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3.初顔合わせ(4)
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食堂に入るなり、オレリアは挨拶をした。
顔をあげた先には、驚いた表情を浮かべる大人が四人いる。先にアーネストから話を聞いていたから、そこに誰がいるかを瞬時に悟った。
壮年の男性は、ミルコ族の族長だった男で国王の父親。となれば、その隣にいるのが族長の妻である女性。
そして、長い黒髪の男性がハバリー国の国王。隣にいるのが王妃で、彼女はアーネストの妹と聞いている。
「お待たせして申し訳ございません」
「それほどかしこまる必要はない。席につきなさい」
穏やかな笑みを浮かべて国王は口にするが、その視線からは警戒心が漂う。
料理が運ばれてきて、食事が始まった。静かな晩餐。
テーブルの上には、肉料理やらサラダやらが大きな皿に並べてある。それを自分たちが好きに取るようだ。
オレリアが知っている晩餐は、一人一人に料理が運ばれてくるもの。このように、大皿から料理を取り分けるというのは、プレール侯爵夫人の教えになかった。
見様見真似で料理をとりわけるが、なぜかアーネストが顔をしかめる。
「こちらも、食べてみないか?」
アーネストが、骨のついた肉を取り分けようとしてくれたが、オレリアはそれを断った。もう、お腹がいっぱいなのだ。粗食を続けていたオレリアは、多くの肉を食べられない。それはここに来る間、立ち寄った領主館のもてなしや、宿の食事でも同じだった。
口の中が油っぽくなったので、グラスに手を伸ばす。オレリアの飲み物はお酒ではなく、もちろん果実水である。
それを口につけるオレリアを見た族長は、鼻で笑う。
「まさか、アーネストの花嫁に、このような子どもを送ってくるとは。我らもずいぶんと舐められたものだ」
「親父」
「ダスティン」
国王の父親を国王が咎め、その国王をアーネストが咎めた。
「オレリア、見苦しいところを見せた」
「いいえ。お気になさらないでください。事実ですから」
そこでオレリアはナイフを置いて、ナプキンで口を拭く。
「わたしがいましたら、美味しい食事も不味くなるでしょう。失礼ながら、先に退室させていただきます」
オレリアの前には、まだたくさんの食事が残っているにもかかわらず、彼女は席を立った。
アーネストがどうしたらものかと、まごついている様子が伝わってきたが、それを無視して食堂を出ていく。これ以上、彼に迷惑はかけられない。
ただでさえ、オレリアが花嫁としてここにいる事実が迷惑になっているのだ。
食堂の扉をしめ、回廊に出たところで大きく息を吐き、目頭が熱くなったところで顔をあげる。
背筋を伸ばして歩いて、離れの部屋へと向かうが、こそこそと何かささやくような声がオレリアの耳に届く。
食堂へ向かうときには気にならなかったのに、今になって異様にそれが気になった。
(あぁ……アーネストさまが……)
先ほどは、彼がオレリアを興味の視線から隠してくれていた。
それに気づいたとき、オレリアの心の中でアーネストの存在が大きくなった。
部屋に戻ると、驚いた様子でメーラが出迎えた。
「これほど早くお戻りになるとは思ってもおりませんでした」
「やはり、わたしでは駄目なのよ。おかしいでしょう? アーネストさまと結婚だなんて」
気丈に振る舞っていたが、メーラの顔を見た途端、一気に涙がこぼれてきた。
「オレリア様、泣かないでください。少なくとも、アーネスト様はオレリア様の味方でございますよ」
おそらくそうだろう。いや、そうであってもらいたい。
このふざけた結婚の一番の被害者はアーネストであるはずなのに、それでもオレリアの味方であってほしいと願っていた。
顔をあげた先には、驚いた表情を浮かべる大人が四人いる。先にアーネストから話を聞いていたから、そこに誰がいるかを瞬時に悟った。
壮年の男性は、ミルコ族の族長だった男で国王の父親。となれば、その隣にいるのが族長の妻である女性。
そして、長い黒髪の男性がハバリー国の国王。隣にいるのが王妃で、彼女はアーネストの妹と聞いている。
「お待たせして申し訳ございません」
「それほどかしこまる必要はない。席につきなさい」
穏やかな笑みを浮かべて国王は口にするが、その視線からは警戒心が漂う。
料理が運ばれてきて、食事が始まった。静かな晩餐。
テーブルの上には、肉料理やらサラダやらが大きな皿に並べてある。それを自分たちが好きに取るようだ。
オレリアが知っている晩餐は、一人一人に料理が運ばれてくるもの。このように、大皿から料理を取り分けるというのは、プレール侯爵夫人の教えになかった。
見様見真似で料理をとりわけるが、なぜかアーネストが顔をしかめる。
「こちらも、食べてみないか?」
アーネストが、骨のついた肉を取り分けようとしてくれたが、オレリアはそれを断った。もう、お腹がいっぱいなのだ。粗食を続けていたオレリアは、多くの肉を食べられない。それはここに来る間、立ち寄った領主館のもてなしや、宿の食事でも同じだった。
口の中が油っぽくなったので、グラスに手を伸ばす。オレリアの飲み物はお酒ではなく、もちろん果実水である。
それを口につけるオレリアを見た族長は、鼻で笑う。
「まさか、アーネストの花嫁に、このような子どもを送ってくるとは。我らもずいぶんと舐められたものだ」
「親父」
「ダスティン」
国王の父親を国王が咎め、その国王をアーネストが咎めた。
「オレリア、見苦しいところを見せた」
「いいえ。お気になさらないでください。事実ですから」
そこでオレリアはナイフを置いて、ナプキンで口を拭く。
「わたしがいましたら、美味しい食事も不味くなるでしょう。失礼ながら、先に退室させていただきます」
オレリアの前には、まだたくさんの食事が残っているにもかかわらず、彼女は席を立った。
アーネストがどうしたらものかと、まごついている様子が伝わってきたが、それを無視して食堂を出ていく。これ以上、彼に迷惑はかけられない。
ただでさえ、オレリアが花嫁としてここにいる事実が迷惑になっているのだ。
食堂の扉をしめ、回廊に出たところで大きく息を吐き、目頭が熱くなったところで顔をあげる。
背筋を伸ばして歩いて、離れの部屋へと向かうが、こそこそと何かささやくような声がオレリアの耳に届く。
食堂へ向かうときには気にならなかったのに、今になって異様にそれが気になった。
(あぁ……アーネストさまが……)
先ほどは、彼がオレリアを興味の視線から隠してくれていた。
それに気づいたとき、オレリアの心の中でアーネストの存在が大きくなった。
部屋に戻ると、驚いた様子でメーラが出迎えた。
「これほど早くお戻りになるとは思ってもおりませんでした」
「やはり、わたしでは駄目なのよ。おかしいでしょう? アーネストさまと結婚だなんて」
気丈に振る舞っていたが、メーラの顔を見た途端、一気に涙がこぼれてきた。
「オレリア様、泣かないでください。少なくとも、アーネスト様はオレリア様の味方でございますよ」
おそらくそうだろう。いや、そうであってもらいたい。
このふざけた結婚の一番の被害者はアーネストであるはずなのに、それでもオレリアの味方であってほしいと願っていた。
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