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だから彼女と結ばれた(2)
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カメロンとラッティは幼馴染みで、歩けるようになる前から、互いの家を行き来していたような仲だ。というのも、両親の仲が良かったからである。
特に、ラッティの母親とカメロンの母親は、妊娠と出産の時期が近かったことから、互いに不安や愚痴をこぼし合っていた。
先にカメロンが産まれ、それから三か月後にラッティが産まれた。けれども、ラッティの母親は産後の肥立ちが悪く、ラッティを産んでから一か月後に亡くなった。
カメロンの母親は、ラッティの母親の分までラッティの世話をしてくれた。カメロンの家は裕福だったから、ラッティの父親もそれに甘えていた。
ときに喧嘩もしながら、ラッティとカメロンの二人はすくすくと育つ。
兄と妹のように育った二人は、成長すると同時に、お互いが家族の存在とは違うものであると気づいた。
むしろ血の繋がった兄妹でもない。
好意を寄せあい、互いが互いを想う気持ちを自覚するのも、時間の問題であった。
ラッティとカメロンがそういった関係になるのをカメロンの両親は喜んだし、ラッティの父親もほのかに笑顔を見せた。
カメロンの母親はラッティにとっても母親のような存在であり、カメロンの母親からみてもラッティは娘のような存在だった。
だから、そのうち二人は結婚をして、幸せな家族を築くものだと、村の人たちの誰もがそう思っていた。
――あの日、神殿から神官たちがやってくるまでは。
その日は朝から、どんよりとした鼠色の雲が、空を覆っていた。
夕方になると、王都からわざわざ神官たちが、こんな辺鄙な村にまでやって来た。
神官といえば、この国を庇護する竜の代理人とも呼ばれるような人たちである。そんな人たちが、なぜこの村にやってきたのか、さっぱりわからなかった。
だがその日の夕食の時間、ラッティは父親の様子がおかしいことに気づいた。
食事をとる手が止まっている。
『お父さん、どうしたの?』
ラッティが尋ねると『あいつらは、あいつらは……』と消え入るような声で呟いている。
あいつらが神官たちを指すのだろうと、ラッティは思っていたが、それ以上、父親へ問い質そうとはしなかった。
そんな父親の様子が心配ではあったが、その日はラッティもいつもと同じようにやり過ごす。
次の日の朝は、早くからカメロンが家にやってきた。
『おはよう、カメロン。今日は早いのね』
『おはよう、ラッティ。おじさんはいる?』
『ええ。いるわよ。だけど、ちょっと寝ぼけてるみたい』
ラッティの言葉通り、ソファに座っていた父親はぼんやりとしていた。
『カメロンは、朝ご飯は食べたの?』
『いや。まだだ……。あいつらがいて、落ち着かなくて……』
カメロンの言うあいつらも、神官たちのこと。
『だったら、食べていく?』
『いいのか?』
カメロンは破顔する。それでもすぐに顔を引き締めた。
『あ、いや。今日は、おじさんに話があってきたんだ……』
『じゃ、それが終わってから。私はその間にご飯の用意をしておくね。お父さんもまだだから』
ラッティはキッチンへと消えていく。
その間、カメロンはラッティの父親と話を始める。
キッチンにいるラッティには、彼らの会話がぼそぼそと聞こえていた。ただ、ときどき父親が大声をあげるのが気になっていた。
ラッティが朝食をダイニングテーブルの上に並べ終え、二人を呼びに行く。
『お父さん……?』
父親は泣いていた。この状況を見たら、父親を泣かせたのはカメロンだろう。
『カメロン。何があったの?』
カメロンも泣きそうな顔をしていた。
『どうして、ラッティなんだ……』
『……え?』
父親の呟きにラッティも聞き返す。
『おじさん、ラッティには俺から話します』
そう言ったカメロンは、ラッティを部屋から連れ出した。そして、神官たちがやってきた理由をぽつぽつと話し始める。
黙って聞いていたラッティであるが、彼女は淡々とそれを受け入れた。
特に、ラッティの母親とカメロンの母親は、妊娠と出産の時期が近かったことから、互いに不安や愚痴をこぼし合っていた。
先にカメロンが産まれ、それから三か月後にラッティが産まれた。けれども、ラッティの母親は産後の肥立ちが悪く、ラッティを産んでから一か月後に亡くなった。
カメロンの母親は、ラッティの母親の分までラッティの世話をしてくれた。カメロンの家は裕福だったから、ラッティの父親もそれに甘えていた。
ときに喧嘩もしながら、ラッティとカメロンの二人はすくすくと育つ。
兄と妹のように育った二人は、成長すると同時に、お互いが家族の存在とは違うものであると気づいた。
むしろ血の繋がった兄妹でもない。
好意を寄せあい、互いが互いを想う気持ちを自覚するのも、時間の問題であった。
ラッティとカメロンがそういった関係になるのをカメロンの両親は喜んだし、ラッティの父親もほのかに笑顔を見せた。
カメロンの母親はラッティにとっても母親のような存在であり、カメロンの母親からみてもラッティは娘のような存在だった。
だから、そのうち二人は結婚をして、幸せな家族を築くものだと、村の人たちの誰もがそう思っていた。
――あの日、神殿から神官たちがやってくるまでは。
その日は朝から、どんよりとした鼠色の雲が、空を覆っていた。
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神官といえば、この国を庇護する竜の代理人とも呼ばれるような人たちである。そんな人たちが、なぜこの村にやってきたのか、さっぱりわからなかった。
だがその日の夕食の時間、ラッティは父親の様子がおかしいことに気づいた。
食事をとる手が止まっている。
『お父さん、どうしたの?』
ラッティが尋ねると『あいつらは、あいつらは……』と消え入るような声で呟いている。
あいつらが神官たちを指すのだろうと、ラッティは思っていたが、それ以上、父親へ問い質そうとはしなかった。
そんな父親の様子が心配ではあったが、その日はラッティもいつもと同じようにやり過ごす。
次の日の朝は、早くからカメロンが家にやってきた。
『おはよう、カメロン。今日は早いのね』
『おはよう、ラッティ。おじさんはいる?』
『ええ。いるわよ。だけど、ちょっと寝ぼけてるみたい』
ラッティの言葉通り、ソファに座っていた父親はぼんやりとしていた。
『カメロンは、朝ご飯は食べたの?』
『いや。まだだ……。あいつらがいて、落ち着かなくて……』
カメロンの言うあいつらも、神官たちのこと。
『だったら、食べていく?』
『いいのか?』
カメロンは破顔する。それでもすぐに顔を引き締めた。
『あ、いや。今日は、おじさんに話があってきたんだ……』
『じゃ、それが終わってから。私はその間にご飯の用意をしておくね。お父さんもまだだから』
ラッティはキッチンへと消えていく。
その間、カメロンはラッティの父親と話を始める。
キッチンにいるラッティには、彼らの会話がぼそぼそと聞こえていた。ただ、ときどき父親が大声をあげるのが気になっていた。
ラッティが朝食をダイニングテーブルの上に並べ終え、二人を呼びに行く。
『お父さん……?』
父親は泣いていた。この状況を見たら、父親を泣かせたのはカメロンだろう。
『カメロン。何があったの?』
カメロンも泣きそうな顔をしていた。
『どうして、ラッティなんだ……』
『……え?』
父親の呟きにラッティも聞き返す。
『おじさん、ラッティには俺から話します』
そう言ったカメロンは、ラッティを部屋から連れ出した。そして、神官たちがやってきた理由をぽつぽつと話し始める。
黙って聞いていたラッティであるが、彼女は淡々とそれを受け入れた。
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