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だから彼女を好いていた(6)

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 とりあえず一通り子どもたちの様子をみておきたい。次は編み物をしている子どもたちへと足を向けた。

「きれいに編めているね」

 サディアスが声をかけると、女の子はぽっと頬を赤らめた。

「あの、サディアス様」

 女の子は頬を赤らめたまま、サディアスを見上げた。

「なに?」
「サディアス様は、編み物がわかりますか?」
「ごめん。僕は、編み物をしないから」
「そうですか。ちょっとわからないところがあったので、教えていただきたかったのです。ラティアーナ様が来てくださらないので……」

 ここでもラティアーナである。子どもたちにとって、ラティアーナが教師役だったのだ。

「ラティアーナ様は、もう、来られないのですか?」
「ラティアーナ様は聖女をやめられたので。詳しいことは神殿に聞かないとわからないのです」
「そうなのですね」

 彼女の表情は暗くなった。

 なんとも言えない重い気持ちを抱えたまま、サディアスは他の場所へと移動する。厨房ではマザーと子どもたちが夕食の準備に取り掛かっていた。
 保管されている食材をちらりと確認したが、マザー長が言っていた通り、その量が十分ではないように見える。むしろ、キンバリーが寄付をしているのだから、もう少しましな食材を用意できるのではないだろうか。

「状況は、わかりました……」

 あまりにもの現状に、喉の奥がひりひりとした。以前、ラティアーナがまだ聖女であったときに訪れた孤児院は、こんな状況ではなかったはず。

 マザー長は深く頭を下げた。

 外からはにぎやかな子供たちの声が聞こえている。何をしているのかと思って、外に出てみると、力に自信があるような男の子たちが、薪割りをしていた。こういった力仕事は、人を雇っていたはずなのに。

 ちらりと、マザー長に視線を向けると、彼女は目を逸らした。

「資金が、足りておりませんので……」

 彼女の言葉で理解した。
 他の人に頼めば報酬が発生する。その報酬を支払えないのだ。

 キンバリーの寄付金は、どこに消えたのだろうか。

 孤児院の視察を終え、サディアスは馬車へと乗り込んだ。王城へと向かう。
 カラカラと車輪の回る音が聞こえてくるが、その音は頭の中を勝手に通過していく。深く沈思に耽る。

 半年ほど前、まだラティアーナが聖女であった頃に訪れた孤児院と、今日の孤児院では状況が大きく異なっていた。

 ラティアーナの存在は、孤児院にとっても大きく影響を与えていた。特に子どもたちへの影響は計り知れない。
 ラティアーナを慕っていた子どもたちは、彼女からたくさんの教えを乞いでいた。そんな彼女の代わりになれるような人物は、ぱっと思い浮かばない。
 本来であればアイニスがその役に望ましい。だが、彼女には無理だろう。ただでさえ、現状に手一杯なのだ。

 ラティアーナはどこでも特別な存在なのだ。

 それは、サディアスにとっても――。
 それでもキンバリーの婚約者だからという事実が、その想いに枷をつけた。
 それは今も変わりはない。

 キンバリーがラティアーナを必要としているから、こうやって彼女の足跡をたどっているだけで。

 ぎゅっと、胸がしめつけられた。
 彼女がいなくなる前にこの気持ちをぶつけていたら、現状は変わっていたのだろうか。
 ラティアーナは、自分の隣で微笑んでいたのだろうか。

「……さま、サディアス様」

 侍従に呼ばれ、現実へと引き戻される。
 どうやら、王城へと着いてしまったようだ。

「庭園を散歩してから、戻る」

 サディアスの言葉に、侍従は頭を下げた。

 日は落ち始め、作り出された影もだいぶ長い。
 この庭園は、よくラティアーナと話をした場所だ。

 風に乗るかのようにして歌声が聞こえてきたような気がした。
 頭を振って、その幻聴を追い払った。
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