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14.彼女が命を育む日(4)
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「いやぁ、まさか。あのレナートが隣国から嫁さんを連れて帰ってくるとは、思ってもいなかった」
くだけたその言い方は、家族に対する言葉なのだろう。
「もう、会わせたからいいだろ? 帰れ」
国王に向かってそのような暴言を吐くレナートに、ウリヤナは視線を向ける。
「レナート。あなた、どうしたの? わざわざお兄様がいらしてくれたのでしょう?」
「そうだぞ、レナート。お前の兄が、わざわざこんな辺境まで足を運んだのだ。もう少し労われ」
「労わる気にならない。だから、帰れ」
「ウリヤナ。申し訳ない、こんな気の利かない弟で」
「お前はウリヤナをウリヤナと呼ぶな」
「はいはい。お茶が入りましたよ。お菓子もいかがですか?」
このまま兄弟口喧嘩が勃発するのではと思ったところで、ロイがテーブルにお茶とお菓子を並べ始めた。
「ねぇ、ロイ。レナートっていつもこんななの?」
彼の耳元でささやくと、ロイは「そうですよ」と言葉を続ける。
「ウリヤナ様が心配されるのもわかりますが。レナート様は、ランベルト様とお会いになったときはこんな感じです。つまり、いつものことですから、お気になさらないでください。ということです」
「そうなのね?」
「そうそう。レナートは私と会うと、いつもこんな感じだ。素直じゃない弟をもつと、苦労する。だから、ウリヤナ。そんな弟はやめて、私のところにこないか?」
ランベルトの言葉の意味がわからず、ウリヤナは首を傾げた。
「私の第二妃にならないか?」
「え?」
「兄上……」
ふわっと、室内の温度が高くなったような気がした。
「うわわわわ。レナート様、落ち着いてください。そして陛下、レナート様を焚きつけるようなことは言わないでください。この屋敷、なくなりますよ」
「おいおい。お前はいつから冗談も通じない男になったんだ? 昔からか」
冗談と聞いて、ウリヤナも安堵する。
ふん、と鼻から荒く息を吐いたレナートは、お茶を飲む。
「まぁ、だけど。レナートがウリヤナと政略的に婚姻関係を結んだわけではないとこれでわかったよ。ウリヤナ、こんな弟だが、私にとっては可愛い弟でね」
どこがだ、と隣から聞こえてきた。
「どうか、レナートのことを末永く頼む」
ランベルトが頭を下げたため、ウリヤナは慌てる。
「へ、陛下。どうか頭を上げてください」
「う~ん。陛下、ではなくお義兄様と呼んでもらいたいなぁ」
「兄上……」
今度は室内の気温がひゅっと下がった。
「なんだよ。呼び方くらい、いいじゃないか」
「よくない。減る」
「減るってなんだ、減るって」
そんなくだらない兄弟のやりとりを、羨ましく思う。
イーモンは元気だろうか。
「そうそう。ウリヤナには礼を言わねばと思っていたんだ。それもあって、今日、来たんだよ」
「だったら、その礼とやらを言ったら、いい加減、帰れ」
「妻と子には、三日くらいこっちにいると言ったからね。そんなすぐに帰ったら、私とレナートが喧嘩をしたと思われてしまうだろう?」
三日もいるつもりか、と隣から聞こえた。
今日から三日間、こんなやりとりが続くというわけだ。それを想像したら、つい笑みがこぼれる。
「ウリヤナ?」
レナートの眼差しを感じる。
「いえ、なんでもないよ。仲の良い兄弟だな、と思って。あ、陛下の前で失礼しました」
「そうそう。私とレナートの仲は良いのだよ。君たちのようにね。って、そうやってすぐに人を威嚇するのをやめてくれないか? そしてさりげなくウリヤナの腰に手を回すな」
この二人にとってはいつものことですから、とロイがこっそりと口にする。
それよりも彼に触れられている場所が熱い。
くだけたその言い方は、家族に対する言葉なのだろう。
「もう、会わせたからいいだろ? 帰れ」
国王に向かってそのような暴言を吐くレナートに、ウリヤナは視線を向ける。
「レナート。あなた、どうしたの? わざわざお兄様がいらしてくれたのでしょう?」
「そうだぞ、レナート。お前の兄が、わざわざこんな辺境まで足を運んだのだ。もう少し労われ」
「労わる気にならない。だから、帰れ」
「ウリヤナ。申し訳ない、こんな気の利かない弟で」
「お前はウリヤナをウリヤナと呼ぶな」
「はいはい。お茶が入りましたよ。お菓子もいかがですか?」
このまま兄弟口喧嘩が勃発するのではと思ったところで、ロイがテーブルにお茶とお菓子を並べ始めた。
「ねぇ、ロイ。レナートっていつもこんななの?」
彼の耳元でささやくと、ロイは「そうですよ」と言葉を続ける。
「ウリヤナ様が心配されるのもわかりますが。レナート様は、ランベルト様とお会いになったときはこんな感じです。つまり、いつものことですから、お気になさらないでください。ということです」
「そうなのね?」
「そうそう。レナートは私と会うと、いつもこんな感じだ。素直じゃない弟をもつと、苦労する。だから、ウリヤナ。そんな弟はやめて、私のところにこないか?」
ランベルトの言葉の意味がわからず、ウリヤナは首を傾げた。
「私の第二妃にならないか?」
「え?」
「兄上……」
ふわっと、室内の温度が高くなったような気がした。
「うわわわわ。レナート様、落ち着いてください。そして陛下、レナート様を焚きつけるようなことは言わないでください。この屋敷、なくなりますよ」
「おいおい。お前はいつから冗談も通じない男になったんだ? 昔からか」
冗談と聞いて、ウリヤナも安堵する。
ふん、と鼻から荒く息を吐いたレナートは、お茶を飲む。
「まぁ、だけど。レナートがウリヤナと政略的に婚姻関係を結んだわけではないとこれでわかったよ。ウリヤナ、こんな弟だが、私にとっては可愛い弟でね」
どこがだ、と隣から聞こえてきた。
「どうか、レナートのことを末永く頼む」
ランベルトが頭を下げたため、ウリヤナは慌てる。
「へ、陛下。どうか頭を上げてください」
「う~ん。陛下、ではなくお義兄様と呼んでもらいたいなぁ」
「兄上……」
今度は室内の気温がひゅっと下がった。
「なんだよ。呼び方くらい、いいじゃないか」
「よくない。減る」
「減るってなんだ、減るって」
そんなくだらない兄弟のやりとりを、羨ましく思う。
イーモンは元気だろうか。
「そうそう。ウリヤナには礼を言わねばと思っていたんだ。それもあって、今日、来たんだよ」
「だったら、その礼とやらを言ったら、いい加減、帰れ」
「妻と子には、三日くらいこっちにいると言ったからね。そんなすぐに帰ったら、私とレナートが喧嘩をしたと思われてしまうだろう?」
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この二人にとってはいつものことですから、とロイがこっそりと口にする。
それよりも彼に触れられている場所が熱い。
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