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生真面目夫の場合(4)
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◆◆◆◆
「だから最後に。俺に思い出をくれないか? 先ほども言ったが、君と一緒に、出掛けたいんだ」
そう口にしたとき、彼女ははにかむようにして「はい」と答えてくれた。
最後の最後まで、情に厚い女性である。
(映画……。確か、ここ数年、隣国から入ってきた技術だな)
大きな幕に映し出される映像を見ると聞いたことはある。観劇みたいなものだと、部下たちが言っていたことを思い出す。
人気の演目は、事前にチケットを取っておいた方がいいとも、彼らは言っていた。
(彼女は、どのようなものが見たいのだろうか。人気の演目は何だろうか……。先ほど出てきた名前はポリー。カステル侯爵夫人だな。ジャンにでも聞いてみるか)
ジャンとはカステル侯爵のことだ。ようするにポリーの夫である。そしてクラークの部下でもあった。騎士団の第一部隊に所属している。
ちらりと隣に座るオリビアに視線を向けた。彼女は嬉しそうに顔をほころばせている。
(可愛い……。めちゃくちゃ可愛い。これは、何が何でもジャンに流行りの映画を聞かねばならないな)
あまりにもクラークがじっと見つめてしまったためか、オリビアもこちらに視線を向ける。
目が合った。
(やばい、駄目だ。可愛い。天使だ)
寝るために、オリビアは腰までの髪をおろしているし、今の彼女はナイトドレスを着ている。
その無防備な姿が、クラークの気持ちを刺激する。だから、すぐに視線を逸らす。
(彼女は、俺の気持ちになんて気づいていないんだろうな。天使というよりは、小悪魔的な存在だ)
これ以上、彼女の隣に座っていると、身の危険――特に下半身の危険を感じた。
先ほども風呂上りの彼女の結い上げた髪がパサリと落ちた時、言葉で言い表すことのできない彼女の色気によって、身の危険を感じてしまったのだ。
だからクラークは立ち上がる。
(駄目だ。これ以上、彼女の側にいるといろいろと危険だ。今日はもう寝よう)
その気持ちを言葉に乗せる。
「今日はもう遅い。俺のこともいろいろと気遣ってくれて、疲れただろう? 俺も、今日はもう休むから」
クラークは部屋の中心にある照明を消して、彼女がいる方とは反対側からベッドへとあがった。そして、毛布をかぶる。
(よし、寝よう。寝てしまえば余計なことを考えなくてすむ。寝る、寝るんだ、俺)
間接照明だけが照らす、ほんのりと温かな部屋で、クラークはベッドに仰向けになった。
だが、ちらちらと視線を感じる。視線の主はオリビアしかいない。
(何だこれは。俺の天使は俺を試しているのか? いや、違う。これは俺の妄想だ。俺の妄想によって、そう見えるだけだ。団長、俺はけして彼女を邪な目で見ているわけではありません)
心の中のアトロに謝罪する。
(寝る、寝る、寝る、寝る。俺は寝る)
何度も心の中で唱えることで、これ以上妄想が広がることを制御しようとする。
カチリと間接照明を消す音がした。
薄闇に包まれる部屋。
オリビアもベッドで横になろうとしているのだろう。すすっという衣擦れの音が、クラークの妄想を刺激する。
(耐えろ、俺。ここは……。そうだ。あいつらと雑魚寝をしているんだ。だから、隣にいるのは部下たちだ)
隣から感じる人の気配は、騎士団の団員たちと思うことにした。
だが、隣からはいい匂いがしてくる。あの風呂に浮かんでいた花の香りだ。
同じ風呂に入ったはずなのに、彼女からはいい香りがしてくるのが不思議だった。
(耐えろ、俺。今までも耐えてきただろう。もう少しでこの試練から解放されるというのに。今、誘惑に負けてあきらめてしまってどうする)
ゆっくりと呼吸を整える。
そうやって、意識を手放そうと試みる。
(眠ってしまえばいいんだ。だけど、いい匂いがする。そうか……。ここは花畑だ。いや、むしろ天国かもしれない。天国であれば、きちんとオリビアを守ったと、団長に報告せねばならないな)
「だから最後に。俺に思い出をくれないか? 先ほども言ったが、君と一緒に、出掛けたいんだ」
そう口にしたとき、彼女ははにかむようにして「はい」と答えてくれた。
最後の最後まで、情に厚い女性である。
(映画……。確か、ここ数年、隣国から入ってきた技術だな)
大きな幕に映し出される映像を見ると聞いたことはある。観劇みたいなものだと、部下たちが言っていたことを思い出す。
人気の演目は、事前にチケットを取っておいた方がいいとも、彼らは言っていた。
(彼女は、どのようなものが見たいのだろうか。人気の演目は何だろうか……。先ほど出てきた名前はポリー。カステル侯爵夫人だな。ジャンにでも聞いてみるか)
ジャンとはカステル侯爵のことだ。ようするにポリーの夫である。そしてクラークの部下でもあった。騎士団の第一部隊に所属している。
ちらりと隣に座るオリビアに視線を向けた。彼女は嬉しそうに顔をほころばせている。
(可愛い……。めちゃくちゃ可愛い。これは、何が何でもジャンに流行りの映画を聞かねばならないな)
あまりにもクラークがじっと見つめてしまったためか、オリビアもこちらに視線を向ける。
目が合った。
(やばい、駄目だ。可愛い。天使だ)
寝るために、オリビアは腰までの髪をおろしているし、今の彼女はナイトドレスを着ている。
その無防備な姿が、クラークの気持ちを刺激する。だから、すぐに視線を逸らす。
(彼女は、俺の気持ちになんて気づいていないんだろうな。天使というよりは、小悪魔的な存在だ)
これ以上、彼女の隣に座っていると、身の危険――特に下半身の危険を感じた。
先ほども風呂上りの彼女の結い上げた髪がパサリと落ちた時、言葉で言い表すことのできない彼女の色気によって、身の危険を感じてしまったのだ。
だからクラークは立ち上がる。
(駄目だ。これ以上、彼女の側にいるといろいろと危険だ。今日はもう寝よう)
その気持ちを言葉に乗せる。
「今日はもう遅い。俺のこともいろいろと気遣ってくれて、疲れただろう? 俺も、今日はもう休むから」
クラークは部屋の中心にある照明を消して、彼女がいる方とは反対側からベッドへとあがった。そして、毛布をかぶる。
(よし、寝よう。寝てしまえば余計なことを考えなくてすむ。寝る、寝るんだ、俺)
間接照明だけが照らす、ほんのりと温かな部屋で、クラークはベッドに仰向けになった。
だが、ちらちらと視線を感じる。視線の主はオリビアしかいない。
(何だこれは。俺の天使は俺を試しているのか? いや、違う。これは俺の妄想だ。俺の妄想によって、そう見えるだけだ。団長、俺はけして彼女を邪な目で見ているわけではありません)
心の中のアトロに謝罪する。
(寝る、寝る、寝る、寝る。俺は寝る)
何度も心の中で唱えることで、これ以上妄想が広がることを制御しようとする。
カチリと間接照明を消す音がした。
薄闇に包まれる部屋。
オリビアもベッドで横になろうとしているのだろう。すすっという衣擦れの音が、クラークの妄想を刺激する。
(耐えろ、俺。ここは……。そうだ。あいつらと雑魚寝をしているんだ。だから、隣にいるのは部下たちだ)
隣から感じる人の気配は、騎士団の団員たちと思うことにした。
だが、隣からはいい匂いがしてくる。あの風呂に浮かんでいた花の香りだ。
同じ風呂に入ったはずなのに、彼女からはいい香りがしてくるのが不思議だった。
(耐えろ、俺。今までも耐えてきただろう。もう少しでこの試練から解放されるというのに。今、誘惑に負けてあきらめてしまってどうする)
ゆっくりと呼吸を整える。
そうやって、意識を手放そうと試みる。
(眠ってしまえばいいんだ。だけど、いい匂いがする。そうか……。ここは花畑だ。いや、むしろ天国かもしれない。天国であれば、きちんとオリビアを守ったと、団長に報告せねばならないな)
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