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だから彼女を騙した(5)
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「サディアス様は、ラティアーナが南のテハーラの村の出身であるのはご存知ですか?」
「ええ。あそこは、とてものんびりとした村のようですね。足を運んだことはありませんが……」
アイニスから話を聞き、サディアスはテハーラの村についてすぐに調べた。ラティアーナの故郷と知り、この村を調べなければならないと、そう思ったのだ。
衝動的な気持ちと、義務的な思いからくる行動でもあった。
「ラティアーナを聖女にと望んだのは竜王様です。彼女は、誰よりも聖女に相応しい女性でした。だから、わざわざテハーラの村から、こちらへと来てもらったのです」
神殿に仕える者は、庇護する竜を竜王様と呼んでいる。その言葉に、サディアスには引っかかるものがあった。
竜様では響きが寂しいかもしれないが、竜王様と王がつくとニュアンスは異なる。王とは支配する者であったり、同族の中でもっとも優れた者であったりする。となれば、この国を庇護する竜は、竜の中でももっとも優れている竜なのだろうか。とはいえ、この国に竜は神殿にいる竜しかいない。
「我々だって、彼女の両親から彼女をさらってきたわけではないのですよ。きちんと話をして、説得して、名誉あることだと。この国を救えるのはラティアーナだけだと、そう伝えたのです」
やはりラティアーナは、ここに望まれて聖女になったのだ。
「ですが、サディアス様。ラティアーナとの婚約を王族側だって認めましたよね? むしろ、喜ばれたのではないですか?」
神官長の言葉は正しい。
婚約の提案をしてきたのは神殿側であるが、それを喜んで受け入れたのは王族側である。それに、この話を聞いたキンバリーは、どこか嬉しそうで恥ずかしそうにも見えた。
対等にあると言われている王族と神殿の関係だが、国を庇護する竜と聖女がいるかぎり、国は神殿に逆らえない。だが、国には金がある。その金をちらつかせることで、神殿と対等な関係を築いているのだ。
つまり力があるか、金があるか。
力があるのが神殿で、金があるのが国。それで均衡を保っている。
その関係をさらに友好的なものであると国民に見せつけるために、王太子と聖女の婚約を心から喜んだのは国王なのだ。
「ええ。神官長のおっしゃる通りです」
「別に、この神殿は神官や巫女の結婚を禁じているわけではありませんから。もちろん、聖女の結婚も許されております。王太子殿下と婚約したことで、ラティアーナが幸せであるなら、それでいいと思っておりました。ですが、現実とは非情なものですね」
その言葉に、サディアスもひくっとこめかみを震わせる。
「どういう意味、でしょうか?」
一際低く、尋ねた。目を狭めて、神官長を鋭く睨みつける。
「サディアス様もご存知でしょう。陛下の即位二十周年記念パーティーでの茶番劇を。王太子殿下がラティアーナに婚約破棄を突きつけ、ラティアーナは自らの意思で聖女を辞めた。本来であれば、これはあってはならないのです」
聖女が次の聖女を指名するときには、相手もそれを受け入れる覚悟が必要だと神官長は言った。そうでなければ『聖女の証』が次期聖女にふさわしくないと反応するらしい。
だが、あのときのアイニスは聖女になりたがっていた。したがって、難なくアイニスが次期聖女となったのだ。
「先ほども申し上げましたが、ラティアーナ様は聖女だったから兄と婚約したと。本人はそう思っていたようですね。婚約者でなくなれば、必然と聖女でなくなる。だから、アイニス様が兄の婚約者として指名されたことで『聖女の証』を託した。ようは、王太子の婚約者が聖女であると、そう判断したのでしょう」
その通りですと、神官長も首肯する。
「ええ。あそこは、とてものんびりとした村のようですね。足を運んだことはありませんが……」
アイニスから話を聞き、サディアスはテハーラの村についてすぐに調べた。ラティアーナの故郷と知り、この村を調べなければならないと、そう思ったのだ。
衝動的な気持ちと、義務的な思いからくる行動でもあった。
「ラティアーナを聖女にと望んだのは竜王様です。彼女は、誰よりも聖女に相応しい女性でした。だから、わざわざテハーラの村から、こちらへと来てもらったのです」
神殿に仕える者は、庇護する竜を竜王様と呼んでいる。その言葉に、サディアスには引っかかるものがあった。
竜様では響きが寂しいかもしれないが、竜王様と王がつくとニュアンスは異なる。王とは支配する者であったり、同族の中でもっとも優れた者であったりする。となれば、この国を庇護する竜は、竜の中でももっとも優れている竜なのだろうか。とはいえ、この国に竜は神殿にいる竜しかいない。
「我々だって、彼女の両親から彼女をさらってきたわけではないのですよ。きちんと話をして、説得して、名誉あることだと。この国を救えるのはラティアーナだけだと、そう伝えたのです」
やはりラティアーナは、ここに望まれて聖女になったのだ。
「ですが、サディアス様。ラティアーナとの婚約を王族側だって認めましたよね? むしろ、喜ばれたのではないですか?」
神官長の言葉は正しい。
婚約の提案をしてきたのは神殿側であるが、それを喜んで受け入れたのは王族側である。それに、この話を聞いたキンバリーは、どこか嬉しそうで恥ずかしそうにも見えた。
対等にあると言われている王族と神殿の関係だが、国を庇護する竜と聖女がいるかぎり、国は神殿に逆らえない。だが、国には金がある。その金をちらつかせることで、神殿と対等な関係を築いているのだ。
つまり力があるか、金があるか。
力があるのが神殿で、金があるのが国。それで均衡を保っている。
その関係をさらに友好的なものであると国民に見せつけるために、王太子と聖女の婚約を心から喜んだのは国王なのだ。
「ええ。神官長のおっしゃる通りです」
「別に、この神殿は神官や巫女の結婚を禁じているわけではありませんから。もちろん、聖女の結婚も許されております。王太子殿下と婚約したことで、ラティアーナが幸せであるなら、それでいいと思っておりました。ですが、現実とは非情なものですね」
その言葉に、サディアスもひくっとこめかみを震わせる。
「どういう意味、でしょうか?」
一際低く、尋ねた。目を狭めて、神官長を鋭く睨みつける。
「サディアス様もご存知でしょう。陛下の即位二十周年記念パーティーでの茶番劇を。王太子殿下がラティアーナに婚約破棄を突きつけ、ラティアーナは自らの意思で聖女を辞めた。本来であれば、これはあってはならないのです」
聖女が次の聖女を指名するときには、相手もそれを受け入れる覚悟が必要だと神官長は言った。そうでなければ『聖女の証』が次期聖女にふさわしくないと反応するらしい。
だが、あのときのアイニスは聖女になりたがっていた。したがって、難なくアイニスが次期聖女となったのだ。
「先ほども申し上げましたが、ラティアーナ様は聖女だったから兄と婚約したと。本人はそう思っていたようですね。婚約者でなくなれば、必然と聖女でなくなる。だから、アイニス様が兄の婚約者として指名されたことで『聖女の証』を託した。ようは、王太子の婚約者が聖女であると、そう判断したのでしょう」
その通りですと、神官長も首肯する。
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