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16.彼女たちの招待を受けた日(1)
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イングラム国内は、次第に荒れ始めていた。騎士団の目の届かないところでは暴動も起こっている。
というのも、食べ物が手に入りにくくなっているのが原因であった。不作は以前から起こっていたが、それが続き、拡大している。
クロヴィスは頭を抱えた。それもこれもすべて、ウリヤナがいなくなってからだ。
カール子爵を問い質したが、彼はウリヤナが聖女となってからは縁を切ったと口にする。彼女が修道院に行ったと神殿側が言うのであれば、そうなのだろうとしか言わない。カール子爵は、彼女がどこにいるかはわからないとのこと。連絡も取り合っていないようだ。
彼女の居場所がわからないのであれば、彼女の家族を使って脅しをかけることもできない。
会えないとわかれば、会いたいという思いが募る。
クロヴィスはウリヤナを手放したいわけではなかった。ただ側にいて欲しかった。それすら彼女には伝わらなかったのだ。
「クソッ」
どん、と両手で机の上を叩けば、山のような書類が雪崩を起こす。嘆願書の山だ。
さすがにこの現状には、コリーンも焦り始めたらしい。聖女としてできることをすべきだと、国王からも詰め寄られ、顔を真っ青にした。
あのとき彼女は、わけのわからないことを口にしていた。
『……ですが。力を使い過ぎれば、力を失ってしまうのではないのですか? ウリヤナと同じように』
コリーンも国王も、他に誰もいないと思ったのだろう。だが、彼女を探していたクロヴィスは、たまたまその二人の会話を耳にしてしまったのだ。
聖なる力は使い過ぎれば失われてしまう――
そのようなことをクロヴィスは知らなかった。つまりウリヤナが力を失ったのはクロヴィスが彼女の純潔を奪ったせいではなかったのだ。
むしろ、神殿のせいだろう。神殿がウリヤナの力を利用したのだ。
彼らに気づかれぬように執務室に戻ったクロヴィスは、机の前に座って奥歯をギリギリと噛みしめていた。
「クロヴィス様、書簡が届いております」
そう言って部屋に入ってきたのはアルフィーである。彼は以前と変わっていない。変わっていないのは、彼だけかもしれない。
「これは……。ローレムバ国から、か?」
以前、イングラム国の現状を助けてほしくて、魔術師の力を依頼したことがある。
あのときローレムバ国の属国となることを条件としてつきつけられ、少し考えさせてほしいと回答を保留にした。
それ以降、連絡はとっていなかった。できることなら、今すぐにでも助けてほしいくらいだ。
もしかしたら、救いの手を差し出してくれたのだろうか。
だが、封書から察するに、招待状のようにも見える。
アルフィーよりペーパーナイフを受け取り、それを隙間から滑らせた。
封を開けて中身を取り出すと、やはり招待状であった。
「何もこの時期に……」
どうやらローレムバ国の王弟でありザフロス辺境伯が結婚をしたため、お披露目会を行うという招待状であった。
ザフロス辺境伯は、一年ほど前にイングラム国を訪ねてきた。それは聖女の力を貸してほしいという理由によるものだった。
それを一蹴したのはイングラム国王である。それが原因で、今ではローレムバ国の協力を得られない。
この招待を断るわけにはいかないだろう。今後のことを考えると、ローレムバ国とは仲良くしておきたい。
「これは……私宛にきているが、父上にも?」
その言葉にアルフィーは「わかりません」とでも言うかのように首を振る。
「そうか……出席の連絡を……」
「コリーン様は?」
アルフィーの言葉に戸惑う。
コリーンは、王城の寝室に引きこもっている。連日届く嘆願書に怯えるかのようにして、部屋から出てこない。
国王は、クロヴィスとコリーンの結婚を早めるようにと急かしているが、クロヴィスがそれを引き延ばしていた。
このまま彼女と結婚をしていいのだろうか。そう思いつつも、結婚するしかないのだろう。
というのも、食べ物が手に入りにくくなっているのが原因であった。不作は以前から起こっていたが、それが続き、拡大している。
クロヴィスは頭を抱えた。それもこれもすべて、ウリヤナがいなくなってからだ。
カール子爵を問い質したが、彼はウリヤナが聖女となってからは縁を切ったと口にする。彼女が修道院に行ったと神殿側が言うのであれば、そうなのだろうとしか言わない。カール子爵は、彼女がどこにいるかはわからないとのこと。連絡も取り合っていないようだ。
彼女の居場所がわからないのであれば、彼女の家族を使って脅しをかけることもできない。
会えないとわかれば、会いたいという思いが募る。
クロヴィスはウリヤナを手放したいわけではなかった。ただ側にいて欲しかった。それすら彼女には伝わらなかったのだ。
「クソッ」
どん、と両手で机の上を叩けば、山のような書類が雪崩を起こす。嘆願書の山だ。
さすがにこの現状には、コリーンも焦り始めたらしい。聖女としてできることをすべきだと、国王からも詰め寄られ、顔を真っ青にした。
あのとき彼女は、わけのわからないことを口にしていた。
『……ですが。力を使い過ぎれば、力を失ってしまうのではないのですか? ウリヤナと同じように』
コリーンも国王も、他に誰もいないと思ったのだろう。だが、彼女を探していたクロヴィスは、たまたまその二人の会話を耳にしてしまったのだ。
聖なる力は使い過ぎれば失われてしまう――
そのようなことをクロヴィスは知らなかった。つまりウリヤナが力を失ったのはクロヴィスが彼女の純潔を奪ったせいではなかったのだ。
むしろ、神殿のせいだろう。神殿がウリヤナの力を利用したのだ。
彼らに気づかれぬように執務室に戻ったクロヴィスは、机の前に座って奥歯をギリギリと噛みしめていた。
「クロヴィス様、書簡が届いております」
そう言って部屋に入ってきたのはアルフィーである。彼は以前と変わっていない。変わっていないのは、彼だけかもしれない。
「これは……。ローレムバ国から、か?」
以前、イングラム国の現状を助けてほしくて、魔術師の力を依頼したことがある。
あのときローレムバ国の属国となることを条件としてつきつけられ、少し考えさせてほしいと回答を保留にした。
それ以降、連絡はとっていなかった。できることなら、今すぐにでも助けてほしいくらいだ。
もしかしたら、救いの手を差し出してくれたのだろうか。
だが、封書から察するに、招待状のようにも見える。
アルフィーよりペーパーナイフを受け取り、それを隙間から滑らせた。
封を開けて中身を取り出すと、やはり招待状であった。
「何もこの時期に……」
どうやらローレムバ国の王弟でありザフロス辺境伯が結婚をしたため、お披露目会を行うという招待状であった。
ザフロス辺境伯は、一年ほど前にイングラム国を訪ねてきた。それは聖女の力を貸してほしいという理由によるものだった。
それを一蹴したのはイングラム国王である。それが原因で、今ではローレムバ国の協力を得られない。
この招待を断るわけにはいかないだろう。今後のことを考えると、ローレムバ国とは仲良くしておきたい。
「これは……私宛にきているが、父上にも?」
その言葉にアルフィーは「わかりません」とでも言うかのように首を振る。
「そうか……出席の連絡を……」
「コリーン様は?」
アルフィーの言葉に戸惑う。
コリーンは、王城の寝室に引きこもっている。連日届く嘆願書に怯えるかのようにして、部屋から出てこない。
国王は、クロヴィスとコリーンの結婚を早めるようにと急かしているが、クロヴィスがそれを引き延ばしていた。
このまま彼女と結婚をしていいのだろうか。そう思いつつも、結婚するしかないのだろう。
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