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姉の身代わりに
2.
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ブレンダン王太子殿下の婚約発表のパーティが開かれる。その婚約者はもちろんエリン。婚約者と決まってからというもの、毎日のように王宮へ足を運んでは様々な教育を受けているらしい。ああ見えてもエリンは根が真面目なのだ。
そしてリーゼルもそのパーティに婚約者と共に出席する必要があった。もちろんエリンの妹という立場と、彼女の婚約者があのオーガスト・キャスリックであるからだ。
あの後、二人の婚約異議の申し立ても問題なく通り、お互いの婚約者を入れ替えた書類が送られてきた。それによって、二人の婚約者が正式に決まった。
このような華やかなパーティに出席するのは、リーゼルにとって苦痛以外の何ものでもない。
今までは近くにエリンがいて「あなたは壁の花にでもなっていなさい」と、壁側に彼女を誘い出すと飲み物を押し付け、エリン自身は人の輪の中へと消えていく。リーゼルはそんな姉の姿を見送りながら、誰からも声をかけられずにその場をやり過ごしていた。
だが今日は違う。隣にオーガストという婚約者がいる。隣に人がいることに慣れていないのに、ましてその彼と腕を組むとか。
小さく息を吐くと、どうやらオーガストに気付かれたらしい。
「疲れたか?」
「あ、いえ。まだ、始まってもいませんから」
はにかみながら返事をしつつも、リーゼルは彼と組んでいた腕にきゅっと力を入れてしまった。
オーガストはそんな彼女に気付いて視線を下に向けたが、リーゼルの視線も下を向いたままで、視線が嚙み合わない。
華やかな音楽が流れると、ブレンダン王太子殿下とあのエリンが緊張した面持ちで腕を組んで現れた。国王陛下の声と、それから湧き上がる歓声と。それをどこか冷めた目でリーゼルは見つめていた。だからといって、自分があのブレンダンの婚約者になりたかったわけではない。
ただ、ここではないどこかへ消えてしまいたかった。気になってオーガストを見上げると、彼は眩しそうにあの二人を見つめていた。どこか口元が綻んでいるのと、鋭い視線。相反するそれに見えるのだが、その鋭い視線の先にいたのは、エリンだった。
――オーガスト様は、お姉様のことが好きなのよね。
エリン自身はどちらの婚約者もマキオン公爵家の娘であれば問題ないと発言していたが、恐らくこのオーガストにとって、マキオン公爵家の娘というのはエリンのことだったのだろう。
――お姉様の代わりで、ごめんなさい。
リーゼルがまた視線を下に向けると、ドレスの裾をきゅっと掴む。そして、彼と組んでいる腕にもきゅっと力が入る。それに気付いたオーガストはまたリーゼルを見下ろすのだが、やはり彼女と視線が合うことは無かった。
そしてリーゼルもそのパーティに婚約者と共に出席する必要があった。もちろんエリンの妹という立場と、彼女の婚約者があのオーガスト・キャスリックであるからだ。
あの後、二人の婚約異議の申し立ても問題なく通り、お互いの婚約者を入れ替えた書類が送られてきた。それによって、二人の婚約者が正式に決まった。
このような華やかなパーティに出席するのは、リーゼルにとって苦痛以外の何ものでもない。
今までは近くにエリンがいて「あなたは壁の花にでもなっていなさい」と、壁側に彼女を誘い出すと飲み物を押し付け、エリン自身は人の輪の中へと消えていく。リーゼルはそんな姉の姿を見送りながら、誰からも声をかけられずにその場をやり過ごしていた。
だが今日は違う。隣にオーガストという婚約者がいる。隣に人がいることに慣れていないのに、ましてその彼と腕を組むとか。
小さく息を吐くと、どうやらオーガストに気付かれたらしい。
「疲れたか?」
「あ、いえ。まだ、始まってもいませんから」
はにかみながら返事をしつつも、リーゼルは彼と組んでいた腕にきゅっと力を入れてしまった。
オーガストはそんな彼女に気付いて視線を下に向けたが、リーゼルの視線も下を向いたままで、視線が嚙み合わない。
華やかな音楽が流れると、ブレンダン王太子殿下とあのエリンが緊張した面持ちで腕を組んで現れた。国王陛下の声と、それから湧き上がる歓声と。それをどこか冷めた目でリーゼルは見つめていた。だからといって、自分があのブレンダンの婚約者になりたかったわけではない。
ただ、ここではないどこかへ消えてしまいたかった。気になってオーガストを見上げると、彼は眩しそうにあの二人を見つめていた。どこか口元が綻んでいるのと、鋭い視線。相反するそれに見えるのだが、その鋭い視線の先にいたのは、エリンだった。
――オーガスト様は、お姉様のことが好きなのよね。
エリン自身はどちらの婚約者もマキオン公爵家の娘であれば問題ないと発言していたが、恐らくこのオーガストにとって、マキオン公爵家の娘というのはエリンのことだったのだろう。
――お姉様の代わりで、ごめんなさい。
リーゼルがまた視線を下に向けると、ドレスの裾をきゅっと掴む。そして、彼と組んでいる腕にもきゅっと力が入る。それに気付いたオーガストはまたリーゼルを見下ろすのだが、やはり彼女と視線が合うことは無かった。
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