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聖女(7)*

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「俺と、こうするのは嫌か?」

 目の前で、少しだけ寂しそうに目尻を下げた彼が、そう問うてきた。

 キュンとアズサの胸が疼いた。
 正直に告白すると、ニールのことは苦手であるが、嫌いではないのだ。彼に数々の煮え湯を飲まされたのは事実であるが、彼だって理不尽な男ではない。根が真面目であるが故の行為なのだ。そしてそのやりとりを、楽しんでいるのがアズサだった。

 わかっているから許していた。そして、どこか彼を征服したかった。いや、征服されたかったのかもしれない。

「嫌では……、ありません……」
「そうか」

 彼は嬉しそうに破顔した。

(だ、駄目だ……。その顔、可愛すぎる……)

 普段見せている顔と異なる顔を見せられた。アズサは一瞬で魅了されてしまう。

 チョロい女かもしれない。だけど、恋に落ちるなんて一瞬だし、何がきっかけとなるかもわからない。
 それに、ニールのことは嫌いではなかった。嫌いではないというのは、好きも含まれる。
 ずっと認めたくなかっただけなのだ。

 好きでなければ、身体を捧げるなんてできない。いくら『死』を目の前にちらつかせられたとしても、見知らぬ人間であれば引き受けなかっただろう。人間とは、自分の世界に入ってこない者に対しては、意外と残酷になれる。

 むしろ、彼だから引き受けた。それを悟られぬように、渋々と引き受けたように周囲を欺いた。
「あっ……」

 初めて触れ合った彼の唇は柔らかく、優しい味がした。

 唇より先に、下の逸物を咥えてしまった。順番としては、間違えたかもしれない。
 そんなことを考えながらも、彼からの愛撫を受け止める。

 彼の手が乳房を包み込んだ。くにくにと、親指の腹で乳首を刺激する。

「んっ」

 少しだけ緩んだ唇の隙間から、彼の舌が入り込んできた。
 舌を絡め取られ、奪われる。

(この人、キス、上手い。童貞のくせに)

 キスだけで、お腹の底がじわりと熱くなるのは初めてだった。彼の足を濡らす液が、自然と滲み出てくる。
 彼からもたらせられる快楽は、アズサの身体を熱くする。それにただのディープキスであるはずなのに、先ほどからこの行為をやめたくないと思っている。

「ん、ふっ……」

 空気を求めるたびに、色っぽい声が零れ出る。まるで自分の声とは思えないほどの甘い声。今までの性交渉において、こんな声が出たことなどなかった。多分。
 勝ち誇ったような笑みを浮かべたニールは、唇を離した。

「どうやら、俺との口づけを気に入ってもらえたようだな。聖女様」

 アズサも悔しくて、じろりと彼を睨みつける。
「気に入ったのは、あなたのほうではなくて? アンヒム団長」
「ニールだ」
「え?」
「ニールと呼べ。そして貴女に溺れる愚かな俺に、高貴なる聖女様の名を口にする許可をいただけないだろうか?」

 彼の目尻が緩んだ。

 その表情がアズサの心にズキュンと突き刺さる。飴と鞭のように、彼は表情の使い分けが上手い。これが無意識であるならば、犯罪である。わざとであれば、なかなかなの策士だ。

「え、えぇ……。愚かなニールには、特別に私の名を呼ぶ許可を与えます」
「では、あなたのすべてを俺のものにする許可をいただいても?」
「そうね。あなたのすべてを私に捧げる許可を与えます」

 ニールは鼻で笑った。

「それでこそ、俺が欲しいと思った女だ。たっぷりと礼は尽くす」

 すかさず、彼の右手が前からがっつりと割れ目に侵入してきた。彼にまたがっているアズサにとって、そこを守る手段がない。彼の足に擦りつけるしかないのだが。

「俺の足を先ほどから濡らしているが、こんなにとはな」

 蜜をすくった指をアズサに見せつけて、それをパクリと舐めた。

「やはり、アズサの体液は別格だな」
「てことは、もう毒素は抜けたということで、よろしいでしょうか?」

 情炎たぎる彼の翡翠色の目を見たら、怖気づいてしまった。

「俺のアズサは、どうやら天邪鬼らしい」
「うわっ」

 そのまま器用に押し倒された。先ほどまで下にいたはずのニールが上にいる。

「こうやって見下ろすのも、たまらないな」

 ひくっと彼の剛直が動いたような気がする。

「覚悟を決めろ」
「わかりました……。あなたの童貞をもらう覚悟を決めます」

 その瞬間、ニールの顔が歪んだ。

「では、俺に最高の初めてを与えてくれ」
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