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3.彼女に告げた日(2)

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 コリーンは可能性があるならば、魔術師の道を目指したかった。だが、あの顔を見たら、それを父親が許すわけがない。

 聖女であるならば、まだしも――。

 いくら国家魔術師であっても、その地位は聖女には敵わない。聖女は、神との対話ができる聖なる乙女なのだ。国家魔術師は魔力が強く、その力を国のために使う存在。それでもコリーンは、今と異なる道があるのなら、それに挑戦したかった。

 そんな悔しい思いを抱きながら大広間へと向かい、ダンスの輪に混ざった。

 父親と踊るファーストダンスは可もなく不可もなく。ただ、父親は面白くなさそうに唇を真っすぐに閉ざしていただけだ。まるで、コリーンに興味などないかのように。

 娘の晴れのデビューなのだから、もう少し嬉しそうな表情をしてくれてもいいのに、とは思う。だが、それを望むだけ虚しくなる。

 その後、ウリヤナがカール子爵と共にやってきた。だがこのときコリーンは、彼女が聖女として認定されたことを知らなかった。

 真っ白いドレスに身をつつむウリヤナは、恥ずかしそうにはにかみながらカール子爵と踊っていて、そんな娘を見守る子爵の眼差しが羨ましいと思っただけ。周囲から心ない言葉がたくさん聞こえているはずなのに、幸せそうに見える彼女たちの姿が、胸に刺さっただけ。

 ウリヤナが神殿に入ると聞いたのは、それから十日後だった。
 意味がわからずカール子爵家を訪れると、ウリヤナは先日の魔力鑑定で聖なる力が認められたとのことだった。

『聖なる力? 聖女? ウリヤナが? すごいじゃない。私も友達として鼻が高いわ』

 コリーンがそう口にすれば、ウリヤナも悲しそうに微笑んだ。

『私が聖女だなんて……信じられない……』

 ――信じられないのであれば、その力を分けてほしい。

 どす黒い感情が、胸の奥にポツっと生まれる。

 ――優しそうな家族もいて、他の誰にもない能力を持ち合わせて。

 生まれた黒い感情は、次第に波紋のように広がっていく。

 ――あぁ、ウリヤナが羨ましい。

 波紋がすべてを満たした瞬間、コリーンの中に何かが生まれた。

 なぜそれが自分ではないのだろう。同じような地味な令嬢だと思っていたのに、なぜ彼女が聖女に選ばれたのか。
 ウリヤナと自分は、いったい何が違うというのか。

 そんな妬みがコリーンの中にふつふつと沸き起こる。

 それでも、その気持ちに気づかない振りをして、目尻をやわらげてウリヤナを見つめた。

『きっと、ウリヤナだからその聖なる力に選ばれたのよ。神殿に入るの? 気軽に会えなくなるのは寂しいけれど。だけど、ウリヤナならできるわ』

 聖女になった彼女は、姓を捨てる。つまり、ウリヤナ・カールという人間はいなくなり、彼女は聖女様となる。同じような地味な令嬢だったウリヤナは存在しなくなる。これからは、コリーン一人だけ。コリーンだけが、彼女たちから陰口を叩かれるのだ。

 沸々と沸き起こる恨みや羨望という名の感情に蓋をしながら、目の前のウリヤナを励ました。

 ウリヤナは、コリーンに感謝の言葉を口にした。

 その日はどうやって、自分の屋敷に戻ってきたのか、コリーンは覚えていない。

 わけのわからない感情が心と頭を支配して、泣きたいのか怒りたいのかさえもわからなかった。
 それからしばらくして、コリーンは侍女として王城に務めることとなった。父親がどこからか持ち込んできた話である。

 ――王城務めをして将来の伴侶を探せ。

 父親は口にしなかったが、そのような意図があるくらい、容易に想像できた。むしろ、ほとんどの子女がそうしている。

 だが、あの父親と離れられるのは僥倖でもあった。
 王城務めはよくもなく悪くもなく、ただコリーンにとっては父親と離れるための口実のようなものでもあると思っていた。
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