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5.彼女が知った日(4)

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「こちらこそ、驚かせてしまって申し訳ありません。その……子を授かったことにまったく気づいていなかったので」

 だが、そういった行為に及んだ事実はある。月のものもきていない。冷静になれば思い当たる節など多々あるのだ。
 彼女の言葉にも、レナートは大きく目を見開いた。その顔は「すまなかった」と言っている。

「悪かった……では、まだ医師にはみてもらっていないのだな?」
「はい」
「わけあり、なんだな?」

 ウリヤナは元聖女である。そして、イングラム国の王太子の婚約者でもあった。そのウリヤナが子を授かったとなれば、自然とその相手はわかるだろう。

「はい……ですが、レナート様は私のことをご存知なのですよね?」
「名前を聞いたことがあったからな。それでピンときただけだ」

 民からは「聖女様」と呼ばれていたため「ウリヤナ」という名は伝わっていないと思っていた。その名が通じるのは、王城と神殿のみだと思っていたのだ。

「それで。お前は修道院へいくつもりなのか? 悪いが、子は間違いなく授かっている。お前が不安になると、腹の子も不安になる。お前が喜べば、腹の子も喜んでいる」

 まだ実感のないお腹の上にそっと両手を添えた。だが、もうあそこには戻れない。だけど、腹に子を宿したまま修道院へ行くのも気が引ける。今であれば知らんぷりをしていくことはできるけれど、日が経つにつれお腹が大きくなっていけば、他の者にも迷惑をかけるだろう。

 そんなウリヤナの様子にレナートも気がついたのだろう。

「戻るつもりはないのだな?」
「はい」

 そこだけははっきりとしている。神殿にも王城にも、そしてカール子爵家の屋敷にも戻るつもりはない。
 コホンとレナートは咳ばらいをした。

「だったら……俺のところにくるか?」
「え、と……?」

 彼の言っている意味がわからない。いや、信じられない。ぱちぱちを目を瞬く。

「家には戻れないのだろう? 修道院にも行けないのだろう? だったら、腹に子を宿したままどこへ行くつもりなんだ?」
「それは、これから探そうかと……」

 そんな言い訳のような言葉を口にしながらも、ウリヤナを受け入れてくれるような場所があるとは思えない。
 だからこそ、修道院を選んだのだ。そこですら、このような状況になってしまっては難しいだろう。

「これから探すのであれば、その探した先が俺のところでも問題ないよな?」
「え、と。そう、そうですね……?」
「だったら、決まりだな。今の時期なら移動も負担にならないだろう。それに、俺が魔法でなんとかしてやるから、難しく考える必要はない」
「あ、はい……」

 レナートの勢いに負けてしまった気もする。だがウリヤナが押しかけたわけではなく、レナートが受け入れると言っているのだ。だからここは、素直にその好意を受け入れたほうがいいのだろう。

 それでも返事はしたがいいが、本当に子を産んでいいのかどうかを悩んでいた。
 実感はない。もしかしたら、レナートの嘘かもしれない。だが、月のものはきていない。

 たくさんの推測が、ぐるぐると頭の中に浮かび上がっては、消えていく。

「迷っているのか? その……子を産むことを……」
「え?」
「お前の腹の子が不安がっている……」
「そうですね……父親のいない子になりますから」

 だからといって、クロヴィスには絶対に伝えたくない。彼とはもう縁を切りたい。いや、切ったのだ。

 そっと腹の上を撫でる。医者にもみてもらっていないし、まだわからない。
 信じられないという気持ちがありながらも、レナートの言葉は素直に受け入れられる。

 彼はゴクリと喉元を上下させた。それから、静かに言葉を紡ぐ。

「だったら……俺がその子の父親になってもいいか?」
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