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28.善は急げ(1)
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「団長。レインさんの独り占めはダメだって、あれほど言いましたよね」
ノックをして執務室に入ってきたのはマイナだ。
「今から、レインさんは研究所の方との合同会議の時間ですので、お借りします」
トラヴィスは書類に落としていた視線をジロリとあげ、マイナを睨む。
「そのようなお顔をされてもダメです。私たちは、レインさんのスケジュール管理とサポートを任されておりますので」
マイナは両手を腰に当てて、胸を張って堂々と言った。
「私は任せた覚えはないが?」
冷えた視線。
「ライトさんから頼まれているのですよ。決まってるじゃないですか」
その視線にもめげないマイナ。そしてレインは彼女に腕を掴まれ、連れ去られていく。
「トラヴィス様。私が戻ってくるまでに、そちらの書類を終わらせておいてください」
愛しき妻はその言葉だけを残した。
パタンと扉は閉められた。
トラヴィスはため息しか出てこない。
あの遠征の後からだ。レインの周りをうろつくようになった三姉妹。しっかりとレインの予定を管理していて、時間になると彼女を連れ出していく。
しかも、復職した彼女。彼女自身の希望もあって、研究所の方との合同研究をしている。
仕事中、彼女と二人きりになれる時間はほとんど無い。入れ替わり立ち替わり、あの三姉妹の誰かがいる。それは、どうやらライトの差し金らしいのだが。とにかく、トラヴィスとしては面白くないのである。
ふくれっ面をしながら、書類をさばいていると、ノックもせずにその扉が開いた。このような人物は一人しかいない。むしろ一人さえいれば充分だ。
「元気そうだな、トラヴィス。仕事もはかどっているようで何よりだ」
ドサっとソファに腰をおろすライト。
「何の用だ」
「お前がきちんと仕事をしているか、監視にきた」
はあ、とトラヴィスはペンを置き、肩で息を吐いた。どいつもこいつも、と心の中で思う。
立ち上がるとライトの向かい側に座った。
「で、用件は?」
「んなもん、あるわけないだろ。お前の様子を見に来たんだから」
ふっとライトは鼻で笑った。ジロリとトラヴィスが視線を向ける。
「冗談だ。レインのことだ」
「やっぱりな」
ある程度、予想はしていたのだろう。だから、彼女がいないこの時間を狙ってわざと来たのだ。トラヴィスが一人になる時間を。
「レインの魔力は?」
それだけでライトが聞きたいことを悟ったのだろう。
「まだ、不安定だ」
とだけ答える。
「その、回復方法は。やっぱり、それしかないのか?」
「今のところは」
意味ありげに笑みを浮かべるトラヴィスに、ライトは頭をクシャリとかいた。
「お前さ。少しは加減しろよ」
「加減もしてるし、我慢もしてる」
「どこがだ」
ライトはトラヴィスが勝ち誇ったような笑みを浮かべているのが気に食わない。
「お前こそ、いい加減、妹離れしろよ。レインはやればできるんだよ」
「なんか、その言い方。腹立つな。お前さ、調子にのって孕ませるなよ。今、あいつに抜けられると困るのはお前だろ」
「そこは、大丈夫だ。加減してる」
「ちっ。別に俺はお前ののろけ話を聞きにきたわけじゃないんだよ」
「話をふってきたのはお前の方だろ」
堂々巡りしそうな会話。だから、ライトはそこで言葉を止めた。
「まあ、いい。とにかく今、レインは魔導士としても成長の時期だ。学園も飛び級で卒業したし、魔導士団でも最年少だ。そして薬師としての才能もある。その才能を生かすも殺すも、お前しだいだ」
「ああ、それもわかってる」
と言って、トラヴィスは席を立った。
「話、長くなりそうだからな。気はすすまないが、茶くらい出してやる」
彼女の魔導士としての扱い方に困っているのは事実。だが、愛する女性として手元に置いておきたいのも事実。
その葛藤が目の前にいるライトに理解ができるものか。
ノックをして執務室に入ってきたのはマイナだ。
「今から、レインさんは研究所の方との合同会議の時間ですので、お借りします」
トラヴィスは書類に落としていた視線をジロリとあげ、マイナを睨む。
「そのようなお顔をされてもダメです。私たちは、レインさんのスケジュール管理とサポートを任されておりますので」
マイナは両手を腰に当てて、胸を張って堂々と言った。
「私は任せた覚えはないが?」
冷えた視線。
「ライトさんから頼まれているのですよ。決まってるじゃないですか」
その視線にもめげないマイナ。そしてレインは彼女に腕を掴まれ、連れ去られていく。
「トラヴィス様。私が戻ってくるまでに、そちらの書類を終わらせておいてください」
愛しき妻はその言葉だけを残した。
パタンと扉は閉められた。
トラヴィスはため息しか出てこない。
あの遠征の後からだ。レインの周りをうろつくようになった三姉妹。しっかりとレインの予定を管理していて、時間になると彼女を連れ出していく。
しかも、復職した彼女。彼女自身の希望もあって、研究所の方との合同研究をしている。
仕事中、彼女と二人きりになれる時間はほとんど無い。入れ替わり立ち替わり、あの三姉妹の誰かがいる。それは、どうやらライトの差し金らしいのだが。とにかく、トラヴィスとしては面白くないのである。
ふくれっ面をしながら、書類をさばいていると、ノックもせずにその扉が開いた。このような人物は一人しかいない。むしろ一人さえいれば充分だ。
「元気そうだな、トラヴィス。仕事もはかどっているようで何よりだ」
ドサっとソファに腰をおろすライト。
「何の用だ」
「お前がきちんと仕事をしているか、監視にきた」
はあ、とトラヴィスはペンを置き、肩で息を吐いた。どいつもこいつも、と心の中で思う。
立ち上がるとライトの向かい側に座った。
「で、用件は?」
「んなもん、あるわけないだろ。お前の様子を見に来たんだから」
ふっとライトは鼻で笑った。ジロリとトラヴィスが視線を向ける。
「冗談だ。レインのことだ」
「やっぱりな」
ある程度、予想はしていたのだろう。だから、彼女がいないこの時間を狙ってわざと来たのだ。トラヴィスが一人になる時間を。
「レインの魔力は?」
それだけでライトが聞きたいことを悟ったのだろう。
「まだ、不安定だ」
とだけ答える。
「その、回復方法は。やっぱり、それしかないのか?」
「今のところは」
意味ありげに笑みを浮かべるトラヴィスに、ライトは頭をクシャリとかいた。
「お前さ。少しは加減しろよ」
「加減もしてるし、我慢もしてる」
「どこがだ」
ライトはトラヴィスが勝ち誇ったような笑みを浮かべているのが気に食わない。
「お前こそ、いい加減、妹離れしろよ。レインはやればできるんだよ」
「なんか、その言い方。腹立つな。お前さ、調子にのって孕ませるなよ。今、あいつに抜けられると困るのはお前だろ」
「そこは、大丈夫だ。加減してる」
「ちっ。別に俺はお前ののろけ話を聞きにきたわけじゃないんだよ」
「話をふってきたのはお前の方だろ」
堂々巡りしそうな会話。だから、ライトはそこで言葉を止めた。
「まあ、いい。とにかく今、レインは魔導士としても成長の時期だ。学園も飛び級で卒業したし、魔導士団でも最年少だ。そして薬師としての才能もある。その才能を生かすも殺すも、お前しだいだ」
「ああ、それもわかってる」
と言って、トラヴィスは席を立った。
「話、長くなりそうだからな。気はすすまないが、茶くらい出してやる」
彼女の魔導士としての扱い方に困っているのは事実。だが、愛する女性として手元に置いておきたいのも事実。
その葛藤が目の前にいるライトに理解ができるものか。
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