屋だった。
「あの……アーネストさま」
「なんだ」
「ごめんなさい。その……騙すようなことをしてしまって……怒っていらっしゃいます?」
オレリアがじぃっとアーネストに視線を向けるが、彼はこちらを見ようとはしない。項垂れて下を見たまま、大きく息を吐く。
「怒ってはいない」
「でしたら、どうしてこちらを見てくださらないのですか?」
ひくりと大きな身体が震えた。
「オレリアが……」
「わたしが?」
「その……思っていたより、美しすぎて……」
オレリアの胸がきゅんと疼いた。美しいと言われて恥ずかしいけれど嬉しくて、それよりもこんな拗ねたような態度を取るアーネストが可愛らしい。
「アーネストさま。これからもわたしたちは一緒にいるんですよね? わたしたち、離縁はしませんよね?」
「そ、それは……」
「アーネストさま!!」
ぴくりとも反応を示さないアーネストにオレリアは抱きついた。
「うおっ」
彼もそんなことをされるとは予想していなかったのだろう。オレリアに抱きつかれ、バランスを崩して長椅子に倒れ込む。
「アーネストさま」
無理矢理彼の顎をとらえ、オレリアはその唇を奪う。
これぞマルガレットの「押し倒せ」だろう。ふにっと彼の唇に少しだけ触れたのに、いきなり頭の後ろを鷲づかみにされ、深く口づけてくる。
「んっ、ん……ん、んっ!」
苦しくなって、アーネストの肩をバシバシと叩くと、やっと彼が解放してくれた。
「アーネストさま……く、苦しいです」
はぁはぁと顔を真っ赤にしながら、涙目でアーネストを見上げた。
「煽ってきたお前が悪い。俺は、ずっとこうやって耐えていたというのに」
「耐えていた? 怒っていらっしゃったのではなく?」
「今だって、お前を押し倒したい衝動と闘っている。だが今、それだけは駄目だと俺の理性でなんとか耐えている」
「え、と。それって……」
オレリアとしてはどうしてもいい方向に考えてしまう。
「まあ、いい。それで、お前はどうしてこんな場所まで来たんだ?」
理性で耐えたアーネストが、話題を変えてきた。
「どうしてって……そんなの決まっているじゃないですか。先ほども言いましたよね? わたし、アーネストさまと別れる気はありません。それを伝えに来たんです」
「そうか……」
「そうかって、それだけですか?」
ダスティンやマルガレットが朴念仁と言っていた意味がわかってきたような気がする。
怒っているようではないのだが、それでも口を真っ直ぐに結んで、何を考えているのかがさっぱりわからない。
「アーネストさまは、わたしが嫌いですか? それとも他に好きな方がいらっしゃるんですか? でもそれって、リリーのことですよね。そうなれば、それってわたしのことですよね?」
息次ぐ間もなく、オレリアはぐいぐいとアーネストに迫る。アーネストはたじたじで、何かを言いかけて口を開くが、やっぱりまた閉じる。
「アーネストさま。何度も言いますけれども、わたしはアーネストさまと別れるつもりはありません。ですが、アーネストさまがわたしのことを嫌いで、顔を見たくないと言うのであれば、泣く泣くアーネストさまをあきらめます」
やっと観念したかのように、アーネストは大きく息を吐いた。
「先ほども言ったが、俺はお前より二十歳も年上だ。お前には、お前に相応しい男がいる」
「おりません。アーネストさま以上の男性なんて、おりません。アーネストさまは、そこまでしてわたしと別れたいのですか? わたしのことが嫌い?」
「嫌い、ではない」
「嫌いでないのであれば、何も問題はないですね。このまま、婚姻関係を続けるとしましょう。それに、さっきも離縁届は破いてしまいましたしね。まぁ、アーネストさまがいくら用意したとしても、わたしはあれにサインする気はありませんけれども」
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