上 下
16 / 68

5.気まずい結婚式(2)

しおりを挟む
 そうやって周囲を観察しながら、オレリアは皿の上に並べられた料理をゆっくりと食べていたが、アーネストが「そろそろ」と声をかけてきた。

「俺たちは先にここを出るんだ。あとは放っておいていい。勝手に食べて飲んで、朝まで騒ぐだけだ」

 新婚の二人が先に席を立つのは、これから二人で迎える初めての夜のためだと、昨日、マルガレットが教えてくれた。初めて顔を合わせてから、結婚式の準備を手伝ってくれたのも彼女だった。今年、二十歳になった彼女は、ダスティンとは二年前に結婚したらしい。王妃であるのに率先して動くのは、やはりミルコ族の血筋なのだろう。

「では、俺たちは先に失礼する」
「ひゃっ……」

 急にアーネストがオレリアを抱き上げたものだから、小さく悲鳴をあげてしまった。それをニヤニヤとしながら見守っている者もいる。

「仲がよくてうらやましいですな」
「見た目だけは十分にかわいらしい花嫁だ」

 食堂を出る二人の背に、そのような声が届いてきたが、アーネストはそれを無視して食堂を出た。
 薄暗い回廊を、オレリアは彼に抱かれたまま移動する。自分で歩けると口にしたが、アーネストは彼女を下ろす気はないようだ。

「……閣下」

 慌てた様子の兵が一人、駆け寄ってきた。彼は何かをアーネストの耳元で伝えたが、それはオレリアには聞こえなかった。

「そうか……わかった。すぐに対処する。お前たちは持ち場に戻れ」
「はい。祝いの場であるのに、このようなこと……申し訳ありません」

 そう言った兵は、はっとした様子で祝いの言葉を口にする。

「閣下。このたびはご結婚、おめでとうございます」
「……ありがとう」

 オレリアの心には、わけのわからないもやっとした気持ちが生まれた。多分、今の話はよくない話。そんな気がした。

 抱かれたまま、離れの部屋へと入った。いつもであればメーラがいるのに、今日にかぎって彼女がいない。オレリアは、そっと長椅子の上に下ろされた。

「今日は、疲れただろう?」

 アーネストは、そうやって常に気遣ってくれる。

「そうですね。とても緊張しました。わたしは、アーネストさまの花嫁として相応しい立ち居振る舞いができましたでしょうか?」

 いつもプレール侯爵夫人から言われていた。

 トラゴス国の王女として相応しい立ち居振る舞いを――
 そう言われていただけで、王女のような暮らしができたわけではない。まして、オレリアがその暮らしを望んでいたわけでもない。

「アーネストさま。何かありましたか?」
「何か、とは?」
「いえ、先ほどの兵が……」

 何をアーネストに告げたのかを気になっていた。

「聡い子だな……おそらく、俺は明日。ガイロの街に発つことになる」
「ガイロですか?」

 国境の街、ガイロ。オレリアも通ってきた街である。

「ガイロはスワン族が中心となっている街だが、国境ということもあってなかなか複雑な場所なんだ」

 オレリアにもわかるように、言葉を選んで話しているのだろう。

「そこで、ちょっとした問題が起こった。俺が行く必要があると判断した」
「では、わたしも?」

 結婚したのであれば、彼についていくべきだろう。しかし、明日、出立とは準備に時間がかけられない。オレリアが荷物の整理をしようと慌てて立ち上がろうとしたところを、アーネストの手が止めた。

「オレリア。悪いがお前をつれていくことはできない。今も言ったように、ガイロは難しい場所だ。お前を連れていくと、お前を危険に巻き込んでしまう」

 トクンと心臓が大きく音を立てた。その次に何を言われるのか、それがオレリアにとって望まぬ答えであることも瞬時に察した。

「お前はここに残れ。族長に後見人を頼んである」
「アーネストさま……」
「お前の身柄は保障されるから、安心しろ」

 そうではない。身柄の保障なんて望んでいない。ただ、アーネストと共にいたかった。

 だけど、それを言葉にするにはまだ幼すぎるのもわかっている。

 その日は、式の疲れを取るかのように、ふたりはぐっすりと眠った。
 次の日の朝、アーネストは部下を引き連れてガイロの街へと向かった。

「次にアーネストさまとお会いする日には、立派な淑女として振る舞えるよう、努力いたします」
「楽しみにしている」

 アーネストの大きな手が、オレリアの曙色の髪をやさしくなでた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いらないと言ったのはあなたの方なのに

水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。 セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。 エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。 ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。 しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。 ◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬 ◇いいね、エールありがとうございます!

あ、婚約破棄ですよね?聞かなくてもわかります。

黒田悠月
恋愛
婚約破棄するつもりのようですね。 ならその前に……。 別作品の合間の気分転換で、設定等ゆるゆるです。 2話か3話で終わります。 ※後編が長くなってしまったので2話に分けました。 4話で完結です。

途中闇堕ちしますが、愛しの護衛騎士は何度でもわたしを愛します

りつ
恋愛
 セレスト公国の公女リュシエンヌは引っ込み思案で、できるだけ人と関わるのを避けるように生活していた。彼女が心から許せるのは幼い頃から仕えてくれる護衛騎士のランスロットだけ。ノワール帝国の皇帝から結婚を申し込まれても、絶対に嫌だと断り、彼女はランスロットと結婚する。  優しい夫や家族に甘やかされて新婚生活を送っていたリュシエンヌだが、結婚を断ったことを理由に帝国から兵が差し向けられる。セレスト公国の安全は脅かされ、自分を捕える兵たちから逃げるためにランスロットと城を出るが、追いつかれ、ランスロットはリュシエンヌを守って命を落としてしまう。彼の亡骸を抱きしめて絶望した瞬間、リュシエンヌは過去へと――彼の婚約者になる前に戻っていた。  今度こそランスロットや自分の国を守るため、リュシエンヌは帝国へ嫁ぐことを決めたが……。 ※他サイトにも掲載しています

婚約破棄された上、冤罪で捕まり裁判前に貴族牢で毒殺された公爵令嬢。死に戻ったのでお返しに6歳の王宮主催のお茶会で不敬発言を連発します

竹井ゴールド
恋愛
 卒業パーティーで義妹を虐けてるとの冤罪で公爵令嬢は王太子から婚約破棄を言い渡された挙げ句、貴族牢へと入れられた。裁判で身の潔白を証明しようと思ってた矢先、食事に毒を盛られて呆気なく死んだ公爵令嬢は気付けば6歳の身体に戻っていた。  それも戻った日は王太子と初めて出会った王宮主催のお茶会という名のお見合いの朝だった。  そっちがその気なら。  2回目の公爵令嬢は王宮主催のお茶会に決意を持って臨むのだった。 【2022/7/4、出版申請、7/21、慰めメール】 【2022/7/7、24hポイント3万9000pt突破】 【2022/7/25、出版申請(2回目)、8/16、慰めメール】 【2022/8/18、出版申請(3回目)、9/2、慰めメール】 【2022/10/7、出版申請(4回目)、10/18、慰めメール】 【2024/9/16、お気に入り数:290突破】 【2024/9/15、出版申請(5回目)】 【2024/9/17、しおり数:310突破】

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

モブだった私、今日からヒロインです!

まぁ
恋愛
かもなく不可もない人生を歩んで二十八年。周りが次々と結婚していく中、彼氏いない歴が長い陽菜は焦って……はいなかった。 このまま人生静かに流れるならそれでもいいかな。 そう思っていた時、突然目の前に金髪碧眼のイケメン外国人アレンが…… アレンは陽菜を気に入り迫る。 だがイケメンなだけのアレンには金持ち、有名会社CEOなど、とんでもないセレブ様。まるで少女漫画のような付属品がいっぱいのアレン…… モブ人生街道まっしぐらな自分がどうして? ※モブ止まりの私がヒロインになる?の完全R指定付きの姉妹ものですが、単品で全然お召し上がりになれます。 ※印はR部分になります。

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

二人の公爵令嬢 どうやら愛されるのはひとりだけのようです

矢野りと
恋愛
ある日、マーコック公爵家の屋敷から一歳になったばかりの娘の姿が忽然と消えた。 それから十六年後、リディアは自分が公爵令嬢だと知る。 本当の家族と感動の再会を果たし、温かく迎え入れられたリディア。 しかし、公爵家には自分と同じ年齢、同じ髪の色、同じ瞳の子がすでにいた。その子はリディアの身代わりとして縁戚から引き取られた養女だった。 『シャロンと申します、お姉様』 彼女が口にしたのは、両親が生まれたばかりのリディアに贈ったはずの名だった。 家族の愛情も本当の名前も婚約者も、すでにその子のものだと気づくのに時間は掛からなかった。 自分の居場所を見つけられず、葛藤するリディア。 『……今更見つかるなんて……』 ある晩、母である公爵夫人の本音を聞いてしまい、リディアは家族と距離を置こうと決意する。  これ以上、傷つくのは嫌だから……。 けれども、公爵家を出たリディアを家族はそっとしておいてはくれず……。 ――どうして誘拐されたのか、誰にひとりだけ愛されるのか。それぞれの事情が絡み合っていく。 ◇家族との関係に悩みながらも、自分らしく生きようと奮闘するリディア。そんな彼女が自分の居場所を見つけるお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※作品の内容が合わない時は、そっと閉じていただければ幸いです(_ _) ※感想欄のネタバレ配慮はありません。 ※執筆中は余裕がないため、感想への返信はお礼のみになっておりますm(_ _;)m

処理中です...