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兄の身代わりに

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 王立騎士団警備部隊、それがアルセンの所属している部隊。正式には警備部隊の第二隊。さらに、第二隊長という役職まである。あんなチャラチャラしているような兄だが、一応お勤めはきちんと果たしていたようだ。
 兄の代わりに騎士服に身を包むアヌークだが、兄が男性の割には小柄であったせいか、意外にもその服がぴったりとはまってしまった。仕事の内容はアルセンから聞いていたから、なんとなく頭には入っている。だが問題は人の名前。

「休みボケでド忘れした」
 という理由で、副隊長からさりげなく聞き出すという技を駆使し、一度聞いたら忘れないというアヌークの特殊能力を発揮して、なんとか覚えた。
 そして、アヌークが兄の代わりに隊長として任務をこなして十日目。その噂は部隊長の耳にまで入るようになっていた。

「最近、アルセン・デュラスの働きがすこぶる良い。何かあったのか」

 アルセン・デュラスといえば、部下の扱い方がうまく、自分は汚れた仕事をしない、むしろ遊んでいる隊長として一部では有名だったのだが、休暇が明けてから、別人になったかのように自ら率先して任務をこなしている、と。その別人になったかのような隊長を目にした部下たちが「隊長に続け」と奮い立って任務についている、と。
 つまり、警備部隊第二隊の活躍が、赤丸急上昇というわけだ。

「そうか。どうやらアルセンは約束を守ったようだな……」
 警備部隊長であるニルス・リグロは口元を緩めた。彼の休暇前にニルスはアルセンに言った。
「勤務態度を見直せ」と。
「部下の手本となるような行いを示せ」と。
「そうしなければ一般騎士に降格だ。場合によってはクビだ」と。
「私が望むような結果を出せ」と。

 むしろ脅しに近いような言葉でもあったし、我ながら卑怯でもあると思った。

「アルセンをここに呼べ」
 ここ。つまり、ニルスの執務室。
 事務官は丁寧に頭を下げると、その命令に従うべくアルセンの元へと向かった。
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