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だから彼女を騙した(6)
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「我々としては、勝手に婚約を破棄した王太子殿下に腹立たしい思いはあります。ラティアーナは忙しい時間の合間をぬって、王太子妃の教育を受けるために王城へも通っておりました」
「はい。それは重々承知しております。ですが、兄はこちらの神殿に個人的に援助をしていたという認識です。その援助が適切に使われなかったため、今回の婚約を破棄したと。神殿とのつながりを断ち切ろうとしたわけです」
「王太子殿下の寄付は受け取りました。ありがたいことです」
神官長は目を細くした。少し穏やかな表情になったのは、心からの感謝の表れだろうか。
「その寄付は、神殿での食事改善のために使ってほしいと寄付したものであると、認識しております」
「はい、王太子殿下のおかげで、食事は少しずつ改善されております」
「ですが、ラティアーナ様は……。まともな食事をとられていなかったようですが?」
そこでサディアスは視線を鋭くする。キンバリーの寄付がどのように使われていたのか、それを把握したいのだ。
「ラティアーナは食が細いのです。こちらが食べるようにと食事をすすめても、彼女は少しばかりのパンとスープで十分だと、そう言っておりましたね。もし、神殿内での食事を疑うのであれば、あとで食堂も見学していってください。やましいところなどありませんから」
「わかりました。あとで、確認させていただきます」
そうサディアスが返事をすると、神官長も満足そうに頷いた。
「ところで。もう一つ確認したいことがあるのですが」
「なんなりとどうぞ。我々に、やましいことなどございませんから」
「兄からの寄付金で、ラティアーナ様がドレスを仕立てられたというのは事実ですか?」
神官長の目は、ぐりぐりと大きく見開いた。
「ええ。ラティアーナが王城へ行くのに、巫女姿のみすぼらしい服ではかわいそうだと思いましてね。王太子殿下の婚約者としてふさわしい服を仕立てるようにと、彼女には言ったのです。ですが、彼女もそういったことには疎いようでしたので、ドレスはすべて仕立て屋にまかせました」
神官長が嘘をついている様子はみられない。
神殿がけして裕福ではないこともわかっている。
聖女のドレスを仕立てる。そしてその婚約者が寄付金を出した。となれば、その金から出すのが妥当なのかもしれない。
――この金でドレスを仕立てろ。
渡された寄付金を、そういった意味でとらえたのだろうか。
サディアスは話題を変える。
「アイニス様は、こちらではどのような様子でしょう」
ラティアーナのドレスの件は、なんとなく話がみえた。となれば次は、アイニスのことを聞いておきたい。
サディアスの問いに、神官長は大げさに息を吐くと、頭を左右に振る。
「本来であれば、神殿で生活をしていただきたいのです。竜王様の側にいることで、竜王様と共にその聖なる力が高められるのです。アイニスは竜王様に認められた聖女ではありませんから、こちらでの生活には抵抗があるかもしれません。ですが、せめて王太子殿下と結婚するまではこちらに来ていただけないでしょうか」
アイニスが三日に一度の神殿での務めを嫌がっているため、彼女の様子のさぐりをいれたかった。だが、やはり神殿側としては、聖女を神殿におきたいようだ。むしろ、竜の側にいてほしいのか。
「その件は僕の一存ではどうしようもできませんので、兄とアイニス様にはそれとなく伝えるようにします。神殿からの希望ということで」
「希望ではなく、慣例であると伝えていただけますか?」
「承知しました……ところで、竜と会うことはできますか?」
キンバリーからも、竜の現状を確認してほしいと言われた。
サディアスが神殿を訪れたのも、ラティアーナの居場所、アイニスの現状、そして竜についてと、すべてが神殿とかかわるものである。
「ええ、問題ありません。ですが、アイニスが側にいないので、多少は目をつむっていただきたい点もありますが、よろしいですか?」
「はい。問題ありません」
アイニスがいないことで、竜にどのような変化があるのかも知りたかった。
「はい。それは重々承知しております。ですが、兄はこちらの神殿に個人的に援助をしていたという認識です。その援助が適切に使われなかったため、今回の婚約を破棄したと。神殿とのつながりを断ち切ろうとしたわけです」
「王太子殿下の寄付は受け取りました。ありがたいことです」
神官長は目を細くした。少し穏やかな表情になったのは、心からの感謝の表れだろうか。
「その寄付は、神殿での食事改善のために使ってほしいと寄付したものであると、認識しております」
「はい、王太子殿下のおかげで、食事は少しずつ改善されております」
「ですが、ラティアーナ様は……。まともな食事をとられていなかったようですが?」
そこでサディアスは視線を鋭くする。キンバリーの寄付がどのように使われていたのか、それを把握したいのだ。
「ラティアーナは食が細いのです。こちらが食べるようにと食事をすすめても、彼女は少しばかりのパンとスープで十分だと、そう言っておりましたね。もし、神殿内での食事を疑うのであれば、あとで食堂も見学していってください。やましいところなどありませんから」
「わかりました。あとで、確認させていただきます」
そうサディアスが返事をすると、神官長も満足そうに頷いた。
「ところで。もう一つ確認したいことがあるのですが」
「なんなりとどうぞ。我々に、やましいことなどございませんから」
「兄からの寄付金で、ラティアーナ様がドレスを仕立てられたというのは事実ですか?」
神官長の目は、ぐりぐりと大きく見開いた。
「ええ。ラティアーナが王城へ行くのに、巫女姿のみすぼらしい服ではかわいそうだと思いましてね。王太子殿下の婚約者としてふさわしい服を仕立てるようにと、彼女には言ったのです。ですが、彼女もそういったことには疎いようでしたので、ドレスはすべて仕立て屋にまかせました」
神官長が嘘をついている様子はみられない。
神殿がけして裕福ではないこともわかっている。
聖女のドレスを仕立てる。そしてその婚約者が寄付金を出した。となれば、その金から出すのが妥当なのかもしれない。
――この金でドレスを仕立てろ。
渡された寄付金を、そういった意味でとらえたのだろうか。
サディアスは話題を変える。
「アイニス様は、こちらではどのような様子でしょう」
ラティアーナのドレスの件は、なんとなく話がみえた。となれば次は、アイニスのことを聞いておきたい。
サディアスの問いに、神官長は大げさに息を吐くと、頭を左右に振る。
「本来であれば、神殿で生活をしていただきたいのです。竜王様の側にいることで、竜王様と共にその聖なる力が高められるのです。アイニスは竜王様に認められた聖女ではありませんから、こちらでの生活には抵抗があるかもしれません。ですが、せめて王太子殿下と結婚するまではこちらに来ていただけないでしょうか」
アイニスが三日に一度の神殿での務めを嫌がっているため、彼女の様子のさぐりをいれたかった。だが、やはり神殿側としては、聖女を神殿におきたいようだ。むしろ、竜の側にいてほしいのか。
「その件は僕の一存ではどうしようもできませんので、兄とアイニス様にはそれとなく伝えるようにします。神殿からの希望ということで」
「希望ではなく、慣例であると伝えていただけますか?」
「承知しました……ところで、竜と会うことはできますか?」
キンバリーからも、竜の現状を確認してほしいと言われた。
サディアスが神殿を訪れたのも、ラティアーナの居場所、アイニスの現状、そして竜についてと、すべてが神殿とかかわるものである。
「ええ、問題ありません。ですが、アイニスが側にいないので、多少は目をつむっていただきたい点もありますが、よろしいですか?」
「はい。問題ありません」
アイニスがいないことで、竜にどのような変化があるのかも知りたかった。
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