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幼妻の場合(13)
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◇◇◇◇
一人でゆっくりとお風呂に入る。必要なときは侍女を呼ぶこともあるが、そのようなことは滅多にない。むしろ、風呂から出たところを侍女に捕まってしまい、全身に香油を塗りたくられるというのが、今までであった。
だが今日は風呂後の侍女もいない。
なぜならクラークがいるからだ。
今日はクラークと映画館へいき、カトリーナご推薦のランジェリーショップで下着を彼と一緒に買った。「夫婦で下着を選ぶのは当たり前のことよ」とカトリーナはにこやかに微笑みながら口にしていたし、ポリーも同じようなことを言っていた。
あの二人が言うのであれば間違いないと意気込んでみたものの、初めて足を踏み入れたカトリーナご推薦のランジェリーショップは、オリビア一人で入るにはなかなか勇気のいるようなお店であった。
隣にクラークがいたから、そしてカトリーナとポリーの言葉があったからこそ、あのお店に入れたようなものだ。
そして今、風呂から出たらどの下着をつけるべきかで悩んでいた。
(やはり、クラークが選んだ菫色かしら……)
あそこのお店には、下着の機能を満たしていないのではないかという下着もあった。大事なところも透けて見えるようなデザインのものだ。
さらに、あの店員は『こちらはモーレン公爵夫人からです』と言って、こっそりと追加で紙袋に何かを入れた。それが何かであるかの確認はできていない。
何しろ、クラークの目があるからだ。
風呂から出たところで、こっそりと持ち込んだランジェリーショップの袋を漁る。
(こ、これは……。噂では聞いていたけれど、これがそうなの?)
バスタオルで身体を隠しながら、しゃがみ込んで袋をごそごそと漁っている姿は、誰にも見られたくない。
オリビアが手にしているのはベビードールであるが、どこからどう見ても薄い。白のレースであるため、いろいろと透けそうである。
(だけど、カトリーナ様のご推薦なのよね……。つまり、これで勝負に出ろということよね)
ゴクリと緊張してから、オリビアはそれに手早く着替えた。その上からナイトドレスに袖を通す。
オリビアが浴室から出ると、先に風呂に入っていたクラークがテーブルの上にワインとグラスを並べて待っているように見えた。だが、そのクラークは両手を組んで、顔を伏せている。
「旦那様?」
オリビアが声を書けると、彼の身体が大きく震えた。
「オリビア……。終わったのか」
そう言って笑う姿も、どことなく寂しげに見えた。
「こちらにおいで」
ガウン姿の彼であるが、胸元は少しだけはだけており、非常に官能的である。そんな彼から優しく言葉にされれば、オリビアもそれに従う。
彼の隣にストンと腰を落とすと、テーブルの上に置かれているワインに視線を向ける。
「旦那様、こちらは?」
「君が成人したからな。一緒に飲もうと思って。君が生まれた年のワインのようだ。団長が大事にしまっておいたものだ」
父親のことを出されてしまっては、オリビアの心も震えてしまう。
「団長は、こうやって成人した君と、このワインを飲むことを楽しみにしていたようだ」
クラークがワインボトルに手を伸ばし、グラスに注ぎ入れる。
「その相手が俺で悪いが、乾杯しないか?」
オリビアもグラスに手を伸ばす。
首の辺りの高さまで持ち上げると、クラークは目で合図を送る。
「遅くなったが……。十八歳の誕生日、おめでとう。乾杯」
その言葉に、オリビアも優雅に微笑んだ。
大人の女性はここで優雅に微笑むものだと、散々カトリーナから教えてもらったことである。
「あぁ……。美味いな……」
染み入るような声がクラークからは聞こえてくる。
オリビアはお酒を飲んだことがない。
何しろ、先月まで未成年だったのだ。
グラスに口をつけて、傾ける。一口飲むと、喉をひりひりと刺激しながら、芳醇な香りが口いっぱいに広がっていく。
「本当に、美味しいです」
もう一口飲もうとしたところ、クラークに止められた。
「君は、お酒は飲めるほうなのか?」
「わかりません。初めて飲んだので」
「このワインは。けっこう、強いぞ?」
何が強いのかわからないが、オリビアも体力には自信がある。
「大丈夫だと思います」
「そうか」
そこでクラークは目を伏せ、グラスをテーブルの上に置いた。
一人でゆっくりとお風呂に入る。必要なときは侍女を呼ぶこともあるが、そのようなことは滅多にない。むしろ、風呂から出たところを侍女に捕まってしまい、全身に香油を塗りたくられるというのが、今までであった。
だが今日は風呂後の侍女もいない。
なぜならクラークがいるからだ。
今日はクラークと映画館へいき、カトリーナご推薦のランジェリーショップで下着を彼と一緒に買った。「夫婦で下着を選ぶのは当たり前のことよ」とカトリーナはにこやかに微笑みながら口にしていたし、ポリーも同じようなことを言っていた。
あの二人が言うのであれば間違いないと意気込んでみたものの、初めて足を踏み入れたカトリーナご推薦のランジェリーショップは、オリビア一人で入るにはなかなか勇気のいるようなお店であった。
隣にクラークがいたから、そしてカトリーナとポリーの言葉があったからこそ、あのお店に入れたようなものだ。
そして今、風呂から出たらどの下着をつけるべきかで悩んでいた。
(やはり、クラークが選んだ菫色かしら……)
あそこのお店には、下着の機能を満たしていないのではないかという下着もあった。大事なところも透けて見えるようなデザインのものだ。
さらに、あの店員は『こちらはモーレン公爵夫人からです』と言って、こっそりと追加で紙袋に何かを入れた。それが何かであるかの確認はできていない。
何しろ、クラークの目があるからだ。
風呂から出たところで、こっそりと持ち込んだランジェリーショップの袋を漁る。
(こ、これは……。噂では聞いていたけれど、これがそうなの?)
バスタオルで身体を隠しながら、しゃがみ込んで袋をごそごそと漁っている姿は、誰にも見られたくない。
オリビアが手にしているのはベビードールであるが、どこからどう見ても薄い。白のレースであるため、いろいろと透けそうである。
(だけど、カトリーナ様のご推薦なのよね……。つまり、これで勝負に出ろということよね)
ゴクリと緊張してから、オリビアはそれに手早く着替えた。その上からナイトドレスに袖を通す。
オリビアが浴室から出ると、先に風呂に入っていたクラークがテーブルの上にワインとグラスを並べて待っているように見えた。だが、そのクラークは両手を組んで、顔を伏せている。
「旦那様?」
オリビアが声を書けると、彼の身体が大きく震えた。
「オリビア……。終わったのか」
そう言って笑う姿も、どことなく寂しげに見えた。
「こちらにおいで」
ガウン姿の彼であるが、胸元は少しだけはだけており、非常に官能的である。そんな彼から優しく言葉にされれば、オリビアもそれに従う。
彼の隣にストンと腰を落とすと、テーブルの上に置かれているワインに視線を向ける。
「旦那様、こちらは?」
「君が成人したからな。一緒に飲もうと思って。君が生まれた年のワインのようだ。団長が大事にしまっておいたものだ」
父親のことを出されてしまっては、オリビアの心も震えてしまう。
「団長は、こうやって成人した君と、このワインを飲むことを楽しみにしていたようだ」
クラークがワインボトルに手を伸ばし、グラスに注ぎ入れる。
「その相手が俺で悪いが、乾杯しないか?」
オリビアもグラスに手を伸ばす。
首の辺りの高さまで持ち上げると、クラークは目で合図を送る。
「遅くなったが……。十八歳の誕生日、おめでとう。乾杯」
その言葉に、オリビアも優雅に微笑んだ。
大人の女性はここで優雅に微笑むものだと、散々カトリーナから教えてもらったことである。
「あぁ……。美味いな……」
染み入るような声がクラークからは聞こえてくる。
オリビアはお酒を飲んだことがない。
何しろ、先月まで未成年だったのだ。
グラスに口をつけて、傾ける。一口飲むと、喉をひりひりと刺激しながら、芳醇な香りが口いっぱいに広がっていく。
「本当に、美味しいです」
もう一口飲もうとしたところ、クラークに止められた。
「君は、お酒は飲めるほうなのか?」
「わかりません。初めて飲んだので」
「このワインは。けっこう、強いぞ?」
何が強いのかわからないが、オリビアも体力には自信がある。
「大丈夫だと思います」
「そうか」
そこでクラークは目を伏せ、グラスをテーブルの上に置いた。
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