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生真面目夫の場合(3)
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彼女にとっては不本意な結婚であっただろう。何よりも倍以上も年の離れた男を夫としたのだ。
未成年であった彼女を守るためにはそれしか方法が思い浮かばなかったし、何しろアトロからの願いでもあったのだ。
「着替えは、準備してありますので」
浴室を出ようとする彼女に、思わず視線を向けてしまった。
目が合った。
だが、それよりもしっとりと濡れそぼる彼女の全身が目に入った。
こちらに向いている彼女の上半身。濡れたシュミーズから透けるその身体。
膨らみのある胸元から透けて見える赤い果実。
(まっ、まずい。これは、見てはいけないやつだ。落ち着け、俺。……団長、これは事故です。わざとじゃありません)
急いで視線を逸らすと、アトロのことを考える。
ガラス戸の向こう側にうつる彼女を見て、ほっと息を吐いた。
とにかく妻となったオリビアであるが、「可愛い」の一言に尽きる。
いや、好きだ。
ぎゅーして、ちゅーして、まぐわいたい。
どこか幼さが残りながらも、必死に家を守ろうとする姿。双方が微妙に絡み合って、さらに彼女の魅力を引き立てている。
凛とした姿勢を見せながらも、どこか危うさを感じる。
そんな彼女は、結婚した今でも、たくさんの男から言い寄られているにちがいない。
何しろ、彼女の結婚相手はクラークなのだから。
あんな男より、俺の方がいいだろう、と誘ってくるような男がいるはずだ。
クラークは湯につかりながら、ぐっと拳を握りしめた。
先ほどまで抱き抱えていた彼女の身体は柔らかかった。年甲斐もなく反応した。それを悟られないようにと、体勢を整えていた。
彼女には気づかれていないはずだ。
十八歳。成人を迎えた彼女。
とうとう彼女を解放するときがきたとも思う。
だけど手放したくないとも思う。
妻となった彼女を抱いていないのは、アトロとの約束があるからだ。彼から受けとった手紙に書いてあったからだ。
『オリビアのことを頼む。だが、成人まで手を出すなよ(笑)』
かっこ笑いが、クラークの心を読んでいるようで恐ろしかった。アトロはクラークの心をまるっとお見通しなのだ。年甲斐もなく、彼女に片思いしていた気持ちまで。
オリビアを知ったのは、彼女が十歳のとき。クラークがアトロの屋敷に遊びに行った時だ。危なっかしい手つきで、おもてなしをする彼女の姿に目を奪われた。
デザートを運ぼうとしている彼女が、緊張のために絨毯に足を引っかけた時、一番近くに座っていたクラークがその身体を支えた。彼女は転ばなかったし、もちろんデザートも無事だった。
それ以降、オリビアはクラークに懐くようになった。
きっかけとは些細なことである。
オリビアが十二歳を過ぎたあたりから、ぐんと体つきが大人になった。背は伸びて、体つきが丸くなる。
彼女が十五歳になったとき、クラークはアトロに言われたのだ。
『オリビアを守って欲しい。あの子は、なぜかお前に懐いているからな。お前なら、安心してあの子を頼める』
彼女を守る――。
まるで彼女の専属騎士になったような高揚感に包まれた。その肩書だけでも充分だと思っていた。
だからこそ、その約束がなければ、間違いなく手を出していただろう。クラークだって聖人君子ではない。むしろ、彼女とまぐわいたい。
隣で好きな女性が無防備な姿で眠っていたら、むらむらとすることだってある。何しろ、彼女とはまぐわいたいと思っているのだから。
そのたびにアトロとの約束を思い出し、己を御していたのだ。
(だが、オリビアは十八になった。これで彼女は、自分の意志で好きな男と結婚することができる……)
十八歳になれば、親の同意なしに結婚ができる。
クラークとオリビアの結婚は、彼女の保護者であるアトロの同意が必要だった。だが、その制限がなくなったのであれば、彼女には本当に好きな人と家庭を築いてもらいたい。
その結果、彼女を失う羽目になったとしても、好きな人の幸せは願いたいのだ。
何しろ、クラークは彼女を守る騎士である。
それでも最後くらいはクラークも願いを叶えたいし、思い出が欲しい。
「少し、長い休みをもらうことができたんだ。君の誕生日を祝ってやれなかったし、誕生日の償いというわけでもないのだが、君さえよければ、どこか出かけないか?」
食事の席で、そう彼女に提案した。
彼女から返ってきた言葉は「考えておきます」だった。
未成年であった彼女を守るためにはそれしか方法が思い浮かばなかったし、何しろアトロからの願いでもあったのだ。
「着替えは、準備してありますので」
浴室を出ようとする彼女に、思わず視線を向けてしまった。
目が合った。
だが、それよりもしっとりと濡れそぼる彼女の全身が目に入った。
こちらに向いている彼女の上半身。濡れたシュミーズから透けるその身体。
膨らみのある胸元から透けて見える赤い果実。
(まっ、まずい。これは、見てはいけないやつだ。落ち着け、俺。……団長、これは事故です。わざとじゃありません)
急いで視線を逸らすと、アトロのことを考える。
ガラス戸の向こう側にうつる彼女を見て、ほっと息を吐いた。
とにかく妻となったオリビアであるが、「可愛い」の一言に尽きる。
いや、好きだ。
ぎゅーして、ちゅーして、まぐわいたい。
どこか幼さが残りながらも、必死に家を守ろうとする姿。双方が微妙に絡み合って、さらに彼女の魅力を引き立てている。
凛とした姿勢を見せながらも、どこか危うさを感じる。
そんな彼女は、結婚した今でも、たくさんの男から言い寄られているにちがいない。
何しろ、彼女の結婚相手はクラークなのだから。
あんな男より、俺の方がいいだろう、と誘ってくるような男がいるはずだ。
クラークは湯につかりながら、ぐっと拳を握りしめた。
先ほどまで抱き抱えていた彼女の身体は柔らかかった。年甲斐もなく反応した。それを悟られないようにと、体勢を整えていた。
彼女には気づかれていないはずだ。
十八歳。成人を迎えた彼女。
とうとう彼女を解放するときがきたとも思う。
だけど手放したくないとも思う。
妻となった彼女を抱いていないのは、アトロとの約束があるからだ。彼から受けとった手紙に書いてあったからだ。
『オリビアのことを頼む。だが、成人まで手を出すなよ(笑)』
かっこ笑いが、クラークの心を読んでいるようで恐ろしかった。アトロはクラークの心をまるっとお見通しなのだ。年甲斐もなく、彼女に片思いしていた気持ちまで。
オリビアを知ったのは、彼女が十歳のとき。クラークがアトロの屋敷に遊びに行った時だ。危なっかしい手つきで、おもてなしをする彼女の姿に目を奪われた。
デザートを運ぼうとしている彼女が、緊張のために絨毯に足を引っかけた時、一番近くに座っていたクラークがその身体を支えた。彼女は転ばなかったし、もちろんデザートも無事だった。
それ以降、オリビアはクラークに懐くようになった。
きっかけとは些細なことである。
オリビアが十二歳を過ぎたあたりから、ぐんと体つきが大人になった。背は伸びて、体つきが丸くなる。
彼女が十五歳になったとき、クラークはアトロに言われたのだ。
『オリビアを守って欲しい。あの子は、なぜかお前に懐いているからな。お前なら、安心してあの子を頼める』
彼女を守る――。
まるで彼女の専属騎士になったような高揚感に包まれた。その肩書だけでも充分だと思っていた。
だからこそ、その約束がなければ、間違いなく手を出していただろう。クラークだって聖人君子ではない。むしろ、彼女とまぐわいたい。
隣で好きな女性が無防備な姿で眠っていたら、むらむらとすることだってある。何しろ、彼女とはまぐわいたいと思っているのだから。
そのたびにアトロとの約束を思い出し、己を御していたのだ。
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その結果、彼女を失う羽目になったとしても、好きな人の幸せは願いたいのだ。
何しろ、クラークは彼女を守る騎士である。
それでも最後くらいはクラークも願いを叶えたいし、思い出が欲しい。
「少し、長い休みをもらうことができたんだ。君の誕生日を祝ってやれなかったし、誕生日の償いというわけでもないのだが、君さえよければ、どこか出かけないか?」
食事の席で、そう彼女に提案した。
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