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だから彼女と結ばれた(3)

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◇◆◇◆◇◆◇◆

 テハーラの村は、王都から陸路を使うよりも航路を使ったほうが早い。それは、レオンクル王国が、海に面した国であり、弓なりのような形をしているためである。そして王都がレオンクル王国の北側にあって、テハーラの村が南側にあるからだ。
 王都からは三日ほど船に揺られ、降りた港から二時間ほど馬車に乗って着いた先にテハーラの村がある。

 村の入り口で馬車を降りると、モォー、モォーと牛の鳴き声に出迎えられた。

「サディアス様、まずは村長の屋敷へと向かいましょう」

 連れて来た侍従は二人。目立つ行動はしたくなかった。船の中でも、サディアスをサディアスであると気づいた者はいないだろう。髪と顔を隠すかのようにフードを深くかぶっていた。

「そうだな」

 侍従の言葉に従い、サディアスものんびりと歩き出す。手にしている荷物も最小限である。

「本当に田舎……長閑なところですね」

 侍従の言葉を聞きながら、サディアスは大きく首を振った。右手のほうには地平線が見える。その手前には、牛が放牧されているのか、白と黒の塊が数えきれないほどいる。先ほどから聞こえる声の主だろう。

「サディアス様。村長の屋敷は、あそこです」

 一本道の先の小高い丘にある屋敷。その手前には、似たような家が道の両脇に建ち並ぶ。石灰岩で造られた壁に、茶色の三角屋根。田舎にある、心があたたまるような素朴な家。王都にある建物とは雰囲気もがらっと異なる。
 その先にある屋敷は、他の建物よりも一際大きくでっぷりとかまえていて、村全体を見下ろすかのように建っていた。

 この時間帯は、外にいる人が多い。畑仕事だったり、家畜の世話をしたり。先ほどから、やたらと人の姿が目に入った。だが、サディアスの歩いている道からは遠い場所にいるためか、その人だって指一本分の大きさにしか見えない。

 テハーラの村は畜産業が盛んな村である。そんな動物たちの鳴き声が、よりいっそうこの村に穏やかな印象を与えていた。
 馬車一台がやっと通れるような道を進み、村長の屋敷に着いた。

 侍従が叩き金を叩く。

 コツコツ、コツコツ――。

 しばらくして扉が開くと、エプロン姿の女性が姿を現した。不審そうにこちらを見ている。
 侍従が幾言か声をかけると「旦那様は不在ですので、若旦那様に聞いてまいります」とのことだった。
 侍従はその態度に不機嫌そうな表情を見せたが、ただの使用人に判断ができないのは当たり前だろう。それに、サディアスだって身分を隠して訪れている。それを考えれば、この使用人の態度は妥当なのだ。
 不機嫌そうな侍従をなだめるため、サディアスが声をかけると、彼はばつが悪そうに顔をしかめた。この状況をすぐに理解したようだ。

 ふたたび扉が開くと「若旦那様がお会いになるそうです」とのことで、中へと招き入れられた。

 テハーラ村がレオンクル王国の一部になったのも、ここ数十年のことだと聞いている。だから国直轄の村であり、その村をまとめている村の代表を村長と呼んでいる。
 村が国の一部となったとき、当時の国王は村長に男爵位を授けた。
 それが今の村長の前の村長であると記憶している。
 男爵位は一代限りのものであるため、村長が村長になるときに、国王はその村長に男爵位を授けている。

 村長の屋敷といっても、しょせんは田舎の屋敷であり、内装もどこか野暮ったく感じる。それでも掃除は行き届いていた。

「どうぞ、こちらの部屋です」

 ホールを抜けて応接間へと案内された。

「すぐに若旦那様が来ますので、こちらでお待ちください」

 サディアスはソファにゆっくりと腰をおろした。侍従たちは、彼の後ろに並んで立つ。
 この光景で、案内した使用人も関係性を把握したのだろう。
 手早くワゴンを運んできて、サディアスの前にだけお茶と菓子を置く。

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